週刊あはきワールドへようこそ! 2011年11月2日号 No.255

良導絡治療ってなぁに 第20回


肩こり、寝違えと良導絡


日本良導絡自律神経学会 吉田 隆

1.はじめに

 約700万年前、人類とチンパンジーは共通の祖先から分岐した。分岐して400万年間は双方で、脳の容量(約400~500g)はさほど違いはなかった。人類の化石調査によると、脳容量が大きくなり始めたのは、約240万年前頃といわれている。そして、現代人の大脳の重量は約1.2~1.4kgである。人類は二足歩行することにより、それまで歩行に用いていた前肢を他の作業に用いることができるようになった。それが大脳の肥大を招来した。

 肩こりは重い頭を不安定な脊柱に頂き、両手で様々な作業を行う人類の宿命といえよう。また、肩こりを有する人は寝違えも起こしやすい。

 肩こり、寝違えは良導絡治療が最も効果的な症状の一つである。これらの原因、治療法などについて書いてみたい。

2.肩こり

 肩こりは医学的病名ではないが、日本整形外科学会の肩こりプロジェクトは、「肩関節部・項部の間、項部、肩甲骨部および肩甲骨間部における「硬くなった感じ」「はっている感じ」「重苦しい感じ」「痛い感じ」と定義している。

 夏目漱石は1910(明治43)年3月から朝日新聞に「門」を連載した。その中に「頚と頭の継目の少し背中へ寄った局部が石のように凝っていた」という件があり、漱石が「肩こり」という言葉を考案したという説もある。

 さて、「肩こりは重い頭を不安定な脊柱に頂き、両手で様々な作業を行う人類の宿命といえよう」と上述したが、欧米には「肩こり」にあたる言葉はないらしい。なぜ、日本人には肩こりを訴える人が多く、欧米では少ないのだろう。日本人は頭の大きさに比べ、それを支える骨格が華奢であるため頚肩背腰部に過大な負担がかかっているということが考えられる。頭の重さは体重の8〜10分の1程度、60kgの人であれば、約4.8〜6kgである。

 アフリカや東南アジアなどには、水瓶を頭に乗せて水を運ぶ人たちがいる。そして、その役割は多くの場合、女性が担っている。彼女たちは自身の頭の重さに加え、水を満たした水瓶を頭に乗せるわけだが、彼女たちは、肩こりがないのだろうか。

 実は彼女たちは経験的に体に負担のかからない姿勢(耳と肩関節が同一ライン上になる姿勢=脊柱の上に頭がある状態)で水や荷物を運ぶので、その重さは体を貫く重心線を通って地面に抜けるため、頚肩背の筋肉はさほど負担がかからないのである。

 それでは、頭の重さが頚、肩、背にかからない位置(耳と肩が一直線上になる位置)から6kgの頭を前傾させると頚、肩、背部(僧帽筋)にはどれくらいの重さがかかるだろう。

 読書、書字、パソコン操作など我々が日常的に行う姿勢をとる時、曲げる角度にもよるが2~3倍、12~18kgほどの負荷がかかり、それを頚、肩、背(僧帽筋)の筋肉は支えることになるそうである。

3.肩こりにどこまで疑いを持てるか

 私は鍼灸師の最も重要な仕事の一つは、目の前にいる患者が鍼灸の適応か不適応かを判断することだと思っている。

 肩こりの成因は、不良姿勢、運動不足、眼精疲労、長期的に精神的・環境的ストレッサーに曝されること、など様々であるが、上記のような成因による肩こりは鍼灸が大きな力を発揮するだろう。

 しかし、患者が「肩、背中が凝っている」という時、それをそのまま信じてはいけない。なぜなら、患者の中には「痛みをこり」、「痺れを麻痺」などと症状を適切に表現できない人もいるからである。

 内臓体壁反射によって現れる肩こりに要注意である。例えば、内科的疾患では狭心症や心筋梗塞の際、左肩にこりが現れ、胆嚢、肝臓では右肩にこりが現れる。また、背中のこり、痛みは胃疾患、胆嚢炎、解離性大動脈瘤、心筋梗塞、膵臓炎、腎結石などが原因のこともある。

 整形外科的疾患としては頚椎症、頚椎ヘルニア、頚椎捻挫、胸郭出口症候群などが肩こりの原因として疑われる。

 鍼灸の適応外あるいはその疑いがある場合は早急に専門医に紹介すべきである。

4.肩こり、痛みの生理

 肩こりという言葉は多くの人がご存知だと思うが、それでは、なぜ肩こりが起こるのだろう。「姿勢が悪いから」「パソコンのやり過ぎ」「運動不足」いずれも原因としては正しい。もう一歩進めて、体内ではどのようなことが起こるのか、一つの機能的モデルで考えてみよう。しかし、現段階ではあくまでも、一つのモデルである。

 不良姿勢、眼精疲労という肉体的なストレッサーだけでなく、会社の人間関係、夫婦関係、借金、近隣トラブルなど、この世は精神的ストレッサーも満ち満ちている。ストレッサーが加わると交感神経が緊張し、副腎髄質からアドレナリンが分泌され血管が収縮する。血液が酸素や栄養素を組織に運ぶので、血液循環が悪くなると、筋緊張部位の局所乏血が起こり、細胞組織の酸素欠乏やエネルギーの代謝異常が起こる。これらの異常事態に反応し、血液中の血漿から発痛物質であるブラジキニンなどが産生される。

 それらはC線維の先端にあるポリモーダル受容器で受容される。

 通常、感覚受容器、例えば、高閾値機械侵害受容器は侵害刺激のみに、冷受容器は15℃以下の冷たい刺激のみに反応する。しかし、ポリモーダル受容器はその名のとおり、「ポリ」は「多くの」、「モーダル」は「様式の」受容器である。つまり、多くの様式の刺激(機械的刺激、化学的刺激、熱刺激など)に反応する。

 ここでブラジキニンという化学的刺激は電気的なデジタル信号に変換され、無髄のC線維(一次求心性ニューロン)を通り、脊髄後角に伝えられる。

 脊髄後角のⅡ層とⅤ層に終末した一次ニューロンにより伝えられた信号は、ここでシナプス接続した二次ニューロンにより、反対側、痛みの情動的側面にも関与する内側脊髄視床路(旧脊髄視床路)を通る。この経路は延髄や脳幹など様々な部位に寄り道をして中継され、視床で内側部に入り、大脳皮質体性感覚野に到達し、「こり感」や「痛み」として感覚される。また、旧脊髄視床路は脳幹網様体、結合腕傍核、中脳中心灰白質などを多シナプス性に経由した入力があり、髄板内核群から大脳辺縁系の広汎な領域に伝わり、脳を覚醒状態にするとともに、痛みによって引き起こされる情動形成にも関与する。

5.寝違え

 寝違えとは、睡眠中に無理な姿勢を取ったり、無理な頚の動かし方をすることで頚の筋肉に負担がかかり、筋違えを起こして筋肉痛に似た痛みが生じる症状で、整形外科では「頚椎捻挫」という診断名がつけられる。しかし、捻挫とは関節を「捻り挫く(ねじりくじく)」ことをいい、関節を包む関節包や骨と骨を繋ぐ靭帯および軟部組織を損傷した状態を指し、損傷部位は炎症も起こしていよう。

 整形外科の牽引などがあまり効なく、鍼灸が著効を示すことから、捻挫というよりもやはり「筋痛症」の一つのように思える。そして、その原因となるのがこりによる当該部位の筋緊張である。

 寝違えにも軽重あるので、1度の施術で痛みがとれないものは筋線維の微少断裂(minor trauma)を起こしている可能性がある。肩こりの痛みの機序は上記したが、筋疲労や精神的ストレスにより筋緊張が起こると、筋中の毛細血管が圧迫され、血液循環が悪くなる。血液が酸素やエネルギー源を筋肉に運搬するので、血液循環が悪くなると、局所の筋肉の酸欠やエネルギー代謝異常が起こり、発痛物質源が産生され、その刺激により筋がこわばり、それが更なる痛みの原因となる「痛みの悪循環」が形成される。

 硬いものは強いと思われがちだが、一概にそうとは言えない。例えば、台風のとき堅い木は折れることがあるが、細く柔軟な柳の枝は風を受け流して折れない。筋肉も健康で柔軟な筋肉であれば少々無理な方向に伸ばしても問題ないが、疲労がたまり、硬く柔軟性に乏しい筋肉は寝相、くしゃみ、せき、うがいといった通常であれば何ということも無いことがthe last straw(我慢の限界)となり、筋線維がやぶれて炎症を起こし激痛が生じるのではないだろうか。いずれにしても「寝違えの陰に肩こりあり」である。

6.良導絡治療

  治療の流れは他の疾患と同じである。
 1.全良導絡測定
 2.基本調整点治療
 3.反応良導点治療 

 上記1~3については他の先生が詳述しているので、ここでは触れない。

 1.2.を行った後、3.反応良導点治療を行う。

 当院では局所の鎮痛、筋緊張緩和、血流改善を目的に、まず腹臥位で置鍼あるいは低周波鍼通電を行う。この時、経穴名を考慮することはもちろん大切であるが、生きた治療点、つまり反応良導点、トリガーポイント、運動痛点、圧痛点を用いるとよい。

 痛みが強い場合は置鍼を10~15分、弱い場合は低周波鍼通電を15から20分行う。

 鎮痛に刺鍼の響き(得気)は必要ないと考える術者もいるが、カプサイシンで鍼の求心路を遮断すると鎮痛効果が消失することからも、私には鍼鎮痛系の入力はポリモーダル受容器が集まっている部位からなされると思われる。そのため、響きはないよりあったほうがよいという考えである。腹臥位で痛みがとれれば、これで終了。

 鎮痛が不十分な場合は、次に、運動鍼を行う。方法は患者に座位で頚を痛い方向に動かしてもらい、痛点に刺鍼、響きを得た後、頚を自分のペースで動かしてもらう。痛点が1カ所の場合は運動鍼(置鍼しながら頚を動かす)あるいは通電運動鍼(昭和鍼管を用いて刺鍼通電しながら頚を動かす)を行う。痛む部位が広範囲な場合は多部位置鍼運動療法(痛む複数部位に必要なだけ刺鍼し、頚を動かす)を行う。多部位置鍼運動療法を行う時、術者が上手に患者を誘導する。私は「動かすと痛い所に鍼があたっていますか?頚を痛い方向に自分のペースで動かしてください。小さくゆっくり動かせば、弱く響きます。大きく早く動かせば、強く響きます。自分のペースで動かして鍼の響きを味わってください。」という具合に患者を誘導する。

 治療の主役は誰か? 患者である、術者ではない。インフォームド・コンセント(説明を十分行ったうえでの、同意)だけでなく、患者自身が自分に合った心地良い鍼の強さを自分で調節することができる運動鍼の各用法は患者参加型治療といえよう。

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