週刊あはきワールドへようこそ! 2011年12月14日号 No.260

■症例報告

熱鍼治療の症例 (1)

寺子屋お産塾 田中寿雄

 私の鍼灸治療は鍼と灸に加えて、同等レベルで熱鍼が占めている。急性腰痛症は治療の機会が珍しくない疾患の一つであり、軽重さまざまな急性腰痛症の臨床経験を積んできた。

 最近は熱鍼治療だけで対処するケースもある。最大の理由は治療効果が優れているからであり、加えて短時間で治療できるメリットがある。

症例 : 急性腰痛症 男性 30歳

 初めてのギックリ腰で会社を休み寝込んでいた時、同じ症状を経験した知人から鍼治療を勧められて来院。

状況 : 3日前、会社帰り同僚と飲食して帰宅した時、腰の張りと寒さを自覚していたので入浴してすぐに就寝。翌朝、腰に弛みを感じた程度であったが徐々に痛みが強くなり、30分ほど経過した頃には歩行不能となった。1日安静に寝ていたが、翌日も軽減せず室内での移動は伝い歩きと四つん這い状態。腰痛が発症して3日目、症状に変化が見られないとのこと。

診察 : 待合室から伝い歩きで、何とかベッドに腰掛けたので、その体勢で診察することにした。腰痛が発症した前日、腰の張りと寒さを自覚していたとのことから、冷えが経筋を侵した可能性ありと推測して、最初に経筋症の有無を診察。

経筋診断
1) 音素診断 : 5指の先端を集めたセンサーを掌に当てて、「ボウ」の言葉をイメージしてFTを行うとSm(異常なし)。
2) 再確認の意味で経筋診断部である顔面部、胸部、鼡径部に、指先を上に向けた手背をセンサーとして各診断部に当てながらFTを行うと、いずれもSm。十二経筋は異常なし、音素診断と一致。(入江式経筋診断法については「メモ帳」を参照ください)


         図1                    図2
 次に、腰部~仙骨部にわたって感知されたSTの部位を巡る経脈に、それぞれ棒磁石を当てながらFTを試みると、督脈は上流にN極、下流にS極(写真1)でFTを行うとSt、棒磁石を逆方向にするとSm(写真2)。

 同様に、岸膀胱経一行線 ・膀胱経一行線 ・膀胱経二行線の経脈上に棒磁石を貼付して、Smが感知された棒磁石のN極 → S極方向に矢印。

診断 : 矢印が流注と同方向は虚、逆方向は実として、督脈は実。岸膀胱経は左側が実、右側は虚。膀胱経一行線も左側は実、右側は虚。膀胱経二行線は左側が虚、右側は実。

治療 : 矢印の方向に熱刺激をチョン・チョン・チョンと1~9の順に施した。① 左膀胱経二行線 ② 右膀胱経二行線 ③督脈 ④ 右膀胱経一行線 ⑤ 左膀胱経一行線 ⑥ 右岸膀胱経 ⑦ 左岸膀胱経 ⑧ 督脈 ⑨ 帯脈 左→右。熱鍼治療の標治法のみで治療を終えた。

術後 : 痛みは半減したそうで、伝い歩きせずに自立歩行が可能となった。

第2診 :(2日後)

 痛みは翌日には消失したが、弛みを感じるとのこと。

治療 :初診時と同様処置。

まとめ

 思い起こせば、私が在籍した当時の鍼灸学校では、2年3年生は臨床実技の時間があり、学校方針(?)だったのか、診断・治療は全て生徒にお任せで、臨床室に生徒だけの時もあった。

 鍼灸医学の知識・治療技術は半人前にも遠く及ばないのに、術後「楽になった」と告げられると、鍼灸治療の凄さに驚く反面、鍼灸師として一人前になるには何が不可欠か模索することもなかった。同級生の友人の一人は六部定位脈診を行い腎虚だ、肝実だと言って治療していたが、特に関心を寄せることなく能天気に過ごしていた自分を今更悔やんでも仕方ない。

 知人の医師が、「東洋医学は言葉遊びをしているようだ」と話されたことがあり、真意は尋ねなかったが、そのような感想を持たれた根拠が、私なりに少し理解できるようになったと思っている。

 さて、今回の症例は臓腑の変調が主要な原因というより、生活習慣をはじめさまざまな要因によって脊椎の維持組織である筋肉・靱帯に不均衡が生じ、微小な脊椎変位に起因した腰痛であろう。

 経絡が体内を隈なく巡り、生命活動を維持しているとする東洋医学の生理観・病理感に基づけば、脊椎の維持組織である筋肉・靱帯を流注している経脈に、正気の虚と病邪の実という病的状態が発生した結果、脊椎に不均衡が生じたと言い換えることができる。

 さらに、陰陽説の≪陰は上がり、陽は下がる≫という経脈の流注をもとに、治療目標を虚は流注の流れに従って熱刺激を与え、実は流れに逆行して刺激すると、虚には補、実には瀉の刺激となって、筋肉・靱帯を巡っている経絡の病的状態である虚実を平常状態に導くことになる。

 その結果、脊椎の不均衡を引き起こしていた筋肉・靱帯が矯正されて、愁訴が改善・消失されるのであろう。

【メモ帳】
入江式経筋診断法とセンサー
 経筋が寒に侵されたケースは痛みが発症し、熱に侵されたケースは弛緩して麻痺が発症する。
 診察は経筋の流注が全て指先から体幹に向かうので、いずれも経筋の流注上に指先を体幹に向けて当てるが、寒は手の甲、熱は手のひら側を当ててFTで検出する。
(写真は寒に侵されたか否かの診察)

手の陽経筋診断部 <側頭部>(大腸経筋 ・三焦経筋 ・小腸経筋)(写真3)
足の陽経筋診断部 <顔面部>(胃経筋 ・胆経筋 ・膀胱経筋)(写真4)


        写真3                  写真4 











手の陰経筋診断部 <胸部>(肺経筋 ・心包経筋 ・心経筋)(写真5)
足の陰経筋診断部 <鼡径部>(脾経筋 ・肝経筋 ・腎経筋)(写真6)


        写真5                  写真6 











 上記の部位でStを感知したら、グループの同側経筋を個別に診察して検出する。

参考文献
臨床東洋医学原論 入江正著

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