| 2011年10月26日号 No.254 | |||||
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灸療閑話 第60話 新居浜やいとまつり(2011)の症例報告灸法臨床研究会 福島哲也 10月の3連休の日曜日、このコラムでも何度か紹介している「新居浜やいとまつり」に行ってきた。前日の土曜日、夜6時半過ぎに東京から新幹線に飛び乗り、大阪港からフェリーに揺られ、当日の朝7時前に会場入りをした。おそらく、今回で7回目の参加だったと思うが、我ながら「毎回よくやるよ」と思っているが、今年はいつもより参加する人手(治療ができる鍼灸師)が不足していたため、私も大人の鍼灸治療要員に数えられてしまっていた。なので、見ることはできなかったが、小児はり部隊のほうでは子ども向けに「まるもりダンス」などもやったりして盛り上がっていたらしい。そのうち、私も「小児はり」のやり方も勉強してみようかなぁ~。……と、余韻と記憶が残っているうちに、そこでの治療の症例報告をしてみよう。
あとの祭り【症例1】患者:Sさん・男性・1939年生まれ(72歳) 主訴は、右下肢のしびれ。症状が起きたのは10年ほど前で、そのとき病院で腰椎椎間板のヘルニアと診断されたとのこと。 私:「ほかに、何か気になることはありますか?」 Sさん:「肩甲骨付近の凝りかな。こっちは20年ほど前からある」 私:「あとは?」 Sさん:「ああ、それから不眠症もあるんです。ずっと薬をもらって飲んでます」 私:「そうですか。足のしびれのほうは、今日の治療でだけ変化を出すのは難しいかもしれませんが、不眠のほうは首肩の凝りを取って背中の緊張を緩めてやればうまくいくと思いますよ」 今回は単発の治療なので、主訴以外の変化させやすい愁訴に患者の目を向けさせるという「振り替え詐欺作戦」でいくことにした。
まずは、仰臥位で脈診・腹診・舌診をさらりと済ませ、関元に金の鍉鍼を30秒ほど接触。つぎに、伏臥位で背部の状態を確かめると、神道、霊台、膈兪に反応があったので、これらに7壮ずつ施灸。 私:「家で誰か、お灸してくれる人いますか?」 Sさん:「家内にやってもらいます」 私:「では、いますえたところにやってもらってください」 そして、自宅施灸の指導をしながら腰部から下肢にかけての選穴をし、第4腰椎棘突起の右骨際、右環跳、右崑崙に刺鍼(若干の手技を加えて、そのまま数分間置鍼した後に抜鍼した)。なお、環跳の位置には2説あるが、この場合は「大腿骨の大転子の頂点と仙骨管裂孔を結んだ線上で、外1/3/と内2/3の接点」のほうである。そのあと、再度仰臥位になってもらい、左右の足三里と陽陵泉および左の陰陵泉に単刺して治療終了したのだが、その数時間後に再びSさんが現れ、実は思ってもいなかった失敗をやらかしていたことが発覚したのだ。 その失敗の内容をここで暴露してもいいのだが、とても恥ずかしいので、つづきは次回のお楽しみということで勘弁してほしい。そうだ! 次回は久しぶりに失敗特集でもやってみようか……。 恢刺(かいし)【症例2】患者:Hさん・男性・医師(N診療所所長) 主訴は、左項部の凝りと左耳の耳鳴り。交通事故の既往あり。 治療は、右側を上にした側臥位で、右の後頚部の風池のラインを指を滑らせるように探り、一番反応のあったところ(風池の下3横指あたり)に刺鍼し手技を加えて抜鍼。このときの手技は、教科書にも記載のある「古代十二刺」のひとつである「恢刺」でやってみた。ちなみに、恢刺とは、『霊枢・官鍼』に「直刺傍之挙之前後恢筋急以治筋皮也」とあるように、「筋の傍らに刺して、抜き刺ししたり前後に揺すったりして、筋肉の緊張を緩める方法」である。 なお、この時点で、主訴の半分(右項部の凝り)はだいぶ緩解していた。嘘だと思う関係者がいたら、ベッドサイドで見学していた「鍼灸指圧院H」のY先生に聞いてみてほしい。 このあと、座位で肩背部の反応点3カ所への施灸(ツボにより5~10壮程度)をし、肩背部の散鍼と曲池への引き鍼を加え、仕上げに左右の安眠穴へ円皮鍼(長さ0.3㎜)を貼付して治療終了。 参考のために、安眠穴というのは中国の新穴のひとつであり、その位置は「翳風と風池を結んだ線の中点」である。なお、安眠1(「翳風と翳明を結んだ線の中点」)や安眠2(「風池と翳明を結んだ中点」)、翳明(「翳風の後1寸」)などというツボがすぐ近くにあるらしいが、深谷灸法でいうところの変動穴に勝手な名前をつけただけのように思える。 設定が大切【症例3】患者:Iさん・男性・1929年生まれ(82歳) 主訴は、左手のしびれ。10年前からで、首の手術をしているという。今回も「振り替え詐欺作戦」でいこうと思い、1例目の患者さんと同じ質問をしてみた。 私:「ほかに、何か気になることはありますか?」 Iさん:「手足に力が入らないな」 私:「首を手術してからですか?」 Iさん:「そうだったかなぁ……」 私:「あと気になるところは?」 Iさん:「もう80を過ぎてるから、全身ガタがきてるんだよ」 作戦は敢えなく失敗に終わってしまったので、正攻法で挑むことにした。まず、仰臥位で左手の指5本すべての井穴から刺絡をしてみた。 私:「はい、手を握ったり開いたりしてみてください」 Iさん:「おっ、しびれが軽くなったし、さっきより手が動かしやすい」 私:「そうでしょう」 Iさん:「たいしたもんだ」 つぎに、座位になってもらって、百会から右斜め前方に向けて刺鍼し、捻転や提挿の手技を加えながら、左足を自由に動かしてもらった。同様に、百会から左斜め前方に向けて刺鍼し、右足を自由に動かしてもらった。 私:「それじゃあ、こんどは立って歩いてみてください」 I さん:「楽に歩けるわい」 私:「『鍼灸指圧院H』のY先生にもやり方を教えておくので、何回か通って治療してもらってください」 Iさん:「ほな、そうするわ」 実は、このときあらかじめ、ある種の設定(患者の頭部全体に、この患者自身の身体を投影するイメージング)を頭の中でしているのだ。やはり、鍼灸治療はこのような設定が大きな鍵を握っているのではないだろうか……。
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