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2008年6月11日号 No.89

『ビギナーズ鍼灸 HARIなび』へのいざない


「東洋医学なんて不要だ!?」
と思っているA君へ


明治国際医療大学 篠原昭二

 鍼灸師を目指す学生を教え始めてはや30年になる。東洋医学的な治療の魅力を知らずに単なる圧痛点治療に走る者、難解な中医弁証を学ぶ過程で挫折する者、どの流派の治療を修得すればいいのか路頭に迷う者、そんな学生(ビギナーズ鍼灸師)を数多く見てきた。迷えるビギナーズ鍼灸師に、東洋医学的な鍼灸治療を身につけるうえでの道標を示せないものか。そんな思いで、このたび1冊の本をしたためた。『ビギナーズ鍼灸 HARIなび~初学者のための鍼灸臨床マニュアル~』である。ここで、本書の全文を掲載することはできないが、冒頭で登場するA君に関する一文を紹介することで、同じ境遇にある「あなた」を、東洋医学を含む鍼灸医学の深遠な世界の入り口へ誘いたい。

 
(なお、誤解を招くといけないので最初に断っておくが、明治国際医療大学では、3年次で国家試験を受けて、4年次にははり師きゅう師の資格を得て、積極的な臨床研修を行っている。中でも鍼灸センターでは、教育機関として、学生さんの診断・治療実習に患者さんのご理解と同意を得て、指導教員の指導の元で実際の診断から治療までの過程を厳しく指導を受けながら実践している。ここで紹介する患者さんも毎週健康管理のために通院されている方ばかりであり、事前の説明をして、同意を得た上で行っている)

東洋医学なんて不要だ!?

ビギナーズ鍼灸 HARIなび~初学者のための鍼灸臨床マニュアル~(篠原昭二著) 「東洋医学なんて不要だ?」

 このような素朴な疑問は、初学者であれば誰しも感じることではないだろうか?

 ある時、相当頭が良く、要領も良く(テストのヤマを当てるのがうまい?!)、現代医学的な圧痛点治療こそが鍼灸の醍醐味で、胡散臭い東洋医学の理論は国家試験のためだけだ……という学生A君が外来実習で回ってきた。3年生で国家試験に合格してからは近所の人たちには、無料での鍼灸治療もバンバンやっており、「自信があるし患者さんにも感謝されているのだ」とも言う。そして、「東洋医学的な知識や技術は自分のこれからの臨床に必要性を感じていない」とも言った。

雨天で悪化するむち打ち後遺症の患者さんを担当

 そんなA君に対し、第1週目はむち打ち後遺症で雨天によって症状が悪化する(重だるくなる)という56歳の女性を担当してもらった。すると、「頚肩部の緊張・圧痛点への雀啄刺激で十分効果が期待できるはずだ」と言う。そこで、これまでは頚肩部の治療もするけれども、切皮置鍼しかしたことがないからよく患者さんに説明して、了解を得てから治療するように指示した。A君は愁訴部位を把握するのもスムースで、治療も痛みを起こすことなくスピーディーに行った。

 1週間後、再度その患者さんをA君の担当にして継続して治療させようとしたとき、患者さんから治療を拒絶されてしまった。その理由は、治療直後には後頚部の軽い感じがしたものの、家に帰りついた頃からどんどん後頚部が重だるくなり、ズキズキと痛むようになり、耐えがたかった。また、いつもなら頚部だけでなく、治療後には気分も良くなり、全身的な爽快感があったのに、今回は頚と他の部位とのアンバランスがとても不快だったことから、二度とA君の治療を受けたくないとのことである。

ストレスが原因で生じる肩こり患者さんを担当

 仕方なくA君には、頑固な肩こりを有する60歳の女性を担当してもらった。肩こりは、肩から首にかけて詰まってくるようなこりで、頭を動かしても痛みや筋肉のひきつり感は自覚していない。ストレスが強く、肩が詰まってくると耐えがたく、じっとしていられないほどだという。患者さんの症状を聞いた途端、A君はいやな顔をしたが、あえて担当してもらった。やはり、平素から全身的な治療を中心にして頚肩部の局所にはほとんどきつい鍼治療はしていなかったが、「局所治療のとても上手な先生に担当してもらいますから」と言うことで、A君の治療を受けていただいた。1週間後の再診時にはやはり前回と同様で、「二度と受けたくない」とのこと。「治療直後にいつもは自覚される爽快感がなく、軽いような感じはするものの、時間経過とともに微熱が出、鍼治療を受けたあちこちがズキズキと痛み、たまらなかった」と言う。

瘀血タイプの不定愁訴の患者さんを担当

 仕方なく、今回も別の患者さんを担当してもらうこととした。3人目の患者は、不定愁訴と肩こり、腰痛を訴える49歳の女性。顔色は黒く、皮膚はかさつき荒れており、かなり神経質で知覚過敏なタイプである。A君の反応は以前にまして深刻な表情であったが、過敏なタイプなので刺激量に注意するよう指示して治療を担当してもらった。

 今回は治療途中でしばしば刺鍼時の痛みを訴えられ、置鍼しているときにもあちこちの刺鍼部位の痛みを訴えて、抜鍼を余儀なくされた。治療直後の効果は全くなく、最終的には最後まで治療を単独で継続することができなかった。

どうして僕の嫌いなタイプの患者さんばかり担当させるのですか!?

 3例目の治療が終了した段階でA君は、「どうして僕の嫌いなタイプの患者さんばかり担当させるのか!」と、非難してきた。

 1例目は、脾虚がベースにあるために水分代謝が良くない(脾の運化作用の失調)ことから、体が重だるくなりやすい(湿・痰)体質であり、精神的に落ち込みやすく、おなかの調子を悪くすると症状はてきめんに悪化することから、脾胃の働きを整えるような治療によって、小便が多量に排出されるとこり感は減少するタイプである。しかし、局所の治療しかしなかったために、バランスが崩れて症状の増悪をきたしたものである。

 2例目は、ストレスによる肝郁気滞をベースとする症例で、イライラや怒りによって気滞症状が悪化すると肩全体の詰まった感じを訴えるものである。頚肩部の皮膚を母指と示指の指先で軽く摘むと耐えがたい痛みを訴えるの(気滞の特徴的症状)が特徴である。合谷や太衝といった、理気(気滞をとる)、疏肝作用のあるツボに浅く瀉法の刺激をすると症状の軽減を得やすい病態であるが、そういった治療をすることなくいきなり局所の深刺・雀啄をしたために気滞をとるよりも深部の瘀血を作って、痛みが増悪したものである。微熱は強刺激によって気虚をきたしたことによる気虚発熱と思われた。

 3例目は、体質的に気虚血瘀タイプであり、過敏で神経質(気虚に多い)、血の巡りが悪いことから強い疼痛(血瘀)を訴えるものである。気虚であるにもかかわらず、圧痛点を探して深刺で置鍼をしたために、置鍼中から痛みを訴え始めたものである。最後まで治療をしたならば、ひどい場合には痛みの増悪で救急車を呼ぶ羽目になるかも知れなかったケースである。もちろん治療は、もっぱら気虚を補うために脾・肺を中心とした経穴のうち、表在の軟弱、発汗した気虚症状を呈するツボに浅刺するか、温灸で温補(直接灸でも可)するのが一番良く、肩こりの部分は、小児鍼や浅刺での散鍼をするだけで症状はとれてしまうものである。ただし、じっとしていても肩甲間部がズキズキするというような場合には、活血化瘀(瘀血をとる)の治療が必要であり、三陰交、血海、膈兪といった活血化瘀作用のあるツボの深部の硬結に刺鍼して、瀉法を行うなどの治療を行うと効果的な場合が多い。

現代医学と東洋医学は病を測る物差しが違う

 これら3症例はいずれも局所治療では十分な効果が得られないばかりか、かえって悪化を招くおそれのある病態である。現代医学的には物差しがないことから病態把握ができないものであり、東洋医学的に評価することによって簡単に認識できるものであることを説明した。4回目の実習を終了する段階で、A君は「僕の治療の不得意で嫌いなタイプの患者さんばかりを担当させられました。これからはどんな勉強を、どの本を読めばいいのでしょうか?」と尋ね、その後必死で「嫌いで不必要だ」と考えていた東洋医学の学習に取り組んでいった。(続きは『ビギナーズ鍼灸 HARIなび』で・・・)

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