週刊あはきワールドへようこそ! 2011年6月22・29日合併号 No.238

灸療閑話 第56話


日本鍼灸①


灸法臨床研究会 福島哲也

 先日、東京有明医療大学で開催された「全日本鍼灸学会第60回学術大会」に参加してきた。会場でお会いした鍼友(しんゆう)灸友(きゅうゆう)の半数以上から、開口一番、「おや?珍しいね」「あれ?来てたんですか」などという一種の驚嘆にも近い言葉をいただいた。私がこういう堅苦しい場(全日本鍼灸学会)に出没したというのが、不思議だったらしい。今回、この学会への参加理由は、「日本伝統鍼灸学会第39回学術大会」との共催であったのと、開催地が首都圏(当初の予定は筑波)で近場だったのが半分と、ここで「日本鍼灸に関する東京宣言」(草案)の採択が行われるということへの興味が半分である。

 なにを以って「日本鍼灸」とするのかについては、「学」および「術」の面、またそれぞれの立ち位置によって百花繚乱な意見があるだろうが、市井の鍼灸師としては、あとあと「日本鍼灸失脚」な~んてことにならないように、また、グローバルスタンダード化の波に呑みこまれる前に、『関白宣言』のごとく言っておきたいことだけは堂々と(強気に)国内および世界に向けて宣言してもらいたいものである。

The Da-shin(Hammer Needling)

 今年の6月の前半にボストンでセミナーをやってきた。今回は、お灸の話ではなく「打鍼法」と「磁石(ピッ●エレキバン)での治療」の紹介をした。ちなみに、私のお灸の話(深谷灸法)がアメリカ人に飽きられてしまったというわけではない。今回は諸般の事情でセミナーの日程が1日だけになってしまったのと、セミナーの内容についての打診があったとき、たまたまマイブームの真っ只中だったのが打鍼だったからこれを採択したのであり、また、磁石のほうは向こう側のリクエストである。また、同行された茨城県日立市の名灸師Moto先生のお灸の講義とデモも行われた(Moto先生のお灸のやり方は、ここではあえて全貌を明らかにしないが、灸点紙と独自に考案された竹筒を利用した無痕透熱灸である)。


夢分流腹診の実技を行う筆者
 彼の地では故・間中喜雄先生の考案されたManaka Hammer(間中ハンマー;木製の鍼と木製の小槌のセット)というものはあるのだが、ちゃんとした打鍼の道具がないというので、こちらで銀製の刺入しない打鍼と黒檀製の木槌のセットを4組持参した。セミナーでは、主に夢分流の打鍼法についての簡単な説明および『鍼道秘訣集』に記載のあるいくつかの基本手技を紹介し、実習を行った。


夢分流臓腑の図
 こちらでは、縦系の経絡システム(正経十二経および奇経八脈など)とは別次元のマイクロシステム的な(フラクタルあるいはホログラフィー的な)考え方の鍼法である耳鍼、高麗手指鍼、YNAS(山元式新頭皮鍼)などが盛んに取り入れられているそうで、夢分流の臓腑配当図もすんなりと受け入れられたような印象だった。まあ、「グラスの底に顔があってもいいじゃないか」(岡本太郎の名言)のごとく、術者の意識の設定さえ明確になされれば、任意の一部分(範囲)への全身投影も成り立ち、それを利用した鍼法も無数にあっても不思議ではないと私は思うのだが……。

YNASは、日本では鍼灸師の世界ではあまり知られていないようで、医師の世界や海外の鍼灸界ではかなり注目されている鍼法である。

超意訳(迷訳?)基本テクニック


打鍼の指導をする筆者
 夢分流の流儀書とされる『鍼道秘訣集』には、打鍼および小槌の扱い方についての詳細な説明は書かれていない。臨床をやっていない(あるいは経験の浅い)人が、ここに書かれた文章を普通に読んで文字通り解釈しただけでは、どのような方法の鍼の手技をすればいいのかまでは全く想像できないだろう。まあ、往時は師から弟子への口伝も少なからずあったのだろうが、やはり日々の臨床の中で患者と真剣に向き合いながら、禅の世界の「不立文字」「教外別伝」「以心伝心」のごとく自ら悟らねばならないものなのだろう。日本人でさえ、こんな訳のわからない(解釈、理解が困難な)ものを、通訳さんに額面通りに英語に翻訳してもらっても、アメリカ人鍼灸師に上手く伝わるとは思えないので、急遽、誰でもイメージ可能なわかりやすい表現を捻り出す必要に迫られた。

 まずは、「火曳之鍼(ひびきのはり)」と「勝曳之鍼(かちびきのはり)」を例に挙げてみよう。

①火曳之鍼(Hibiki‐no‐hari )
 「是(この)針ノ術ハ臍下(さいか)三寸 両腎ノ真(まん)中也 産後の血暈(けつうん)トテ子産(うみ)テノ後 目眩(めまい)ノ来ル日(とき)
臍下三寸ニ針シテ上ル氣ヲ拽下(ひきおろ)ス針也 譬(たとえ)産后(さんご)ニ目眩(めまい)無クトモ 三十一日ノ内ニ二三度程針スル物也 扨(さて)凡(およ)ソ病証 上實(じつ)シテ下虚スル人ハ必ズ上氣スル 加様ノ者(ひと)ニ火拽ノ針ヲ用ル 是(この)外 病証ニ依テ用ル事醫ノ機轉(きてん)ニ依ル可キ也」

 これは、「くす玉割り」をイメージすればわかりやすいと思う。すなわち、くす玉(上部にある邪気の塊り、上腹部の皮膚上あるいは深部の緊張)に繋がった紐を下に引くこと(関元への鍼)で、くす玉を一瞬にして割る(邪気を解消)のである。金の鍉鍼などを用いた軽い接触程度で数秒間の刺激でも、すぐに変化が現れることが多い。小槌は用いないほうが気が集まりやすい。主に産後のめまいや上実下虚のタイプの人に用いる鍼で、術者(医師、鍼灸師)の機転で他の病症にも応用可能である。

そういえばこのあいだ、私が「ひびきのはり」と言ったのを、「響きの鍼」だと勘違いして、私が指摘(訂正)するまで、ずっと関元にズンと響くような深い鍼をしていた学生さんに遭遇した。初めてのことを教えるときには、最低限の文字情報も必要だったんだなと反省した。

②勝曳之鍼(Kachibiki‐no‐hari )
 「是(この)針ハ大實証ナル人ノ養生(ようじょう)ノ針ノ日(とき) 扨(さて)又 傷寒ノ大熱傷食(しょうしょく)ノ節(とき)用ル 處(ところ)定(さだま)ラズ邪氣ヲ打拂(うちはら)ヒ針ヲ曳(ひ)く 是(これ)瀉針也 虚労(きょろう)老人ニハ用ヒザル針也 其外ハ大方(おおかた)是(この)針ヲ用ル」 

 これは、「もぐら叩き」をイメージがピッタリだと思う。邪気(もぐら)の現れたところに打針を施し(ハンマーで叩く)、これ(もぐらの頭)を打ち払い鍼を引く(ゲームセット)のである。また、瀉鍼とあるので、槌捌きは比較的早いスピードで、やや強めに叩けばよい。

続きは、次回のお楽しみに!

ボランティア応募状況報告

 前回募集したボランティア(私の治療)に、いち早く立候補していただいた(というか今のところ、応募者は唯一人だが……)北海道・登別のF先生(女性)から、「これからも灸療閑話、楽しみにしています」との温かい声援をいただいた。たとえ社交辞令でも(まあ、そんなことはないと信じているが……)、読者から何らかの反応があるのは嬉しいものだ。来登の折には、ぜひとも彼女に治療を受けたいので、その機会が早く訪れることを私も願っている。

 F先生、そのときは御礼にこちらの手の内(施術法)も包み隠さず披露しますので、楽しみにしていてください。もちろん、質問攻めでも構いませんよ(ああ、北海道から講演オファーでも来ないかなぁ~)。

 なお、このボランティアの募集は現在も継続中である。我こそはという奇特な(?)方の立候補を首を長くしてお待ちしている。

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