週刊あはきワールドへようこそ! 2011年8月3日号 No.243

良導絡治療ってなぁに 第18回


産婦人科領域における良導絡治療


朋佑会札幌産科婦人科 佐野敬夫

1.はじめに

 産婦人科の診療にたずさわっていると日々東洋医学の有用性を実感している。
特に疼痛やしびれなどの症状を訴える患者に対しては、漢方薬の処方とともに鍼治療(良導絡治療)も行っている。鍼治療は即効性があり、また、治療的診断にもなりえる。鍼治療での効果を持続させるために漢方治療を行うこともあり、また、漢方である程度の効果があるものの、しびれや痛みなどの症状が取れないため鍼治療を行うこともある。

2.適応疾患

 産婦人科疾患には、不妊症、月経困難症(子宮筋腫、子宮腺筋症を含む)、月経不順、悪性腫瘍などがあるが、今回は特に鍼治療(良導絡治療)が有効な疾患を取り上げる。不妊症に対して専門的に鍼治療を行っている治療者もいるが、私は患者一人にかける診療時間の関係もあり即効的に効く疾患のみを対象にしている。

1)乳腺炎
 産後の乳腺炎は、乳汁の排出障害によって発症する。初期では乳房のマッサージで改善するが、感染を合併すると後述するように西洋医学的な介入を必要とする。今回、乳腺炎を筆頭に上げたのは、当院での患者数が1日に4、5例以上と鍼治療の対象になる頻度が一番高いからである。 

 当院では産後の乳房のケアは基本的にベテランの助産師が行っているが、痛みが強くマッサージを受け付けない患者もいる。このような場合、まず阿是穴に軽く雀啄を行い、マッサージに耐えられるようにする。この治療で硬結も柔らかくなるが、マッサージによりさらに状態は良好となる。マッサージの後でも痛みが残る場合は、さらに鍼治療をすることでほとんど痛みは消失する。痛みが広範囲の場合は膻中(VM16)に剌鍼することもある。

 乳腺炎の鍼治療は良導反応点も探すことはほとんどなく、初心者でも簡単に施術できる。ただ、胸部に深く刺入すると気胸を起こす危険があるので注意しなければならない。

 乳腺炎は繰り返すことが多いので、患者の状態に合わせて漢方も処方している。葛根湯は乳腺炎の適応になっているが、やや虚証の患者には桂枝加葛根湯を、すでに自汗のある患者には桂麻各半湯や桂枝湯を処方している。また、熱感や関節痛を訴える患者には麻黄湯を処方している。

 しかし、すでに膿瘍を形成して発熱のある場合は切開して抗菌薬を投与しなければならない。こうした場合、排膿散及湯を投与するとドレーンを入れる必要はない。

2)下腹部痛
 下腹部痛は、不正出血などとともに産婦人科に訪れる患者の主訴のトップである。しかし、内診や超音波診断でも異常を認めない症例の方が圧倒的に多い。瘀血によることがほとんどであるが、中には原因不明であったり、うつ病が背景にあることがある。 

 瘀血による痛みは、女性特有の骨盤内の静脈の解剖学的な特徴のため、触診すると左側の骨盤壁や腹壁に圧痛部位を確認することができる。このような患者のほとんどは桂枝茯苓丸などの駆瘀血が有効である。

 しかし、痛みがワンポイントで原因が不明なこともある。このような症例には痛みと180度対側の穴(陰陽太極法)に皮内針をすることで即効的に痛みは消失する。治療穴は触診でも分かるが、反応良導点で確認するのがベストである。坐骨神経痛、鼠径部痛、恥骨部痛、尾骨部痛、股関節痛などが対象になる。治療穴はそれぞれ中府、秉風、身柱、百会のやや前方(この場合は皮内針は使いにくいのでふつうのディスポ針を2、3分置針する)、肩髃である。

 治療穴のポイントとして、疼痛部位がF1にあれば治療穴はH6、F2だとH5と、FとHの良導絡の番号を足して7の場所に求めるとよい。肩髃のように例外もある。ただし、炎症や著明なヘルニアなどの器質的な原因がある場合は無効である。

 産婦人科医にとって警戒しなければならないのは、虫垂のある右側の下腹部痛である。ある程度進行した虫垂炎の場合は外科的治療をしなければならない。しかし、初期の場合は東洋医学的治療が奏効する。診断は闌尾穴か上巨虚の付近に圧痛もしくは反応良導点を確認することでできる。そこに30分ほど置針をすると痛みは消失する。その後は腸癰湯か大黄牡丹皮湯を処方している。ただし血液検査で炎症反応を認める場合は抗菌薬も処方している。

 闌尾穴や上巨虚に反応がなく、腹膜刺激症状もない場合は、陰陽太極法の原理で左上背部の反応良導点を治療することで痛みは消失する。

 最近まで下腹部痛に対しては主に皮内針を用いていたが、円皮鍼でも十分効果はある。

症例1 37歳、妊娠35週4日
主訴:両側鼠径部痛
既往歴:34歳時、妊娠41週で分娩が進まず帝王切開を受けた。
現病歴:2週間前から、両側鼠径部に痛みを感じるようになり、受診時は寝起きするのも困難になっていた。
現症:超音波診断上、胎児、胎盤に異常はなく、内診しても胎児の下降も認めなかった。
治療経過:両側の秉風に圧痛点を認め、ノイロメーターで反応を確認した。そこに円皮鍼を貼付するとたちまち痛みは消失し、患者も夫も驚いていた。

症例2 37歳、看護師
主訴:右下腹部痛
既往歴:とくになし。
現病歴:4日前から右下腹部に痛みを感じるようになった。患者が勤務している内科病院では異常を認めないため、泌尿器科に受診したがやはり尿路結石などの異常はないとのことであった。しかし、痛みはますます強くなり当院を受診した。
現症:患者は疼痛のため、緊張して汗をかいていた。痛みは右側の府舎に相当する部位にあり、卵巣や子宮には圧痛は認めなかった。左上背部に反応良導点を求めて、そこに皮内針をすることで痛みは消失した。

 患者は1カ月前から身内の不幸などもあり、かなりストレスを抱えていたということであった。

3)更年期障害
 更年期障害とは閉経前後の女性に現れる不定愁訴を総括した症候群である。主な原因として卵巣機能の欠落によるものがあるが、体力の低下や心理、社会的な問題も関わることが多い。

 卵巣欠落症状によるホットフラッシュに対してはホルモン補充療法がすぐれているが乳癌や血栓症のある患者には禁忌である。また、卵巣欠落症状のない患者には無効と言ってよい。そのような場合は東洋医学的治療が奏効する。漢方薬としては加味逍遥散や加味帰脾湯など症状に応じて様々な処方をしている。それぞれある程度の効果はあるが、肩こりや頭痛、手足のしびれなど今一つ芳しくないと訴える患者には鍼治療をすることで QOL をかなり改善することができる。

症例1 57歳、無職
主訴:のぼせと手足の冷え、手足のしびれ
治療経過:加味逍遥湯を処方したところ、1週間後には「おかげさまでのぼせと冷えはなくなりました」と喜んでいたが、手足のしびれは改善していないというので、肩井(H517)、手足の三里などに15分ほど置針することで、愁訴はほぼ完全に解消した。

症例2 55歳、主婦
主訴:不眠、不安感など
既往歴:乳癌
治療経過:前医が数年にわたって月に1、2回、1時間近くカウンセリングをしていたが、前医が転勤したため著者が診療することになった。患者は診療のたびに夫に対する不満など同じことを長々と話していた。向精神薬は眠くなると言うので女神散を処方した。ある日、患者の顔が紅潮しているため、頭部に手を触れてみるとのぼせているのが分かった。

 そこで百会(F565)に置針するとたちまちのぼせは取れた。また、肩こりも訴えるので肩井(H517)に剌鍼するとこれも改善した。その後、面談をする前に置針することで、診療時間はせいぜい10分くらいに短縮できるようになった。

3.おわりに

 以上、産婦人科領域についての良導絡治療を主とした東洋医学的なアプローチについて述べてきたが、著者が日頃心掛けているのは、今、目の前にいる患者に対してどの治療が一番適しているかということである。したがって東洋医学にこだわらず、必要に応じて向精神薬やホルモン補充療法も行っている。しかし、東洋医学(良導絡治療を含む)という選択肢のない診療を想像すると、ただ検査に異常はないからと、簡単に治るものも治らない気の毒な患者が多くなるのではないか思っている。

 2011年6月10~12日に札幌で日本東洋医学学会学術大会が行われた。札幌大会では今までの学会以上に鍼灸部門に力を入れたが、鍼灸に興味を示す医師が多いのには驚かされた。しかし、伝統的な穴の取り方を初心者の医師に理解させるのは困難なのではないかと思われた。著者のように良導絡から学ぶ方が近道ではないかと実感した。

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