週刊あはきワールド

2011年7月20日号 No.241

在宅ケア奮闘記 その57


台風の日は臨時休業なのだ!

訪問リハビリ研究センター代表 西村久代

 台風だ。しかも大型台風がやってきた。台風をペットボトルで説明すると、ペットボトルの口から空気が漏れないようにして息を吹き込んでいる状態が高気圧なのに対し、口から空気を吸い出そうとしているのが低気圧。その低気圧に「超」がつくほどの強い低気圧状態がいわば台風である。

 ペットボトルの中でもし人間が生活していたとしたら、気圧が高い状態で動く方が楽ちんである。分子がきゅっと締まっていて関節も動きやすい。関節の内の陰圧の空間のスペースが圧縮されるので関節運動がスムーズに行える。

 反対に低気圧になると内部の空間のスペースが膨張し関節内部が広がっているのだから、関節運動に支障をきたす。時に痛みとして運動制限がかかる。四肢の血管の収縮が弱くなり、心臓に帰るのに圧力が不足する。呼吸も心臓の動きも活動的ではなく、倦怠感がつのるばかりである。

強い低気圧の日はめまいや吐き気が私を襲う

 低気圧が近づくと機嫌が悪くなる患者が多い。動くのが辛くなる。それは私も同じだ。昔、車を運転していて後ろから追突されて1カ月間入院したことがあった。むち打ちである。天気が悪いくらいならびくともしないが、台風などの強い低気圧が近づくと軽い目眩や吐き気が現れ、気分が優れず、クラクラ、フワフワしている。車に乗っていても判断力が低下し、リスクが増す。私自身が危険にさらされかねない。だから、そんな日は臨時休業にしてしまう。

 朝、患者さんに電話をすると、「はいはい。いいですよ」と快く了解していただける患者宅もあれば、「えーッ、こんなに腰が痛いのに、なんで来てくれないんですか!」と不機嫌丸出しにする患者もいる。「ごめんなさい。風雨が激しくなります。外出自体が危険なのでごめんなさい」を連発するも、電話の向こうは不機嫌極まりなく、あげくに電話をガチャリと切られてしまうこともあり、患者の期待を失望に変えることを余儀なくされる事態に謝るしか術がない。

台風の日の臨時休業にAさん怒る!

 一人暮らしのAさんは台風直撃の中をひとりで過ごすのがとても不安である。朝一で「本日、お休みさせてください」と言ったら怒り出してしまった。「ヘルパーさんは来てくれるのに。腰も膝も痛いのに、来てちょうだい!」と語気を荒げられたが、「ごめんなさい」と私は必死に言い逃れる。

 外出は一人では行けないけれど、部屋の中なら何とか移動できる彼女。気圧が低くなりかけた一昨日からご機嫌が斜めになっていた。関節症で普段も痛みがあって、動くたびに関節の角度を気にしながら足を出し、体重を分散するために4点杖を使い、バランスを考えながら移動する。ゆっくりと確実に体重を移動させて歩いていく。週2回、患者宅へ訪問しての施術ではそんな指導も行うが、膝が変形を起こしてしっかりと伸ばすことはできない。

 なかなか変形自体は治らないが、下肢の血行促進は行える。筋力低下も防ぐことはできる。いまは、少しだが動ける状態なので、トイレは介助なしで用が足せ、食事もヘルパーさんが作ってくれた料理を温め直す程度は自分でできる状態だが、そうは言っても、関節を動かさずにいると確実に拘縮が進行し、寝たきりになってしまう。寝たきりになってしまうのを彼女は一番恐れている。

 近くに娘はいるが嫁いでしまっているので、思うように来てくれない。だからと言って、娘との同居は考えられない。まず、婿が嫌い。孫も可愛くない。部屋も狭い。きっと肩身の狭い嫌な思いをするに違いない。自分も性格が良いとは思ってもおらず、溶け込もうとする努力もしないであろう。

 一人暮らしで自由気ままに過ごしてきて今さら同居は到底、考えられない。施設に入所しようという意志もない。ここで、最後まで暮らしたい。自分の力で余生を過ごしたい。皆誰しもそう思うように、彼女もそう思っている。

 だから、自宅でのマッサージ施術を心待ちにしている。自分の体にとって良いことだと実感しているからだ。それがわかっているから、私も休むのはつらいのだ。

台風が過ぎるまで待っててね

 私だって、できれば休みたくはない。休むと事後処理が大変だ。ほかにもたくさん患者がいて、代替日の設定が容易でない。それぞれ曜日や時間を組んであるスケジュールも、一人二人なら何とかできるが、複数人になってしまうと組み方の変更がスムーズに行かず、下手をすると1週間後になってしまうことも。そんなときは、「寝たきりにならないでくださいね」「自分だけででも動いていてくださいね」とアドバイスを言うくらいになってしまう。

 Aさん。台風が過ぎたら元気になって必ず行きますからね。機嫌を直して、待っていてください。

 余談だが、因みに昔、台風の中訪問したものの、ズボンがグチャグチャに濡れて患者さんに近づけないことがあった。もし雨の中行くときは、靴下とズボンの替えを持って行かなくちゃいけませんよ。

この記事に対するご意見やご感想をお寄せください≫≫ Click Here!

第11回あはき師のための在宅ケア実践セミナー
2011年10月開催
日時 2011年10月22日(土)午後1時~午後5時(受付12時30分~)
2011年10月23日(日)午前10時~午後5時(受付9時30分~)
内容 あはき師のための在宅ケア実践マニュアル 』をテキストにして“解剖学的肢位(AZP)理論に基づく在宅ケア”の実技習得を目指す
講師 西村久代(株式会社訪問リハビリ研究センター代表取締役)
会場 東洋鍼灸専門学校
詳細 http://www.human-world.co.jp/seminer/seminer025.html



トップページにもどる