| 2011年9月28日号 No.250 | |
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灸療閑話 第59話 猫ひっかき病と粉瘤の灸治療灸法臨床研究会 福島哲也
私は普段から、「お医者様でも草津の湯でも治らない病(やまい)」とか「借金で首が回らないなんていう悩み」など以外は、とりあえずは鍼灸で対応してみるという心づもりでいるので、大抵の患者さんの訴えには驚かないが、先日、面白い病名の患者さん(Yさん・女性・30歳代前半)が来院したので、今回は、そのときの私と患者さんのやりとりを再現してみることにしよう。
猫ひっかき病私:「電話でリンパが腫れたって言ってたけど、どこのリンパ?」Yさん:「左の首のここ(耳の下から下顎角のあたり)。昨日、病院に行って薬をもらって飲んだから、今日はあまり痛くはないんだけど」 私:「それで、お医者さんの診断は何だったの?」 Yさん:「猫ひっかき病なんですって」 私:「猫ひっかき病?そんな面白い病名もあるんだ……」 Yさん:「ええ、人獣共通の感染症なんですって。うちの猫にはよくひっかかれるけど、こんなに腫れたのは初めてで、首が太くなっちゃったままで困っちゃうわ」 私:「うちは猫じゃなくて犬を飼ってて、ときどき手を咬まれることもあるけど、リンパが腫れたりしたことはないね。まあ、日本じゃ狂犬病の心配はないから……」 Y:「犬からも感染することもあるみたいですよ。先生も気をつけたほうがいいですよ。猫ひっかき病じゃなくても、傷からは別のバイ菌マンが入る可能性だってあるんだから。手も大切な仕事道具なんでしょ!」 私:「あっ、こりゃどうもご親切に。では、さっそくYさんの身体に侵入したバイ菌マンをやっつけましょうかね」 Y:「よろしくお願いします」 まあ、「猫ひっかき病」だろうが「人噛みつき病!?」だろうが、要はひっかき傷からの感染でリンパが腫れちゃったわけだから、ここはアンパンマンじゃなくて、やっぱり「お灸」の出番でしょう! 治療はまず、商陽の刺絡。つぎに、患部への調気鍼での施術と知熱灸。ここでの調気鍼の使い方は、患部全体にごく軽く(産毛を撫でる感じで)、知熱灸は患部(腫れている部分)の周囲をぐるっと囲むように艾炷(小指の爪ほどの三角錐)を3㎝ほどの間隔で置き、2壮ずつ施灸(熱さを感じた時点ですぐに艾炷を取り除く)。そして、澤田流然谷と手三里へ灸点紙を2枚重ねての施灸を各7壮したあと、仕上げに手三里のみ糸状灸で5壮施灸(以上、すべて患側のみ)。 ちなみに、『名家灸選』・雑症の項に「狂犬の毒に灸する法 試効」というのがある。その方法は「咬み傷のところを鈹(ひ)鍼や鋒鍼(=三稜鍼)で刺して悪血を絞り出し、そのあと灸を十壮すえる」とあるが、この時点で、見た目に首がひと回り小さくなっていた。 私:「とりあえずは、こんな感じですけど」 Yさん:「ホントだ、細くなってる」 Yさんも自分の手で患部を触れて、その効果を実感されてはいたのだが……。 私:「まあ、薬も出てるし、自宅であと2、3回お灸してくれればこのまま治まっちゃうと思うけど……」 Yさん:「お灸の臭いが部屋に充満したら、猫に嫌われちゃうからなぁ~」 私:「それじゃ、2、3日経過をみて、まだ腫れが気になるようだったらもう1、2回来てみて下さい」 Yさん:「は~い」 粉瘤粉瘤をお灸でなんとかしたいという患者さん(Iさん・女性・50歳代前半・鍼灸師)がみえた。Iさん:「これ、病院で粉瘤だって言われたんですけど、切るのは嫌なんで、お灸でなんとかならないかと思って」 腹部を診ると、臍の右わきに直径2.5㎝ほどの塊りがあり、何カ所か火傷の痕がみられた。 私:「これ、自分でお灸したんですか?」 Iさん:「ちょっとやってみたんだけど、火傷しちゃって。医者に変な顔されちゃって」 私:「脂肪腫と違って粉瘤は切開して袋ごと取らないと、根治するのは難しいと思うけど……」 Iさん:「打膿灸とかやったらどうでしょうかね?」 私:「腹部には普通はやらないですよ。腹膜炎とか起こしちゃうと大変だから」 Iさん:「それじゃ、先生の本に書いてあったなんとか八処の灸をお願いしますよ。背中は自分じゃできないし……」 先生の本とは、拙著『深谷灸法による病気別・症候別灸治療~患者のからだに聞け~』(緑書房)のことである。なんとか八処の灸とは、有名な瘡瘍八処の灸法のことである。参考のために、『名家灸選』に記載されているものを紹介しておく。 ・瘡瘍八処の灸法 医綱本紀に載する所と五蘊抄とは少し異同有り。今は五蘊抄に従う。 凡ての瘡瘍、瘡癤、無名の悪瘡は、各処寸法を定め之に灸すれば効あらざる無し。 神應経に云う。成化九年癸巳孟冬、日本国の鼻山殿の使副する所の官人、信州の隠士良心言く、我国の二百年前に両名医有り。一は和介氏、一は丹波氏と為す。此の二医は専ら癕疽、疔癤、瘰癧を治するに八処の灸法を定めて甚だ神効有りと。 凡そ此の八処灸法は、痛めば則ち灸して痛まざるに至り、痛まざれば則ち灸して痛むに至る。或は、五百壮、或は七八百壮、大炷にて多く灸すれば尤も妙なり。 癕疽、初発にて灸すれば則ち潰ずして自ら愈ゆ。已に潰て灸すれば則ち肌を生じ痛みを止め亦再発すること無し。瘡瘍頭面に生ずる者は、稗を以て耳尖上の周廻に之を遶らせ以て寸法を定む。 同じく肩より手指頭に至りて生ずる者は、稗を以て肩髃より中指頭の爪甲端に至りて寸法を定む。 同じく中身に発する者は、両乳に随って周廻し以て寸法を定む。 同じく陰股より足指頭に至りて生ずる者は、両足を合わせて左拇指より右拇指端に至りて周廻して寸法を定む。 右の左右八処の灸法は、各処の寸法を以て患人をして手を掬して一握を断捨せしめ、還て、中折したものを結喉に直てて背に垂下す。縄の末を合わせて尽くる処に仮点し、脊椎を挟みて各々開くところ半寸で二点なり。之に灸して、五十壮より百壮に至りて験あり。三たび報ず。 右、各処二穴にて四部合わせて八穴なり。 私:「瘡瘍八処の灸は、8カ所全部やらなきゃいけないわけじゃなくて、今回は臍の右わきなので体幹の部分のツボだけでいい」 治療は、まず座位で背部を示指と中指の指腹で数回撫でおろし(この場合、やや圧をかけてやると硬結が見つけやすい)、指が止まったところ(胸椎の5番と8番の棘突起の右際約1横指ほどのところ)2カ所に施灸。壮数は各20壮ほど。つぎに、仰臥位で粉瘤の周囲に囲刺(毫鍼で6カ所)と手三里に施灸5壮。 私:「手三里は化膿止めにいいといわれているので、加えておきました。あと、皮膚病には肩髃。ここなら自分でできるし」 Iさん:「背中は主人にやってもらいます」 1週間後、再度みえたときの治療は、背部と手は前回同様。腹部の囲刺は火鍼にバージョンアップして、粉瘤の頂点に多壮灸(30壮以上)。 ここでも、参考のために『名家灸選・三篇』に記載されているものを紹介しておこう。 ・疔腫を治す法 百一方 針を以て四畔を刺し、石榴(ざくろ)の皮末を用いて瘡上に着けて形を調え、四畔を囲みて之れに灸す。痛むことを度とする。末を調えて上に伝えれば、急に裏の宿を経て根を連ねて自ら出づ。 そのまた1週間後みえたときは、指に触れる腫瘤の大きさが少し小さくなっていた。もう少し囲刺と多壮灸を続けていれば、うまく口が開いて「根を連ねて自ら出づ」となってくれるだろう。粉瘤は袋が残っていると再発(袋を取っても別の場所にできる)ことが多いと聞くが、背部(瘡瘍八処)のお灸を続けることで再発防止が期待できるのではないだろうか……。 ★この記事に対するご意見やご感想をお寄せください≫≫ Click Here! |
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