週刊あはきワールドへようこそ! 2011年8月24・31日合併号 No.246

灸療閑話 第58話


夏の風物詩


灸法臨床研究会 福島哲也


純国産線香花火
 今年も猛暑が依然として居座っているが、暦の上では処暑(しょしょ:二十四節気の一つで、暑さが落ち着いてくる頃の意)である。先日、患者さん(女性・鍼灸師)から、夏の風物詩のひとつである花火(「純国産線香花火」なる小粋なもの)を頂いた。いまや、線香花火はほとんどが中国製らしい。純国産のものは、製造に手間がかかるわりには採算(人件費)が合わないなどの理由から製造業者が次々と廃業に追い込まれ一時消滅してしまったが、その後、心ある有志の尽力により復活したのだという。まあ、「お灸(ことに灸痕が残る直接灸)」という伝統・文化も、似たような境遇にあるのかもしれない……。

 線香花火には、打ち上げ花火のような華やかさはないが、情緒たっぷりに表情(牡丹→松葉→柳→散り菊、起承転結、序破急)を変えながら儚く消えゆく日本の伝統美を、残り少ない夏の夜に楽しんでみようと思う。 

打ち上げ花火

 夏場は、どうしても「お灸」は敬遠されがちであるが、「暑気払い」や「魔除け」の目的(その他、頭痛封じ、呆け封じなどもある)で、全国各地の寺などで盛んに行われている焙烙 (ほうろく) 灸というものがある。焙烙灸の由来は、「その昔、炎天下で暑気当たりしていた武将が、兜の上からお灸をすえたところ、すぐ回復した」など諸説いろいろあるようだが、要は、大きな艾を素焼きの皿に乗せ火をつけ頭部(百会)に当てる間接灸である。多くは土用の丑の日が選ばれているようだ。

 でも、今年のようなヘビーな暑さの夏に熱いお灸を頭に乗せたりしたら、余計に暑邪、熱邪に侵されてしまうんじゃと私は思うが、信仰と結びついている伝統行事だから、心配しても始まらないか……。

「すりばちやいと」というところもあるらしい。

 「うなぎ」のほうは、通説では、商売がうまくいかない鰻屋に相談された平賀源内が、夏に売れない鰻を爆発的に売る知恵を授けた(土用の丑の日に「う」の字のつく物を食べると夏負けしないという民間伝承があり、「本日丑の日」と店先に張り紙をさせた)といわれているが、我々の業界でも、キャリアの長短や来院患者の多寡にかかわらず、春夏秋冬いつでも応用できるような、大輪の打ち上げ花火みたいな妙案を誰か考えてくれないかなぁ~。

八邪・八風

 手足に、それぞれ「八邪」「八風」という奇穴があるのは、皆さんご存知のことかと思う。「八邪」の「邪」は外邪、「八風」の「風」は風邪のことと捉えれば、それらの侵入により惹起される症状に対するアプローチが可能なツボであると言えよう。私の臨床では、これらのツボへのアプローチは、冷えや痛みの場合には施灸(主に直接灸)、むくみには毫鍼(水平刺での置鍼)や知熱灸で用いることが多いのだが、今回はそれらとは違った面白い活用法を紹介してみようと思う。

 『鍼灸大成』(巻7・経外奇穴)に、つぎのような記載がある。まずは、「八邪」から見てみよう。

八邪 八穴。在手五指岐骨間、左右手各四穴。其一:大都二穴、在手大指次指虎口、赤白肉際、握拳取之。可灸七壮、鍼一分。治頭風牙痛。其二:上都二穴、在手食指中指本節岐骨間、握拳取之。治手臂紅腫、鍼入一分、可灸五壮。其三:中都二穴、在手中指無名指本節岐骨、又名液門也。治手臂紅腫、鍼入一分、可灸五壮。其四:下都二穴、在手無名指小指本節後岐骨間、一名中渚也。中渚之穴、在液門下五分。治手臂紅腫、鍼一分、灸五壮。両手共八穴、故名八邪。

 位置は、手背で各中手基節間関節の間であり、取穴するときは、手を握ると手背に中手基節間関節が浮き上がるので、その関節の間に取ればよい。片手に4穴で、それぞれに大都、上都、中都、少都という名がつけられている。左右で8穴となる。

 主治は、「頭風牙痛(頭痛、歯痛など)」と「手臂紅腫(手のリウマチなど)」である。他にも、『鍼灸大成』(巻5・八脈図並治症穴)の「破傷風症」、「手足拘攣(手足の拘縮)」、「中風拘攣」や、『鍼灸集成』の「大熱眼痛睛欲出(眼の痛みなど)」などの記載も見られる。

 続いて、「八風」のほうはどうだろうか。

八風 八穴。在足五指岐骨間、両足共八穴、故名八風。治脚背紅腫、鍼一分、灸五壮。

こちらのほうは、ずいぶんと簡単な(手抜きのような?)記載だ。

 位置は、足背で各中足指節間関節の間であり、取穴するときは、足指を底屈させると中足指節間関節がわかりやすいだろう。片足に4穴あるが、こちらは手と違い名前が付いていない。左右で8穴である。

 主治は、「脚背紅腫(足のリウマチなど)」である。他にも、『鍼灸集成』の「婦人月経不調(生理不順など)』や『千金要方』の「脚気初得脚弱(脚気:かっけ)」、『千金翼方』の「脚疼(足背の痛み、足関節の捻挫など)」などの記載も見られる。

暑いの飛んでけ!

【症例】 
Nさん・50歳代半ばの女性・会社員。
主訴:頭部と顔面のほてり。

 健康管理の目的で定期的(週に1回)に、来院している患者さんである。来院するなり開口一番、「もう、この暑さで熱射病か熱中症になりそうだわ。先生、なんとかしてよ。暑さ寒さも彼岸までっていうけど、あれ嘘ね!」との悲鳴に
近い訴えをした。

「なんとかしてよ」といわれても、私は雨乞いの祈祷や呪術は今のところ修得していないので、天候の不具合は治療できない。よって、今回も鍼灸でのアプローチを考えた。

 以前から、更年期障害のひとつの症状である頭部や顔面のほてりは、ときどき出現していたが、彼女の場合、この症状には湧泉に指先をしばらく接触させたり、関元への金の鍉鍼で接触鍼(いわゆる火曳きの鍼)や頭部への散鍼と手足のツボ(曲池や足三里など)への引き鍼などで、いつもはすぐに収まっていたのだが、今回は記録的な猛暑続きのためか、節電の悪影響(会社での冷房の使用や設定温度の制限など)か、身体の奥深くまで熱邪が籠ってしまったのかは定かではないが、それらの処置をしてから10分以上経っても変化が見られなかった。

 他の患者さんなら、手足の井穴や十宣穴からの刺絡というアプローチも考えられたが、彼女の場合、いつも刺さない鍼(圓鍼、鍉鍼、打鍼など)か毫鍼での接触鍼とお灸だけで治療していたので、三稜鍼(刺絡)は選択肢から除外した。そこで、治療道具は熱を取る(頭身の熱を瀉す)のに優れている鑱鍼を使うことにし、しばし深呼吸をして上(自分自身の脳?あるいは鍼灸の神?)からの啓示を待つと、「八邪・八風」のツボの映像が浮かんだ。

治療:まずは、「八邪」に鑱鍼で施術。その方法を詳しく説明すると、鑱鍼の刃の部分を皮膚面に対して直角に当て、指先の方に向かって少し早めに動かし皮膚を切るように擦るのである。この時点で、「頭と顔が少しすっきりしました」となり、続いて「八風」に同様の施術を行ったところ、「さっきより全身が涼しくなったみたい。不思議ね……」とのことだった。

 まあ、こういう方法もあるんだと、皆さんの臨床のネタ帳(忘備録)にでも一筆書き加えていただければ、しつこい残暑もそれなりに乗り切れるのではないかと思う。

このとき、「暑いの、暑いの、飛んでけぇー!」というイメージでやると、より効果的かと思う。まあ、信じるか信じないかは、皆さんの自由だが……。

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