| 2011年8月17日号 No.245 | |||
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■症例報告 母乳保育と鍼灸治療 (2)乳腺炎寺子屋お産塾 田中寿雄 1.はじめに200年前編著された≪名家灸選≫に、「妬乳(とにゅう)は【膺窓】穴にお灸14壮、著効あり」とあるが、授乳中のお母さんが激痛に襲われ涙する乳腺炎は今も昔も発症率が高い。しかし、鍼灸治療が著効を上げる医療でありながら、乳腺炎を訴えて鍼灸院を受診するお母さんが極めて少ない現状は残念である。 私は鍼治療と灸治療に加えて、焼き鍼治療を併用しているが、灸治療以外の加熱療法を治療に組み込まれていない鍼灸師の方々が、焼き鍼治療に関心を持っていただければと願っている。 2.焼き鍼治療とは焼き鍼治療は十二経筋が寒に侵された経筋症の治療に導入された入江正先生の発表に基づくものである。当初は経筋症の治療に限られていたが、後年は先生ご自身は経筋症以外のさまざまな病症に加熱法を使われ、いずれも著効を上げられるのを何度も目の当たりにして驚かされた思いがある。焼き鍼治療は従来の鍼灸治療とは違った効果があり、情報交換している仲間の先生方も鍼灸治療では時間を要する症例においても、著効を上げている事実がある。一部を挙げれば、五十肩・膝関節痛・捻挫・腱鞘炎・弾発指・耳鳴り・嗅覚・味覚異常など、全般にわたって焼き鍼治療は著効があり即効する。 さらに、高度なテクニックを必要とせず、突き刺さらないほどに丸みを帯びた鍼先を適度に熱して(チクッと熱さを感じればよく、火傷を起こさない程度)チョン・チョン・チョンと瞬時に軽く接触して治療するだけである。 1)入江正先生の ≪焼き鍼≫ (図1) ![]() 図1 2)横山卓先生の ≪熱針≫ (図2) ![]() 図2 3)著者の≪経筋鍼≫ (図3) ![]() 図3 3.症例報告症例1) Uさん、38歳、第1子誕生後1カ月![]() 図4 おっぱいマッサージの治療を続けたが改善なく、産科病院からの紹介で来院。 診察:入江FTによる経別脈診により肝経脈の異常。左右の肝経脈上を調べると、乳腺炎が発症している左側にStを感知。 治療:左太衝・左瞳子髎に1寸0番を3㎜刺鍼、IPコードを太衝 R―→B瞳子髎に結線して10分後抜鍼(図4)。次に、経筋鍼を使用してシコリの周囲を1㎝間隔で、チョン・チョン・チョンと2周熱刺激をした後、患部のシコリ上を10カ所ランダムにチョン・チョンと熱刺激。最後に、直灸用もぐさをガーゼに包んでシコリを覆うように貼付。 治療後、Uさん曰く、「おっぱいマッサージの術後に採乳してもなかなか出ないのに、おっぱいが滲み出ています」と、ビックリした様子。 第2診(3日後) 初診時の受診直後から痛みは半減して翌朝には解消、シコリは半分以下に小さく柔らかくなって、「おっぱいを飲んでくれています」とのこと。 乳腺炎は赤ちゃんがおっぱいを飲んでくれたら大丈夫であり、授乳こそが最良の治療となる。 治療:前回と同様処置。治療後、「乳腺炎の治療は痛いのを我慢するものと思っていましたが、鍼治療はとても心地良いです」。 3日後、「シコリはなく、順調に授乳できています」と電話で報告あったので、しばらくはもぐさを乳房に当てるようにアドバイス。 治療は、異常経脈を検出してIPコードを結線し経別治療で対処しているが、母乳の質に問題があるケースと同様、胃経・肝経・小腸経のいずれかに感知され、標治法として焼き鍼治療を併用することで、より著効を上げることができる疾患である。鍼灸治療の適応症が多彩な中にあって、著効の上位にランクされる疾患だと感じている。 症例2)、3)は焼き鍼を使えば、標治法だけでも著効があることを示している。 症例2) K助産師の報告 鍼灸師と助産師が個人レベルで有志がコラボして集い、月1回の勉強会をしているが、この症例は報告会での一つである。 愁訴:乳腺炎。 K助産師が連休明けに外来担当の就労を終えると、乳腺炎で入院している産婦の診察を同僚から依頼される。 産婦は第2子を38週の時期に経膣分娩。授乳状況は、赤ちゃんが小さかったこともありすぐに眠ってしまい、乳房は重たい感じ(おっぱいが余っている感じ)の自覚はあったが、出産から5日後に退院。退院した翌朝、乳腺炎を発症して、38.5度の発熱があり産科病院へ。診断の結果、「症状が酷いので入院しましょう」と、再入院。 治療:抗生物質の点滴を1日2回と、おっぱいマッサージ。 状況:シコリの周囲を点状に熱刺激で2周した後、「膻中」に台座間接灸を1回。(伏臥位が困難な状況と判断して、背部の台座灸はなし) 翌朝、体温は平熱に戻り痛みは半減して、授乳できたという。前日と同様処置後に、「膻中」に加えて病側の「肩井」・「天宗」・奇穴の「後極泉」にそれぞれ台座灸を1回ずつ。 翌日退院となり、自宅でも「膻中」への台座灸は続けるようアドバイスしたとのこと。 1週間後の受診日、退院後は「膻中」の台座灸のみで通常通り授乳はできているという。K助産師曰く「台座灸は以前から利用していましたが、焼き鍼を併用した効果に私自身驚きました」。 症例 3) 私の娘のケース 愁訴:乳腺炎。 長女が他府県に在住していた時、第2子を出産後乳腺炎になり産科を受診するも改善なく電話で激しい痛みを訴えた。駆けつけようにも5時間はかかる。そこで、ドライバーの先をガスで熱して、チクッとした熱さが感じる程度にして、シコリの周囲を1㎝間隔に2周刺激して、次いでシコリ全体に10カ所を目途に熱刺激をした後、もぐさをシコリに当てるように指示。 治療は焼き鍼と、もぐさの貼付だけであったが、その日は2回、翌日は3回の熱刺激ともぐさの貼付だけで、「あの時は、ホントあれで助かった」と、14年前になるが鮮明に憶えていた。 4.まとめ治療後、患部のシコリにもぐさを貼付していることに、一言触れておく。乳腺炎になると、助産師の方々がおっぱいケアを担っておられ、マッサージの後に民間療法として炎症や痛みの万能薬として知られる「芋パスター」をシコリに当てられるケースが多い。しかし、激痛に耐えながら里芋(またはジャガイモ)の皮を剥いて摩り下ろし、同量の小麦粉と混ぜ合わせ、おろし生姜を1割混ぜて練り合わせて作るのは辛く、装着にも配慮がいる。 一方、もぐさはガーゼで包むだけで装着に違和感がなく、薬理作用はもぐさに軍配が上がると感じている。ところが、もぐさが凄い作用を秘めていることを知る人は少ない。直灸もぐさの現状は漢方薬局でも滅多に買い求める方はいないそうである。ふとしたキッカケで灸治療以外に活用するようになって20年以上になる私としては残念でならない。 もぐさの貼付だけで凄い作用を示した実例を挙げてみよう。 火がついたような尋常でない泣き声が治療室に聞こえてきた。何事かと思い治療を中断し様子を見に行くと、孫が石油ストーブで首に火傷をしたという。早速、もぐさを貼付するように指示して、治療に戻るとしばらくして泣き声が止んだ。娘に、「5分もしたら治まっただろう」と問うと、「そんなにかかっていない。3分ほどで泣き止んだ」という。 火傷部位は5cm×3cmほどあって、1歳半の幼児には決して軽傷ではなかったが、皮膚科にも行かず、もぐさを貼り付けただけの処置で治癒し、火傷の痕跡も全く残っていない。 また、もぐさは冷えに対しても有効である。現代女性の多くが冷えの改善を図ることで症状が軽減・解消する症例は数多い。たとえば、身近な病症では月経痛・月経前症候群などがそうである。それらの症状には、もぐさの装着に勝るものがないといっても過言ではない。つまり、もぐさは熱を取り除くケースと、冷えを取り除くケースを使い分けることから、体を本来の状態へ戻そうとする自然治癒力を賦活させる作用があるのでは…と推測している。 もぐさは「焼き鍼」同様、試みた方はさまざまな症状に活用でき、そのうえ素晴らしい著効があることに、きっと驚かれると確信している。 ★この記事に対するご意見やご感想をお寄せください≫≫ Click Here!
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