週刊あはきワールドへようこそ! 2011年11月23・30日
合併号 No.258

灸療閑話 第61話


失敗は○○のもと


灸法臨床研究会 福島哲也

 「失敗は成功のもと」の格言や「失敗は成功の母」という発明王エジソンの言葉があるが、私にとっては「失敗は原稿ネタの宝庫」でもある。今回は、予告通りに失敗特集でお届けしようと思う。

失敗談速報

 この日曜日に、三重県鍼灸師会で「婦人科疾患の灸治療~『名家灸選』三部作所載の治療法について~」というタイトルで講演を行った。その講義中にパワーポイントで作成したスライド(および配布資料)の一部にミスがあったのを講義中に発見した。

 帯下、崩漏、経水調はず、腰中冷えて妊むことなき者を治す法  筑州太医伝

 先ず縄子を以て左右十指の爪甲の寸を取りて其の寸を伸ばし、之を三折して、その一分を断ち去り、其の二分を用いて、患人をして席上に距坐せしめ、其の二分の寸を以て、長強より上へ脊骨に直てて仮点す。又前の仮点左の骨際に一穴、合せて三穴へ各二十一壮。
 按ずるに世上多く男は左、女は右之法有り。此の法は婦人へ左に用ゆ、妙術口伝に存する也。

 この文章を見て、一瞬でどこかおかしいと思った人は、かなり勉強していると思う。どこがおかしいか皆目わからない人も、文章の指示の通りに実際に取穴してみるとすぐに気が付くだろう。実は、ある部分の一文がすっぽり抜け落ちてしまっているのだ。

 原因は、いつものことだが講演数日前ギリギリに慌てて資料を作ったのとその確認(校正)作業を怠ったためだ。

前回の症例1におけるミス

 鍼灸臨床で遭遇しうる過誤といえば、気胸や折鍼といった重大事故をはじめ、抜鍼後の出血および内出血(皮下溢血)、火傷、化膿、脳貧血、症状の悪化などが考えられるが、再度、我々の前に姿をみせたSさんとのやり取りを再現してみよう。

Sさん:「さっき福島先生に治療してもらったんだけど……」
私:「あっ、どうも。どうかされましたか?」
Sさん:「お土産にこんなの持たされたんだけど……」

 Sさんが手にしていたのは、ティッシュペーパーに包まれた曲がった鍼だった。それを見た私は、思ってもいなかった失敗をやらかしていたという事実を被害者(患者)の口から直接知らされて、顔から火が出るというよりも嘉門達夫の歌の『鼻から牛乳』の思いであったが、慌てずにこう答えた。

私:「それは失礼しました。ここに捨てて下さい」
Sさん:「他に(残って)ないでしょうね?」
私:「大丈夫です!」
A先生:「先生、抜き忘れなんて珍しいね」
私:「……」

20年以上も臨床をしていれば、誰でも面の皮が多少は厚くなり、こんな対応が自然にできるようになる。

 今回の失敗は、ヒヤリハット事例であり「鍼の抜き忘れ」であったが、どこに置鍼をしたのか「記憶にございません」状態だった。一時的な記憶喪失なのか、若年性認知症が始まったのか私自身にもわからないが、Sさんの訴えに不眠症があったので、おそらく無意識に百会か顖会に置鍼をしてしまったのだろう。そして、それを抜き忘れたのだ。

前日のフェリー上でのささやかな宴のアルコールの残留と寝不足のせいじゃないかという意見もあるだろうが、単にボーッとしていただけという説もある。

1:29:300

 実は、治療後に鍼が1本足りないことには気づいてはいたのだ。治療をしたベッドの床に鍼が1本落ちていたのを治療終了後に見つけ、「ああ、落としたんだな」と思ったのだが、そのベッドにはすぐに別の先生がつぎの患者の治療を始めたため鍼を回収する時間的余裕がなかった。ところが、あとでその鍼を回収してみたところ、私が落としたと思ったステンレスの1寸の鍼ではなく、別の誰かが落としたであろう1寸3分の鍼であった。

ここで、鍼灸の女神様が現れて「あなたが落としたのは、この24金の員鍉鍼ですか?」と訊かれたら、私は迷わず「はい、そうです!」と答えるだろう。

 近年、鍼灸の分野でも「ヒヤリハット」というキーワードがよく使われているが、労働災害における経験則のひとつとして、『ハインリッヒの法則』というのがある。これは、「1つの重大事故の裏には29件の軽微な事故があり、その背景には300の事故寸前の事象がある」というものだそうだ。これに別名を勝手に付けて、『あったら怖いゴキブリ算』と呼んでしまうのは私だけだろうか……。

「ツルカメ算」や「ねずみ算」はよく知られているが、「ゴキブリ算」が実際にあるものなのかどうかは定かではない。

禁句

 以前、「大丈夫ですか?」というフレーズは、某会では罰金ものの禁句であるということを書いたが、そのほかにも禁句にしたいフレーズがある。それの一つが、病院(整形外科など)や接骨院では常套句と思われる「電気を流しますね」である。

 これは、ペースメーカーを入れているというある患者さんから聞いた話だが、その人が以前かかっていた鍼灸師から事前に何の説明もなしにパルス鍼をやられそうになったと憤慨していた。

鍼灸師:「それじゃ、いまから電気を流しますね」
患者:「ええっ? 私、ペースメーカー入れてるんですよ」
鍼灸師:「今の機械は良くなってるから大丈夫です」
患者:「やっぱり怖いから止めてください」

 鍼灸院でも低周波鍼通電療法(いわゆるパルス鍼)を行っている先生は、無意識に使っているかもしれないが、ペースメーカーを入れていたりテンカン持ちの患者以外にも、「電気を流す」ということに恐怖を感じる人も少なからずいるので、せめて「筋肉が少し動きますよ」とか「トントンと叩くような感じがしますね」とかいう表現に変えてみてはいかがだろうか?

冒頭の正解は?

 最後に、冒頭の間違い探しの答え合わせをしておこう。正解は、「下線の部分が抜けていた」でした。当日、受講された先生がたには、ご迷惑をおかけしましたことを、この場を借りてお詫びいたします。

 帯下、崩漏、経水調はず、腰中冷えて妊むことなき者を治す法  筑州太医伝

 先ず縄子を以て左右十指の爪甲の寸を取りて其の寸を伸ばし、之を三折して、その一分を断ち去り、其の二分を用いて、患人をして席上に距坐せしめ、其の二分の寸を以て、長強より上へ脊骨に直てて仮点す。又其の二分の寸を折って其の折る処を仮点に直て左右に開き尽る処の二穴。又前の仮点左の骨際 に一穴、合せて三穴へ各二十一壮。
 按ずるに世上多く男は左、女は右之法有り。此の法は婦人へ左に用ゆ、妙術口伝に存する也。

この記事に対するご意見やご感想をお寄せください≫≫ Click Here!



トップページにもどる