週刊あはきワールドへようこそ! 2011年7月20日号 No.241

■症例報告

母乳保育と鍼灸治療

寺子屋お産塾 田中寿雄

1.はじめに

 「母乳の先生は赤ちゃん!」と言われるように、母乳の質・量が適切か否かを、赤ちゃんは①授乳中の動作、②授乳後の表情、③便の状態で教えてくれる。しかし、合格点を得ているお母さんは少なく、産科や助産院は母乳外来を設けて乳房マッサージや食事指導など母乳保育のサポートを担っている。

 一方、鍼灸治療は著効があるにもかかわらず認知度が低いため、受診されるお母さんは少ない。今回報告した症例も、1)は花粉症、2)は腰痛を訴えての来院であった。今後、母乳トラブルの対応策の一つとして、鍼灸治療が正当な評価を得るためには、鍼灸師が関心を持つことによって、治療の機会につながり認知度は上がってくると思う。そのような願いを込めた症例報告と受け止めていただければ幸いである。

2.症例報告

1) Kさん、32歳、ソーシャル・ワーカー、第1子出産
 Kさんが来院されたキッカケは、当院が胎児の健やかな成育の応援となる一つとして、妊婦さんにお灸ライフを推奨していることもあり、28週目を迎えられた時期に来院されていた(初診以降は、出産当日まで自宅でお灸実践)。男児を安産された3カ月後、花粉症を訴えて来院。

 花粉症の治療後、母乳保育中だったことから母乳に何らかの異常があればStが感知される左右の鎖骨直下部(気戸・庫房)を入江FTで診察。左側はSmであったが、右側にStを感知した。

 母乳に問題がある可能性が推測されたので、授乳の様子を尋ねると、「授乳中、乳首を引っ張られたり噛まれたりして、授乳後は愚図ることが多いです」と訴えた。

入江FTはSm(スムーズ)を正常反応、St(ステッキー)を病的反応とする。

        図1

診断:入江式経別脈診で胃経脈の異常。左右の胃経脈診は右側がSt。
治療:右衝陽・右承泣にそれぞれ0番鍼を3㎜刺鍼して上向性にIPコード結線(右胃経別治療)。12分後抜鍼。治療後、右鎖骨直下のStがSmに変化しているのを確認(図1)。

第2診
 「前回、帰宅後に授乳した時、飲み終わるとニコ~ッと笑ったのです。授乳後の様子が今までと違うのにビックリしました」
治療:花粉症状は軽減しているというので前回と同様処置後、右胃経別治療。


2) Nさん、31歳、助産師、第3子出産
愁訴:出産後に発症した腰痛。
診察:入江式奇経診断にて、右帯脈-右陽維脈と診断。
治療:健側の左外関B―→R左足の臨泣にIPコード結線。20分後に抜鍼。

 術後、授乳の様子を尋ねると、今回も第1子、第2子と同様不本意ながらミルクと混合。左右の鎖骨直下を診察すると右側にStを感知。「右のおっぱいに問題があるでしょう」と告げると、「はい。左の方をよく飲みます。どうして分かるのです?」。

診断:入江式経別脈診にて胃経脈の異常。
治療:症例1と同様に右胃経別治療。

第2診
 鍼灸治療を受診した1週間後、お産をした助産院でおっぱいケアを受けた時、前回とは違い著明な改善があったそうである。本人が助産師ということもあり、「どうしたの?」と問われたので、腰痛で鍼治療を受診した折、母乳の治療も受けたことを告げると、「経脈を治してもらうのが良いみたいね。しばらく治療を受けてみれば」と助言されたという。

 助産師さんが経脈という言葉を用いられたことに驚いたが、治療は顔面と足の甲2カ所だったと話されたことから推測されたのかも知れない。腰痛は前回治療後、半減したというので、前回同様の奇経治療と右胃経別治療を行った。

第3診
 1、2、3診とも、赤ちゃんと一緒に来院。3回とも治療直後に授乳されたが、授乳中の様子と授乳後の機嫌が明らかに違うことを断言された。

 なお、2診目の1週間後から、「ミルクは足していません」とのこと。

治療:腰痛は解消していたので、右胃経別治療のみ。


3) Mさん、39歳、助産師、第1子出産
愁訴:母乳不足(産後53日)。1日40~60ccほどミルクを補充。
診断:入江式経別脈診にて胃経脈の異常。左右の胃経脈上と両鎖骨直下を入江FTで診察すると左側にStを感知。
治療:左胃経別治療12分間。

 治療直後、赤ちゃんが授乳タイムだと泣き出し待合室にて授乳。授乳中、「飲み方が明らか違います」とのこと。授乳はミルクを足さず飲み終え、満ち足りた表情で眠っていた。助産師として16年間産婦人科の現場に携わってきた本人もその違いに驚いていた。

第2診
 ミルクを補う量は40~60ccと変化なし。前回同様の右胃経別治療後、貧血気味と判断して、左右の内関・三陰交にそれぞれ半米粒大の灸を5壮追加。治療直後に授乳すると、「安心したように落ち着いて飲んでいるのが分かります」。 

3.まとめ

 医療は科学的根拠が重視され、その傾向は近年ますます強まっている。だが、母乳の質は赤ちゃんが知らせてくれる冒頭に述べた3点が大切だと思っている。

 診察は入江FTによる経別脈診を行っているが、異常経は胃経・肝経・小腸経のいずれかに感知され、経脈治療適応症である。私は経別治療で対処しているが、鎖骨直下(小腸経は肩甲骨中央)に感知されたStの反応が、治療後Smに変化しているのが感知され、赤ちゃんとお母さんの双方から手応えを感じている。

 今回は3例とも鍼治療による症例であるが灸治療も著効があり、利点もある。つまり、ほんの少しアドバイスすれば自宅で可能であり、父親が灸をすれば母乳保育に参加していることになり、夫婦・親子の絆作りに通じるメリットも大きい。

 未来学者アルビン・トフラー博士は生産消費者の社会システムを提唱されているが、博士が唱える変革は医療の分野において、灸治療はその条件を具備している。台座間接灸が大衆から支持されている現状はその証であろう。

 症例2)、3)の2人は現役の助産師であり、鍼灸治療の効果を実感してくれたことからコラボする意義を痛感し勉強会を持つまでになった。

 母乳は若いお母さん達に鍼灸治療の理解を高め、認知度を上げるパワーがある。その結果、乳児湿疹・夜泣き・夜尿症・消化不良・小児喘息などの治療につながり、効果を通して納得してもらうことができる。

 『素問』刺熱篇第三十二に私の好きな言葉が書かれてある。「五臓の熱病の時は…という解説に続いて、顔面部に赤い発色を望診したならば刺法を行える。これを、未病を治すというのである」。

 東洋医学を創造した古代の医人達の≪未病を治す≫概念と、母乳トラブルの対処は違っているが、≪未病を治す≫ことに変わりはないと捉えている。経脈は母乳にも関与し変動を整えれば速やかに改善され、乳児の健やかな成長を促すだけでなく、正常な授乳行為は産後の母体回復に寄与するからである。

[参考文献]
1)入江 正:経別・経筋・奇経療法,医道の日本社
2)入江 正:臨床 東洋医学原論-入江FTによる診断と治療-,東京入江FT塾
3)入江 正:漢方治療原論-入江FTによる診断と治療-,東京入江FT塾


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