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2012年1月4日号 No.263

【新連載】症例から学ぶ在宅ケア“生”情報 その1


リンパ浮腫が劇的に改善した末期癌患者Nさん


㈱訪問リハビリ研究センター 小牧美奈子

 在宅の現場でAZP(Anatomical Zero Position、解剖学的肢位)からかけ離れた患者を前に「寝たきりにしない・させない・つくらない」ために、座位、立位、歩行へとレベルアップを目指していくわけですが…。股関節・膝関節がAZPライン上で90°になれば座位へと移行できるのは理解できる。…が股関節や膝関節を90°に関節可動域を改善するにはどうすればよいのだろう? と悩んでいる人もいるのではないでしょうか。

 このコーナーでは、㈱訪問リハビリ研究センターのスタッフが担当する患者さんの関節拘縮や麻痺、浮腫などへのアプローチを1つの関節・部位に焦点を当て、症例報告(施術報告)という形でこれから紹介していきます。在宅の現場では、患者の様態はもちろんのこと介護者の有無、介護サービスの状態により様々な制約がありますが施術のヒントにしてください。

症例:末期癌患者Nさん 74歳 女性

主訴

1カ月ほど前(9月下旬頃)からリンパ浮腫出現。往診医師・訪問看護師から当社での訪問リハビリ(在宅ケア)を勧められる。

既往歴
 2009年9月、結腸癌にて人工肛門造設 → 腹膜・肝臓転移あり。2010年3月、 右卵巣転移にてオペ → 脾臓・肺への転移あり。

現在に至るまでの経過
 抗癌剤治療を継続も、2011年3月4日に体調を崩し再入院。以降、症状に対する緩和ケア中心となる。9月下旬頃から両下腿の浮腫出現。リンパ浮腫と診断される。

初回アセスメント(2011年10月31日)
 左右の下腿から足関節周囲にかけてのリンパ浮腫(右>左)。特に右下腿は浮腫により内圧が高まり皮膚がピカピカ光り、まるでラップを張ったかのような状態。右下腿の皮膚に触れると痛みを訴えるため、下腿への直接的なアプローチはしばらく無理かと思われた。

 ある程度浮腫が軽減するまで4回/週を提案したが、他の介護サービスとの兼ね合いから3回/週(月・火・木)となった。

短期目標
 右下腿は皮膚に触れるだけで痛みを訴えるため、下腿への直接的なアプローチを断念し、足先から股関節にかけて「下肢の関節リラクゼーションテクニック」で血液循環改善とリンパ還流促進による浮腫改善を短期目標とした。

施術内容
1)下肢の関節リラクゼーションテニック (『あはき師のための在宅ケア実践マニュアル』参照)
 足趾関節 → MP関節 → 足関節 → 膝関節 → 股関節 と股関節の運動テクニック(50回キャンペーン)をゆっくり丁寧に動かし、“筋肉は血液を動かすポンプ”というイメージで片足につき10分ほどかけて関節リラクゼーションテクニックを行った。

 下腿の筋肉を収縮させる足関節のリラクゼーションテクニックについては50回以上行う。するとピカピカに光っていた下腿の皮膚に“ちりめん”状のシワが見て取れた。浮腫が改善した証である。

7回目訪問時、患者から「医師に腹水も溜まっていると言われた」との報告を受けたので腰部の筋肉を動かし、腹水改善を図る目的で股関節の運動テクニック(50回キャンペーン)を2セットずつ行った。


2)下腿全体への手掌圧迫
 下腿の皮膚に“ちりめん”状シワが出た状態で下腿に触れると施術前に訴えていた痛みが軽減していたので、手掌全体を密着させ、軽い圧で“加圧 → 減圧”を下腿下部から上部へとゆっくり、ゆっくりと数回繰り返した。余分な水分を毛細血管やリンパ管へ戻すイメージで。

3)下腿後面からの四指腹圧迫
 10回目訪問時に皮膚や腓腹筋に弾力を感じるほどの改善が見られたので腓腹筋の筋溝に四指腹を当て脛骨に向け、脛骨の後面を通る後脛骨動脈への刺激をイメージした持続圧を下腿下部から上部へと進めていった。

患者には初回アセスメント時に座位で足関節の運動(背屈⇔底屈)を5~6回/日でよいので毎日行うよう指導した。

経過
2011年10月31日(初回施術)~11月17日(9回目)
 初回施術した10月31日(月)の翌日(火)に訪問すると“ちりめん”状の皮膚が維持され、下腿への手掌圧で直接的なアプローチも加えることで初回訪問時の浮腫を5とすると4.5へと少しではあるが改善した。…が、2日後の木曜日(11月3日)に訪問すると5に戻っている。11月3日(木)から施術4日後の月曜日(11月7日)に訪問すると5ではあるがなんとか維持。3週間ほど、この状態が続いた。

2011年11月21日(10回目)~12月1日(15回目)
 前回施術から4日後の訪問で、5に戻っていると思いきや、なんと5 → 4へと改善。11回目には4 → 3.5へ。12回目には3.5 → 3へ(両下腿上部1/3に至っては、3.5 → 1)。


11/24(12回目)訪問時写真:右下腿  11/24(12回目)訪問時写真:左下腿














 13回目には3 → 2(右下腿2/3まで1。左は上部1/3が1)。その後15回目までは2でほとんど変化なしではあるが2を維持(右<左)。

2011年12月5日(16回目)~12月19日(21回目)※12月6日(火)は通院のため、休み
 右足については16回目には足関節周囲まで1へと改善するも、左においては13回目頃~20回目まで施術直後は3 → 2と改善が見られるのだが、次回訪問すると 3に戻る状態が続いた。

 18回目から片足10分ほどかけていた下肢の関節リラクゼーションテクニックも5分ほどで十分に筋肉の柔軟性と皮膚の張り感を改善できるようになった。左下肢には10分かけ、改善を目指したところ21回目訪問時には1へと改善。

最後に
 過去に数人の末期癌患者のリンパ浮腫を担当し、4~5回/週の施術である程度の改善症例はあったが、今回のような3回/週の施術で効果を出せるのか不安だった。短期間で劇的な改善がみられた要因として次のようなことが考えられる。

・リンパ浮腫が出現してから1カ月ほどで施術に入れたこと
・患者本人に食欲があり体力があったこと
・自主訓練として足関節の運動(背屈⇔底屈)を行ったこと

 リンパ浮腫が重度で皮膚が過敏状態で直接的なアプローチが困難な場合であっても、関節リラクゼーションテクニックを行うことで皮膚の血行を改善させ、直接的なアプローチへと繋げることが可能となる。

◎ご質問・ご意見・ご感想は≫≫ こちらまで

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