| 2009年9月23・30日合併号 No.152 | |
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レポート 異国の地であはき教育の在り方を考える新人教員のマレーシア旅行体験記赤門鍼灸柔整専門学校専任教員 宍戸新一郎 Ⅰ セントニコラス・ホーム夏休みを利用して10日間ほど、マレーシアのペナン島にある「セントニコラス・ホーム」を訪問した。英国国教会を設立母体としたNGO施設で、主に北部4州の視覚障害者を対象として幅広くサービスを行っている。この施設には、職業訓練としてのマッサージクラスがあり、6人ほどがあん摩・マッサージ・指圧(以下あマ指と略す)のみならず、鍼灸をも学んでいる。昨年の5月には付属臨床実習センターが開設され、外来患者の治療も行っており、卒業生が治療師として働いている。マッサージクラスの生徒は、ほとんどが全盲の方で、中途失明の方が多かった。マレー系・中華系・インド系と民族も様々である。公用語はマレー語だが、共通語としての英語でコミュニケーションを取り合っていた。多民族で構成されているので信教がそれぞれ違い、敬虔なイスラム教徒の女性はヘッドスカーフをしていたり、男性は金曜日にモスクに行く方がいるので授業の時間が変則的になっていたり、ヒンズー教徒の方も含めて食事にそれぞれ制約があったりと、多民族ならではの特徴があり、生活スタイルが個々人異なっている。しかし、学習の場のみならず、生活全般が一緒なのでみな非常に仲が良く、日常はまるで兄弟姉妹のようにみえた。 一旦学習の場所となると、彼らの集中力はすばらしかった。聞くことが知識情報として重要なので、情報の確認や内容に対する口頭での質問と応答が繰り返し行われ、授業は積極的で建設的な熱気に満ちていた。今年になって、JICAより解剖模型が寄贈され、実際に骨の形や神経の走行や内臓の位置に触れて学ぶことができ、基礎医学を学ぶ環境が整ってきたとのことだったが、日本にとっては些細に見える変化をも、貴重な恩恵として受け取っているのだと感じた。 生徒により学習履歴が異なっており、学習内容の定着率には個人差があるようだった。共同生活のよい効果として、人間関係が構築されているので、生徒間で教え合う様子がとても微笑ましく垣間見られるなど、協力し合って学習に取り組んでいた。印象的だったのは、実技の授業では一人が褒められると、自分も褒められようと努力する姿が見られ、よき仲間であり、よきライバルであり、切磋琢磨する理想的なクラスが出来上がっていたことだ。知識や技術が身についていくことが実感され、楽しいという思いが、傍で見ている私にも伝わってきた。 Ⅱ 訪問のきっかけ![]() 脊柱模型を使って指導する笹田氏 Ⅲ マレーシア見て歩きマレーシアは東南アジアの中心に位置し、赤道に近いので熱帯の気候であり、東南アジアの他の国と比較すると経済は豊かで、とくに近年の発展ぶりは目覚ましいものがある。今回訪れたペナン島はマレー半島の西海岸にある常夏の島で、立ち並んだ高層ビルや、自動車の多さには驚かされた。流石に日中は酷暑で、また歩道がきちんと整備されていないこともあり、歩いて行動するのに困難を感じた。多くの人が車を使って移動するので、交通渋滞はすさまじい。日本では廃車にあたりそうな車も走っていて、排ガスもひどく、大通りの樹木は煤けていた。市場を訪れればフルーツをはじめ、食材は新鮮多彩で豊富に並んでいる。物価が安いこともあり、珍しい果物をみつけるとうれしくなり、ついつい買い過ぎることもあった。また中華系の屋台が集合しているエリアが点在していて、様々な料理が手ごろな値段で味わえるので、朝からたくさんの人でごった返していた。独特の香料や香草が使われているが、どれも美味しく頂けた。また人の回転がよいので、食材は新鮮なものが使われ、衛生的にも不安を感じることはなかった。治安もむしろ日本より良いようにさえ思った。終の棲家として外国から移り住んでくる人が多いことには納得する。 ただ閉口したのは、熱帯の国なので暑さに負けないためか、お菓子などは大味でとにかく甘い。お茶やコーヒーにしても、ミルクが悪くなってしまうのか、かわりに練乳が使われており、オーダーの際に「甘さ控えめ」と伝えないと、胸やけするような飲み物が運ばれてくる。この嗜好は現地人の体型に顕著にあらわれており、日本でいうメタボリックというイメージをはるかに超えている。実際心疾患などが多く、平均寿命が非常に短い。街中では膝関節疾患を抱えているような歩き方をする人を数多く見かける。たぶん膝の関連から腰痛を抱えている人も多いだろうと想像でき、生活指導も含め、あマ指・鍼灸の適応患者が多いだろうと思われた。一方で空調の完備が進み、室内の冷やし過ぎにより、手足が冷えている人がとても多いようだった。 冷えを実感したことはもう一つある。こちらの生徒に温熱療法の紹介をするのに、視覚障害者でも利用できる器具として、南国というのにMT温灸器を持って行き、こちらの生徒や受付・事務担当の方を対象に体験してもらった。思いのほか好評だったことはことさら印象的で、現地に定着させるべき鍼灸のあり方を示唆しているようにも思える。 Ⅳ 街中のマッサージ事情仕事柄、現地のあマ指の事情や手技に関心があったので、街中のマッサージ店で手技を体験した。オイルマッサージが主流だったため、私はべたつく感触を嫌ったことと按摩技術を知りたかったこととによって、敢えて按摩を希望し、2軒回ったが、内容はほぼ同様で、手技としてはタイ式マッサージをベースとしていた。手技といっても肘や膝で押されたり、時には足で踏んだりが主である。手指によって狭いポイントを対象とした治療内容ではなかった。手技の構成から作用や目的を考えると、全体にストレッチを施すことで身体を伸ばし柔軟性を高め、リンパや大動脈などに圧迫を加えることで循環を良くするといった、疏通経絡を目的とした内容と看取された。術者がトレーニングをどの程度積んでいるのかは分からないが、全体的に圧加減はまばらで、肘や膝を多用するせいか繊細さに乏しく、痛みを伴う事があるので、逆に緊張を強めてしまう結果を生むこともあると思われた。案の定、私も次の日には腰痛を生じ、痛みにより体をかがめるのに苦労するほどだった。患者の立場を考えての技術が考えられておらず、サービス業としての配慮も十分でないせいか、手技として型だけのものとなり、力加減の確認を患者にすることなく患者の反応をみないため、リラクゼーションとしての目的に適っていないので、非常に残念な体験となった。術者の方も汗だくになって取り組んでいるだけに、複雑な思いがしたが、これはむしろ、現地には、まだまだ医学としての、患者の立場を考えた効果的な指圧・マッサージを広めることへの可能性がある、と言いかえられるかも知れない。 Ⅴ 患者としての体験、教員としての課題![]() 手取り足取り丁寧に実技指導する笹田氏 笹田氏のお話では、マレーシアでは法令(あはき法、認定規則など)がまだないので、教え方には自由な企画立案が可能とのことであった。また長年日本のあはき教育に携わられた経験から、日本における国家試験対策を基本とした教え方に限界と疑問を抱いているともうかがった。氏の試みとして、いわば逆転の発想から、基礎医学、座学を基礎とせず、可能な限り実技、臨床体験を基礎とする方式で指導し、その中で生じる質疑応答から基礎医学へと導く方式で対応されているとのことだった。信条として、教える上で最大のポイントは、「あはき師の手指はクライアントの身体と上手にコミュニケーションを取ること」"Do communicate by massage!"ということを指導の要と考えておられた。 指導の様子を見学しながら、あマ指・鍼灸の教育の在り方に気づかされることがあったり、今更ながらの疑問が湧き上がったりした。本来の臨床は知識と技術の両輪によって成り立つものだが、現状に鑑みると、卒業時の技術面は十分とはいえないように思う。資格取得者と治療家との違いがそこにあり、いくら志が高く一生懸命であっても、それだけでは越えられない水準があると思う。今回の訪問見学によって、実際に患者に触れることに重点を置いて、感覚を研ぎ澄まし、診断治療をすることに、東洋医学の真骨頂があるようにも思われ、教員として現場を意識した実践教育という課題が与えられたようにも思った。 以前に恩師から贈られた、「よい教員は、よい臨床家たれ」という言葉が去来し、多くの方々の指導と応援を頂いたような気がして、少しの高揚感と改めて気の引き締まる思いを胸に、帰国する飛行機の窓から蒼天の先を見晴るかした。 (おわり) ★この記事に対するご意見やご感想をお寄せください≫≫ Click Here! |
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