週刊あはきワールドへようこそ! 2011年6月8日号 No.236

術伝流 養生の一本鍼~慢性疾患に効く長寿の鍼~ No.12


運動器系の養生のまとめ


術伝(和方養生技術伝承塾) 金子芳幸 

(1)基本的に

 運動器系の慢性期の養生について書いてきました。運動器系の養生では、初回は、鍼のみでの刺鍼をしながら、体全体のツボの出方を観察していきます。そして、鍼のみでは変わりにくいツボをみつけたら、灸や灸頭鍼をします。そういう古いツボは、患者さんがうったえる場所とは違ったところに出ていることもおおいです。

 2、3回慢性期の型を中心に行ったあと、慢性期の腹診のあと、古いツボが特定できたら、灸や灸頭鍼を中心に治療したりもします。

(2)慢性期の型での運動器系刺鍼手順

 運動器系慢性期の刺鍼は、慢性期の型に患部刺鍼と動作鍼をくわえます(図1)。















 基本的に慢性期の型で診察し刺鍼していきます。患部に関係するツボが出やすいところを丁寧に観察してツボをみつけ刺鍼します。そのあと、その患部関係の動作鍼をします。そして、また、慢性期の型にもどります。おわりに、後始末として、頭に散鍼し、手甲に引きます。

 たとえば、腰痛なら、患部の腹側にツボが出ていないか、その腹のツボに関係する手足の経絡にツボが出ていないか調べ、出ているようなら刺鍼します。腰痛に関係するツボがよく出る足の経絡、背中から腰、殿部、膝裏から脹ら脛などもよく調べます。

(3)つらいところ別の刺鍼

 つらいところ別では、そのつらさに関係するツボが出やすいところの基本刺鍼と動作鍼が主になります(図2)。














1.腰痛
 腰痛では、基本刺鍼は、腰~尻、膝裏~脹ら脛、そして、その延長の足首まわりまでが中心です。また、患部の腹側、それに関係する足陽経陰経、足甲4~5間などにもツボが出ます。

 運動鍼は、捻転制限と前屈制限が中心です。捻転制限では、腰椎3番の横輪切りラインにツボが出ます。前屈制限では、腰椎5番を起点に背中方向と臀部・大腿方向の両方の足太陽にツボが出ます。背中方向は、肩甲骨下角までがおおいです。殿部・足方向は、膝裏までがおおいです。

2.肩痛
 肩痛では、基本刺鍼は、首~肩甲間部の華佗経、肩甲骨まわり、首の付け根~肩井、そして、脇の下~上腕陰経、脇の下の前後の水かきなどです。首のコリがあれば、後頭骨下縁、横頚部、前頚部、鎖骨まわりなどにも、ツボが出ます。

 動作鍼は、挙上制限と捻転制限です。挙上制限では、脇の下~上腕陰経、肩甲骨まわりにツボが出ます。捻転制限では、肩峰~胸と肩峰~背中で、上腕と直角のライン上にツボが出ます。

3.膝痛
 膝痛の基本鍼は、膝裏~脹ら脛です。その延長で足首付近までツボが出ることがあります。

 動作鍼は正座不可が中心です。足裏側と足表側、ともに3本のライン上に出ます。足裏側は、膝裏H字状くぼみの内外のラインと真ん中のラインの延長上です。膝裏から足首方向と殿部方向の両方向に出ます。足表側は、膝皿の内外のラインと膝皿中心のラインの延長上です。膝皿まわりから足首方向と腹方向の両方向に出ます。

 正座に近い格好になれるけど体重がかけられない場合には、それらの延長の殿部まわりや鼡径部ちかくにツボが出ていることがおおいです。

4. 肘痛
 肘痛の基本刺鍼は、肘の手のひら側で肘から2~5cmぐらいの範囲で古いツボが出ていることがおおいです。

 動作鍼は、屈曲制限、伸展制限、捻転制限の3つです。おもにツボが出るのは、屈曲制限では手陽経、伸展制限では手陰経です。それぞれ、親指側、真ん中、小指側の3本のラインに出ます。捻転制限では前腕の太いところが中心です。

 また、肘頭ちかくの骨の上が痛いときは腱付着部痛のことがおおく、ツボはその腱の筋腹(上腕側)に出ます。

5. 手首足首の痛み
 手首足首から先のつらさには、巨刺、上下刺、対角刺が効果的です。対角刺からはじめ、上下刺、巨刺の順で患部に近づいていくと効果的が出やすいです。

6. 指まわり、手のひら、足の裏の痛み
  指まわり、手のひら、足の裏など、鍼が刺しにくいところは、硬く細く捻った糸状の直接灸が効きます。まずはじめに、井穴や指端に糸状灸します。それから、動作鍼のように動かして痛いところをみつけ糸状灸をし、動かして痛いところがなくなるまで繰り返します。痛いところがなくなったら、仕上げに、また、井穴や指端に糸状灸をします。

 くわしくは、いままで書いてきた、それぞれの慢性期や応急処置を参照してください。

(4)慢性期の型+灸・灸頭鍼

 2、3回鍼のみでの慢性期治療をしてみて、鍼のみで変わりにくいそうな古いツボが見つかったら、灸や灸頭鍼との組み合わせで治療します。

 なれてきて時間があったら、はじめの慢性期治療から灸頭鍼を組み合わせることもあります。

 古いツボの場所がお腹などで痛がられる場合には、お灸をします。が、それ以外は灸頭鍼のほうが変化が早いです。

 手順も、時間があるときには、慢性期の型で一通り治療したあと、灸や灸頭鍼をします。

 前の治療や診察で古いツボが特定できているときや、時間がないときには、慢性期の診察をし、手の陰陽に刺鍼します。そのあとで、座位、うつ伏せ、あお向けの順で灸や灸頭鍼をし、手の骨空か指端の瀉の灸で終えます。

 また、鍼も併用するときには、あお向け、うつ伏せ、座位という、慢性期の養生の手順ですることもあります。

 ただし、灸や灸頭鍼をしたあとで動いてもらって違うところが引っかかったら、そこに動作鍼をしたり、その過程で古いツボがみつかったら、灸や灸頭鍼にもどったりもします。姿勢も、座位になったり、うつ伏せになったり、あお向けになったり、灸や灸頭鍼をする面が上になるような工夫も必要です。患者さんがつらくない範囲で。

 そういうふうにいろいろな姿勢で、動作鍼や灸頭鍼を組み合わせた場合でも、おわりに手の骨空か指端に瀉の灸をするのを忘れないようにしてください。

 また、鍼も併用して治療した場合で、手甲などへの引き鍼で十分そうなときには、手指への灸の代わりに、頭の散鍼と手甲の引き鍼で後始末することもおおいです。

(5)おわりに

 運動器系の養生について、よく学んできた人には、繰り返しがおおく興味を引かない内容だったかも知れません。今回のまとめを読んでみて、内容がすぐ思い浮かばないようなら、今まで書いてきた運動器系の養生と応急処置を読みなおしておいてください。

 また、今回書いたことは一般的に言えることです。実際には、複数の症状をかかえている人もおおいです。そういうときには、つらい症状から順番に、時間のゆるす範囲で治療していきます。

 そして、実際の臨床では、慢性期というか、長く続いている症状でも、痛みが激しかったりして、その痛みをとりあえず少なくする、つまり、先急の鍼灸をする必要がある場合もあります。

 そこで、次回からは、坐骨神経痛の人を例に、まず2回先急の応急処置をして、3回目に灸頭鍼も併用した例を書いていきます。「先急の一本鍼」のほうで、坐骨神経痛を取り上げなかったこともあり、まず次回は、坐骨神経痛の応急処置の症例を書きます。この方は五十肩症状も出ていましたので、二つの症状のある方の治療例にもなると思います。次々回は、灸頭鍼も併用した坐骨神経痛の養生を書きます。そして、そのつぎは、三叉神経痛の予定です。
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