私は在宅ケア(マッサージ・鍼)の仕事をさせてもらっている。この稿では、週2回施術しに訪問している独居の女性のAさん(82歳)を観察しながら考えたことを報告する。
独居のAさんを襲う原因不明のめまい
Aさんは、5年ほど前に脳梗塞を患ったが、幸い目立った後遺症はなかった。次の年に旦那さんを癌で亡くし、それ以来一人暮らしだ。
脳梗塞を患う前から“めまい”があり、雲の上を歩くような感じで足元がフアフアすると訴えていた。原因が見つからず病院も何カ所か転々としていた。
歩行の状態を見ると、転倒はしないものの足元がおぼつかない様子だった。しかし今の主治医もめまいの原因になるような検査結果の異常は見当たらず、性格からめまいが増強しているのではないかという見解だった。
Aさんのめまいにはかなり波があり、調子が悪い時には目があまり開かず、表情にも覇気がなく顔を見ただけで「今日は調子が悪いな」というのがわかる(ただし食事やお菓子を食べるときは、急に元気になるのが気になるが……)。
3.11で被災したAさんの心の傷はかなり癒えてきたように感じていたが・・・
実はこのAさん。週刊「あはきワールド」2011年3月30日・4月6日合併号(No.227)に寄稿したレポート「震災時に鍼灸マッサージ師は何ができるのか
被災地の訪問マッサージ(在宅ケア)に携わるあはき師の立場から」でも紹介している。3月11日に地震が起こったとき、私はすぐにAさんを市民センターに避難させた。Aさんは20日間ほど避難所生活を余儀なくされたが、その後開放され自宅に帰れることとなった。
幸いAさん宅の被害は小さく茶碗などが割れたくらいだった。一番の被害といえばAさんが避難所生活している間に、とてもかわいがっていた飼い猫(まーちゃん)がハクビシン? らしきものに噛み千切られ死んでしまったことだった。
Aさんは、庭先で見るも無残な形でまーちゃんが亡くなっていることにショックを受け、「まーちゃんを家の中に入れておかなかった自分が悪い、私がまーちゃん殺したんだ…」と自分のせいにして、数日間思い出しては泣いていた。
余震も続きデイサービスの再開も見通しがたたないというので、Aさんが家で一人で過ごす時間が長くなると思い、私は施術のない日も可能な限り毎日Aさん宅に顔を出すことにした。
6月下旬になると、梅雨に入ったとはいっても30度を超す日が続いた。余震は少しずつ弱くなりAさんのデイサービスが再開した。だいぶ日常が戻ってきたが、私は依然としてAさん宅にほぼ毎日顔を出していた。Aさんはそのたびにデイサービスであった出来事を話したり、暑いからと言ってはアイスをご馳走してくれたりした。めまいは相変わらずあるものの、Aさんの心の傷はかなり癒えてきたように感じていた。
普段は足取りもおぼつかないAさんが雨の中を小走り!?
7月のある日の夕方、いつものようにAさん宅に向かう途中、私は車中から今までに見たこともないような足取りでスタスタ歩くAさんの姿を見た。一瞬別人かと思うほど、Aさんの足取りは軽かった。その光景に一瞬、私は自分の目を疑った。
Aさん宅に着いて何をしていたか話を聞くとごみを捨てに歩いていたとのことだった。スコールのような雨が降り出したのに、Aさんはもう一つごみ袋を出さないといけないと言い出した。
私は「無理して今日捨てなくてもいいのではないか?」と助言したが、Aさんは、「大丈夫、大丈夫!」と聞き入れず、ごみ袋を抱えて雨の中、家を出て行った。
私はまた自分の目を疑った。家の中ではフアフアするといって足取りもおぼつかないような人が、なんと今度は雨の中を小走りしているではないか。
帰ってきたAさんに今日のめまいの調子を聞くと、急に表情が悪くなり、今日はめまいがひどく急遽主治医のところに行って点滴を打ってきたとのだった。肘にも点滴の痕がある。
数日前から血圧が急に高くなり、この間は夜中に救急車を呼んで病院まで行ったというので、余計に心配していたが、それだけに一連の出来事に内心驚いた。
日を改めてもう一度、主治医と担当のケアマネジャーにAさんのことを確認しに行った。
どちらも、生活の状況・めまいの状況・病状ともに血圧が高くなる以外はとくに変化はなく、めまいは脳梗塞になる前からあるものの、特に原因となる病気や検査結果は出てこないという。主治医からは「めまいはあるだろうけど、原因の特定はできない」とはっきり言われた。
検査結果では出てこない病を治せたら…
ここからは誤解を恐れず私のストレートの感想を述べさせていただくが、全てのケースがあてはまるとは思わないが、年齢を重ねれば病気・体調の不調が誰しも出てくる。
人によってはその時の病気、体調は気持ちによって+αされ、なおかつ寂しい、孤独感から多少病状をオーバーにすることにより心配してほしい、気にかけてほしいというサインが自然と出ているのでは? と考えさせられた。
おそらく年配の方は今までできたことがいわゆる老化によりできる範囲が狭くなることに対するジレンマや、生活環境の変化など、様々な要因はあるだろう。なんせ私が相手している高齢者は人生7、80年も生き抜いてきた人生の達人たちだから。
私はその気持ちの部分を受け入れながら患者さんと接し、サインを早く見つけ、患者さんの本質を見て寄り添うことは、非常に大切ではないかと考えさせられた。ただ、すべて受け入れるのではなく、ある程度は客観的に物事を見なければ、施術をする際や、いざという時の判断が鈍るので、その境界を見極めるようにしていかなければいけない。それが新しい私の課題だ。
私は、あはき師になってまだ日は浅いが、人生の達人たち&生きる歴史の教科書に様々な勉強させてもらいながら身近に寄り添えるのもこの仕事の醍醐味だと思う。それに、Aさんのように検査結果では出てこない病を治すことができたら、どんなに患者さんに喜ばれるだろう。これから、学生時代苦手だった東洋医学を再度、少しずつ一から勉強し直し、在宅ケアの中に取り入れてみようと思う。
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