週刊あはきワールドへようこそ! 号外(2011年3月25日)

緊急寄稿 震災時に鍼灸マッサージ師ができること その1

鍼灸マッサージ師による
被災地でのボランティアについて

いやしの道協会 三輪正敬

 本稿は2011年3月30日号(No.227)で配信予定の記事でしたが、被災地でボランティアとして活動したいと考えている鍼灸マッサージ師の方に1分1秒でも早く読んでいただきたいと考え、本日(3月25日)号外として配信させていただきます。

 毎朝、新聞やテレビで更新されていく数字の一つ一つに、何倍もの、その故人につながる人たちがいて、なんと多くの悲しみが渦巻いていることだろう、と身震いを覚えます。

 鍼灸マッサージ治療のプロフェッショナルとして、できることはないかと考えていらっしゃる方、すでに各都道府県の避難所へ飛んで行かれた方、こんなときだからこそと自分の患者さんをしっかり診ることを大切にされている方、それぞれ様々な思いを胸に尽力されていらっしゃることと思います。

 被災直後には、医師や看護師を中心とした救急救命が第一となりますが、この、いわゆる急性期が一段落した後、現地では、長引く避難生活や、緊張の糸が切れたことによる被災者たちの健康被害への懸念が強まりつつあります。ここで、鍼灸マッサージ師の果たせる役割は大きいでしょう。現地からのニーズの声も上がり始めています。

 今回、被災地へ向かう鍼灸師のためにと、「震災時におけるPTSDに対する鍼灸治療」についての執筆依頼を受けましたが、その前に、「被災地でのボランティアについて」書かせていただきたいと思います。

 私たちは、被災地でどのような役割を担えるのか、またそれは、被災者だけでなく、被災者をサポートする支援者たちの間にどのような利点を生み出すのか、問題点は何か、その他、現地へ入る際の注意点など、まとめてみます。やや長文ではありますが、参考にしていただければ幸いです。

1.災害医療について

 助かる命を優先するトリアージが行われるなど、通常の医療と異なる現場であることの認識は大切です。私たちの施術の際も、治療空間は段ボールで仕切る、暖房設備がないなど、普段の治療と同じ環境は望めません。また、「医療」も、直接的な治療に留まらず、日常生活の援助など、広い範囲の言葉として用いられます。医療職に限らず、ボランティアも含めた支援者全員が、災害医療の提供者であり、互いに連携を図って被災者を支援する必要があります。

2.鍼灸マッサージ師の果たせる役割

 ではまず、私たちはどのような役割を果たせるでしょうか。

 まず、避難所生活による被災者の身体的症状の軽減、治癒が挙げられるでしょう。たとえば固く寒い床に寝続けることによる疲労、腰痛、膝痛、風邪症状や、避難時に負った捻挫、そのほかにも、頭痛、生理痛、高血圧、喘息など、鍼灸マッサージの適応範囲は広いはずです。

 次に、トレーニングされた鍼灸マッサージ師ならば、避難生活者の隠れた重篤な疾患のスクリーニングができるでしょう。たとえば肩こりの訴えから心臓疾患を、便の状態から消化器潰瘍を、腹痛から腎炎を、歩様や会話から脳血管障害を発見することは、日常の臨床で経験された方も多いはずです。こういった隠れた重症者をスクリーニングし、速やかに医師へつなぐことは、鍼灸マッサージ師の果たせる大事な役割です。

 さらに、私たちが治療できるのは、被災者に留まりません。医師、看護師、自衛隊、消防団といった、その疲労を除去する積極的な手段を持っていない支援者への施術は非常に有効でしょう。

 また専門職に限らず、がれき撤去作業ボランティアなどは、無理をすることで、腰痛や肩の痛みなどを発症する可能性があります。医者にかかるわけにはいかないけれど症状があるというような、他のボランティアへの支援も大切でしょう。

3.支援者全体にとっての利点

 鍼灸マッサージ師の活動が直接、被災者の役に立つことは明らかですが、被災者をサポートする支援者たちの間にも、いくつかのメリットが生み出されるはずです。

 まず、軽症者の治療に鍼灸師があたることにより、医師が重篤患者への治療に専念できるでしょう。救命できる方が多くなるかもしれません。

 次に、隠れた重篤疾患が鍼灸マッサージ師により早期発見されれば、これも、現場の医療関係者全体の負担軽減になります。

 さらに、医師、看護師、自衛隊などの施術ができれば、支援者の疲労回復による、作業全体の効率の上昇が図れるでしょう。

4.課題

 一方で、課題(問題点)もいくつか考えられます。一つは、鍼灸マッサージ師の技術が統一されていない点です。スクリーニングなどのプライマリケアができる術者、整形外科疾患が得意な術者、内科的な症状にも対応できる術者、慰安が得意な術者、5分で一人治療してしまう術者から2時間かける術者まで、それぞれ性質が異なります。自分の性質を認識し、救援物資と同じく、適材適所に配置されなければなりません。

 また、災害医療においては、積極的に医師との連携を図る必要があるでしょう。普段診ないような症状、聞いたことのない訴えに直面した時、手元に資料のない現場では、相談可能なパートナーを持つことが、自分を助けることにもなります。

 ただ、この医師との連携や、医師、看護師、自衛隊、消防団といった「支援者への施術」について、現段階で現場のニーズはあるものの、公的な受け入れ態勢は整っていないため、個人的な関係を通さなければならないなど、ご自身の力で掘り起こしをする必要があるのが現状です。

5.その他

 注意点などを箇条書きで紹介します。

・ボランティアの一員
 初めに述べたように鍼灸マッサージ師と言っても、ボランティアの一員です。最低限、守るべきルール、被災者の生活を妨げないための注意点、起こりうるトラブルへの対処法のチェックなどを行っておかなければなりません。

 以下に紹介するHPなど、いくつかのHPで確認しておくとよいでしょう。

◎内閣府 ボランティアの作法↓↓↓
http://www.bousai.go.jp/minna/bousai-volunteer/kihan/

・信頼関係の構築
 治療は、いきなり現地へ行って、すぐに開始できるものではありません。初めて見た人間に自分の体をあずけることができるでしょうか。新たな対人関係は、それだけでも被災者にストレスを与える事実に留意すべきです。始めのうちは治療にこだわらず、炊き出しの手伝いや挨拶など、通常の援助活動を通して信頼関係を構築することが求められるでしょう。また、周囲の援助者との連携の点からも、できるだけ長期の滞在、最低でも1週間は現地に滞在することが望ましいです。

・治療に入るコツ
 治療活動に入る際、血圧計や体温計などを持参することで、医療活動の一環との認識が得られ、緊張が解け、またそれらの数値を報告することで医師との関係を築く手助けになるかもしれません。普段はこういった器具を使用しないという方も、自分のやり方に固執しないことが求められます。被災者にとって最善の方法をとれること、他の支援者との連携が、何よりも大切です。

・自分を大切にすること
 甚大な災害です。遺体を目撃すること、ご遺族の悲嘆に直接触れることもあるでしょう。理不尽な怒りをぶつけられる可能性もあります。また、テレビでは見慣れていたがれきの山を自分の目で見ることは想像以上にショックなこともあります。そういった、自分が受けるダメージを覚悟していくこと、帰宅後に自分をケアできる方法を用意しておくことが大切です。また、現地へ飛び込んだ高揚感から、自身の疲労を無視し、過労に陥るケースもあります。無理をしないことが大切です。

・“良い前例”を作ること
 一つの土地に年単位で治療院を構えることと異なり、ボランティアは通常、期限があり、後任への引き継ぎがあります。現場へ赴く個々人が、鍼灸の世界を代表する心持ちで、腹を据えて、冷静に、自らの仕事をこなしていくことで、後任として後に続くボランティアの治療効率は格段に上がるでしょう。“良い前例”を作ることが大切です。

 以上です。不足は多々あると思われます。阪神大震災や中越地震でボランティアの経験をした方、今回のボランティアへのアドバイスがありましたらぜひお寄せください。

cf)Acupuncture in disaster medicine
   Annals of Emergency Medicine, Volume 34, Issue 4, Part 1, October 1999, Page 568 Paul P Rega


三輪正敬(みわ・まさたか)

東京都立大学人文学部心理学科卒業。都立国立高校ラグビーコーチ、心理職などを経た後、東洋鍼灸専門学校入学。2007年同校卒業と同時に東京都調布市にて敬風堂鍼灸院を開院。いやしの道協会にて、横田観風師に師事し、学・術・道を併せた医道の研鑽に励む。共著に『あはき心理学入門』(ヒューマンワールド)がある。


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