| 2011年7月6日号 No.239 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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良導絡治療ってなぁに 第17回 内臓疾患と良導絡
1.はじめに鍼灸治療が面白いのは、各科・各部位への治療だけでなく、全身・全体へのアプローチができることだと思う。いわく、本治法あり太極療法あり、良導絡では<全良導絡調整>と<基本治療法Ⅰ~Ⅴ型>ということになる。かつて、西洋医学が今ほど発達しておらず保険適用もなかった時代には、風邪・感冒はもちろん、肺結核や虫垂炎、胃腸疾患、腎臓病など鍼灸が対応する内科系疾患がかなりあった。今は内科の病気を鍼灸で治療しようと思う人は少ないようだが、それでもお医者さんの治療に納得できず、あるいは経過が良好でないなどの理由で鍼灸院を訪れる人も時々ある。または、色々な疾患を持っていて、なおかつ肩こりや腰痛、膝痛など、さまざまの不調をもって来院する人もある。ムチ打ちで治療していた人が、“今日はお腹が痛い”という場合もある。鍼灸がペインクリニックや整形外科の下請け的存在のように思われたり、スポーツ障害との関連がクローズアップされてしまうのは、鍼灸師の側にも責任があるように感じる。 長野県で冬季オリンピックが開催された折、選手村に県の鍼灸師会がボランティアで鍼灸治療所を開設した。最初はまったく患者が来なかったらしいが、そのうちに、カナダの選手が現れ“ココはハリの治療をしてくれるのか?”、“風邪ひきの治療をしてほしい”ということになった。それをかわきりに、フランス、そのほかの国々など比較的鍼灸が知られている国の選手やスタッフが大勢“風邪ひき”の治療に訪れたらしい。彼らは薬が飲めない。スポーツ障害、筋・骨の治療を希望したものは一人もなく、「頭痛」「のどが痛い」「鼻みず」「咳嗽」「微熱」「だるい」「下痢」などの症候ばかりだったそうだ。 2.内臓の病気五臓六腑の病気。東洋医学でいう五臓六腑とは、心・肺・肝・脾(膵臓?)・腎の五臓と小腸・大腸・胆・胃・三焦(リンパ系?)・膀胱の六腑と<奇恒の腑>と呼ばれる脳・血管・髄・骨・女子胞(子宮)などを含めた器官をさす。現代医学的には、心臓・循環器系疾患なら:心不全・弁膜症(僧帽弁狭窄・大動脈弁狭窄など)・先天性心疾患(心室・心房の中隔欠損)・冠状動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)・動脈疾患(動脈硬化・大動脈瘤など)・不整脈・高血圧・低血圧など。呼吸器系疾患として:感染性の風邪症候群・気管支炎・肺炎・結核など、閉塞性のものに肺気腫・慢性気管支炎・喘息、拘束性のものに特発性肺線維症、その他として気管支拡張症・気胸・肺癌など。肝胆系疾患では:肝炎(急性・慢性、薬物性・アルコール性)・肝硬変・肝癌・脂肪肝・胆嚢炎・胆石・ポリープ・癌など。消化器系疾患として:膵臓では急性・慢性膵炎・膵臓癌、胃では胃炎・潰瘍・ポリープ・癌・胃下垂・胃神経症など、十二指腸以下にも炎症・潰瘍・憩室・ポリープ・癌・クローン病・過敏性腸症候群・虫垂炎・腸閉塞・痔・脱腸・腹膜炎などがある。それらが感染症や中毒症状として起こる場合や心因性で起こることもある。泌尿器系や婦人科、脳神経系、代謝性疾患などに関しては他の先生が執筆されると思うのでここでは省く。ところで、上記の病名の羅列を飛ばして読まれたあなた、あなたはほぼ正解である。良導絡理論を開発した内科医の中谷義雄は、“良導絡治療は病名治療というより、部位と部位との関連の治療医学であります”と述べている。鍼灸診療は、いわゆる西洋医学的病態把握とは異なる。神経生理学的エビデンスに依存し、それ以外の対応を非科学的として退ける風潮があるが、西洋医学とは違った視点からアプローチするところに東洋医学、鍼灸診療の面白さ、存在価値があるのではないだろうか。開発された当初から、良導絡はその橋渡し的役割を担っている。 とはいえ、西洋医学的な病気の理解は必要である。対象となる臓器が何処にあるのかといったことはもちろん、鍼灸の適応・不適応、ドーゼの量、誘導法、改善経過の判断や病気の説明も必要であり、意外に(お医者さんに聞かずに)鍼灸師に臨床検査の内容や西洋医学の治療法について聞いてくる患者さんは多い。ひょっとしたらセカンド・オピニオン的な役割も担っているのかもしれない。 3.良導絡では病名に対する特効穴といったものもないではないが、「良導絡症候群表」ではその名の通り症候・症状に対する各良導絡の興・抑を表示している。内臓疾患に関係すると思われる主なものを拾ってみると以下のようになる。
頚肩部の凝りや背部痛、腰痛、手足の冷え・しびれも内臓由来のものがあると考えると、ほとんど全ての良導絡が関係性をもっているといえなくもない。 その他に二つ以上の良導絡の興・抑が同時にみられる場合に判断の基準とする<良導絡パターン>というものも存在する。代表的なものとして、<胃下垂・胃、十二指腸潰瘍>ではF1(脾)・F2(肝)が同時に興または抑。<便秘や便通異常>ではH3(心)の興とH6(大腸)またはF1(脾)の抑が出やすいなどがある。 4.良導絡治療中谷義雄は、主に直流電気針(ER鍼)を用いたが灸も利用した。イオンコルン(銀粒)を貼り付けて、患者にその部位に家でお灸をするように勧めることもしていた。患部近隣の胸腹部・背部では反応良導点を求めることが多かったようだが、それらの際の目安として次のようなツボを応用していたようである。心疾患とくに冠不全・不整脈:膻中・巨闕・心兪、<心臓喘息>:孔最 咳嗽:<頻発する咳に>:大椎・風門・肺兪・身柱 <咳して顔が赤くなる>:支溝(百日咳など) <朝方の咳>:大敦、<日中の咳>:解谿、<夕方の咳>:太白、 <夜中の咳>:太谿 気管支喘息:中府(肺疾患全般)、兪府、足三里、風門、肺兪、志室 <深夜の喘息>:照海、<夜明けの喘息>:大敦 <食して発作起こるとき>:或中、神蔵 <食すれば楽になるもの>:膈兪 慢性胃炎:(胃炎、胃酸過多症・減少症、胃拡張、胃潰瘍、膵臓炎、大腸炎、 肝炎を含む。症候・重症度に応じて配穴を選ぶ。) 上脘、中脘(とくに有効)、下脘、梁門、太乙、不容(食欲不振)、 期門(肝胆痛・胆石にも)、天枢(大腸の働き)、気海(小腸に元気を 出す)、腹結、肝兪、脾兪、腎兪(三つの背兪穴は胃腸疾患全般)、 次髎(骨盤腔内疾患)、梁丘(胃痙攣・下痢)、足三里(胃酸過多には 不可)、内庭(胃部の動悸) 胃下垂:百会(胃下垂・子宮脱・脱肛を引き上げる)、筋縮(筋トーヌスを強め、 胃下垂・胃拡張に) 便秘・下痢:神門、天枢、気海、腹結、府舎、関元、長強(慢性下痢)、梁丘、 崑崙(下腹痛) <便青く下るもの>:胆兪、<便黄色で下るもの>:脾兪、 <便黒くして下るもの>:腎兪、<便白く下るもの>気海兪、 <便に血が混じるもの>:小腸兪 (※色は、五行色体に基づく) なお、これは筆者もわりと経験しているのだが、手術痕などの腸の癒着による痛みに、その周辺の腹壁の反応良導点に多壮灸を行う方法がある。 5.臨床症例前述したように、鍼灸院で内科系疾患をあつかう事例は色々ある。最も多いのは、脳梗塞後遺症、冠動脈術後、喘息、肺気腫、肝障害、慢性膵炎、胃腸障害(胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍、○○性大腸炎etc)、胆石、尿管結石、婦人科疾患など基礎疾患をもっていて、なおかつ、肩こりや腰痛、坐骨神経痛などの愁訴がある場合のように思う。基礎疾患に対する治療を希望されることも、とにかく愁訴の解消を希望されることもあるが、“全体治療”を行っていると、呼吸が楽になった、胃が痛まなくなった、食欲が出た、よく眠れる、便秘が解消した、おしっこが楽など、勝手に基礎疾患の症状もとれてくる。問題は、癌の治療を申し出る人が結構あることで、これは、正直なところやってみなければわからない。癌の痛みなら、その部位を通っている良導絡・経脈を考えて遠隔治療を加えるとかなりコントロールできる。癌の痛みは、私の経験では局所周辺の治療だけではすぐにリバウンドするが、遠隔に多壮灸などを加えると効果が持続される。根本的なものに対する効果は、成長率、萎縮化、延命率など、個々に比較することが難しいし、結局は家族の関係などから入院・手術となってしまうことが多くてよくわからない。いずれにせよ、生命に関わるような問題なら、鍼灸院だけで対応するべきではないと考えている。 良導絡では、F1(脾)、F2(肝)、F6(胃)の測定値が拡大測定しても電流値が上がらず、<0>を示す時は、予後が悪く死にいたる場合があるといわれているが、確かに、大阪医科大学での入院患者でそのような例はあった。 症例が、良導絡でどのように示されるのか、少し比較検討してみたい。 症例1 62歳、女性、頚肩こり・胃下垂・八年前左股関節手術 ![]() 症例2 37歳、女性、右頚肩背こり・左上肢しびれ・右腰痛・脊椎右側弯 ![]() 症例3 29歳、女性、月経前緊張・ストレスで腹痛・右頸痛(つまり感)・ 肌かさつき心療内科でパキシル服用・右顎関節症 ![]() 私のみる限り、症例1は陰虚証、症例2は陽虚証、症例3は瘀血証である。症例3でH系が全体に低く、F3が高い例は前述したパターン認識で“精神不安定型”とされている。したがって愁訴は多く、ほかに体幹のほてり、倦怠感、ふらつき、時にめまいもある。症例1は、多食でやせ・便秘がち、症例2では、とくに内科的愁訴はない。この三つの症例をもう少し詳しく見てみよう。 症例1と3は、平均値が低く、症例2は全体に高い。1や3は皮膚が乾燥し、水分含有量が低いという陰虚や瘀血の状態を反映しており、2は手足は冷えるが皮膚の固摂作用が低下し蒸泄が高まった陽虚の性質を現しているように思える。つまり皮膚電気抵抗は皮下の水分含有量に一義的に依存するという原理に適合する。1と3は、平均値が同じく19μAだが、1よりも3の方がバラツキが大きい。年齢差なのか病態の差なのかはわからない。 次に筆者が注目するのは、H1・H2・H3の左右差である。症例1と2は、左が低く右が高い。症例3は右が低い。陳旧性の、つまり慢性的にあるこりや硬結の症状の側は低く出る。これは手の陰側の側に固定的に出現しやすく、陽側は種々のその時どきの変動を受けやすい。パターンにみる特徴や症状との対応は別として、これだけの症例から内科的な病態との相関を認めるのは難しい。つまり、左の股関節手術や右側弯(脊椎右側弯は頚椎の左偏位をもちやすい)、右顎関節症の状況はよく反映しているが、F6(胃)は1と3で低く2は高い、F1(脾)が3で高いけれども、それが直ちに内臓の状態を示しているかどうかはわからない。ただし、これらは筆者の良導絡の診方に基づくもので、良導絡学会やほかの先生方がどのように理解されるかは私とは異なるかもしれない。 6.診療の観点とコツ私はまず、患者さんの身体の状態、頚部・腹部・手・足・背部の筋の緊張具合と脈を見て、その患者さんの状況を把握する。最近は、頚部の筋の緊張度合いを診ただけで大体のゆがみ・ひずみや心理的・体調的性状がほぼ推測できるようになった。そこで、こちらからそういう説明をすると、患者さんは“そうなのよ”と色々話してくれる。単純に問診から入ると、都合の悪いことは言わないし、体の不具合を誰かのせいにしたり、ただ“痛い”ところだけを言って必要な情報をなかなか話してくれない。そういう意味では、良導絡の症候群表(別名:不問診表)は利用価値があると思う。心因性や“神経症”と思われがちな患者さんでも、前記症例3の患者さんのように、実は、顎関節の異常が彼女の色々な愁訴を脚色した張本人ではないのかと思われる場合もある。これを読まれているのが学生さんなら、教科書『東洋医学概論』のp76、下から4行目を見てもらいたい。そこには「足厥陰肝経と衝脈、任脈とは、密接な関係にあり、肝気の鬱滞により気病が血におよび衝任二脈が失調すると、月経異常が起こる」と書かれている。 次に治療部位だが、日本良導絡自律神経学会の現会長、伊藤樹史(東京医科大学麻酔科名誉教授)の“お話し”によると、脊椎の両側から出る神経のデルマトームは脊髄神経の前枝と後枝では支配領域がずれている。後枝が分布する背部の方が2~4椎ほど下に出る。東洋医学でいう<背部兪穴>と臓腑名称の関係を考えてみると面白い。背部兪穴や挟脊部位を刺激すると、前枝・後枝の両方に影響を与えることができると述べられている。さらに、交感神経の支配断区は動脈の経路を伝播して四肢につながっているといわれる。知覚神経の分布であるデルマトームとは、抹消部では異なっている可能性があるというのだ。赤羽氏の「知熱感度測定」による調整法で、指先で測定した熱感の差異が背部兪穴への皮内鍼と瀉法鍼で調整されるゆえんが、なんとなく理解されるように感じられないだろうか。 鍼灸の刺激療法は、おそらく、今の世の中で考えられているより以上の治療効果をはらんでいる。病名治療ではない、『部位と部位との関連の治療医学』がもっと見直され、利用される人々がもっと増えることを望んでやまない。 ★この記事に対するご意見やご感想をお寄せください≫≫ Click Here!
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