病証(4) 少陽の病
術伝(和方養生技術伝承塾) 金子芳幸
(1)基本的に
少陽の病は、体の横・側面におもな症状が出る病で、ツボが深く、変わりにくく、ぶり返しがおおいことが特徴です。また、かるくても治りにくい病は、少陽位にツボが出ていることがおおいです。
代表例は、まず、体の横側面に関係のある病、つまり、脇痛、偏頭痛、耳鳴り、眩暈などで、古典にも書かれています。
「少陽之為病、口苦、咽乾、目眩也」(『傷寒論』)
つぎに、経過が長く、かるくても治りにくい傾向の病です。喘息、アトピー、花粉症などのアレルギー疾患でも、少陽経にツボが出ます。また、経過が長くなると、肩こり、腰痛、瘀血証などでも、少陽よりにツボが出ることがおおくなります。
片麻痺になることがおおい脳血管障害の原因になることもあります。そういう人は左右どちらかの横腹のスジバリがひどく、脈の左右差も大きいです。とくに上腹部の中焦に水毒がおおい場合には可能性が高くなります。
なかなか変わらず、良くなってもぶり返すことがおおいです。また、良くなっていく過程で、昔の症状が復活することもよくあります。とくに、薬などで症状のみ消した場合には、 ぶり返しや症状の復活などがおおくなります。
この典型例は、アトピー性皮膚炎と喘息の複合症状です。治療の過程で、喘息症状と皮膚炎が繰り返し出現しながら軽くなっていくことがおおいです。患者さんにそういう点をよく話し、時間がかかることも伝えます。
また、ツボの出ている側面が、体の上下で、左右入れ替わることもよくあります。歯医者さんで、体全体ほぼ右がこっていて、左耳の直下だけ左がこり、左耳の耳鳴りのある人がいました。仕事中の特有の姿勢に由来すると思われます。
(2)ツボが出やすいところ、ねらい目
まずは、手足の少陽経。手では、手甲の2~3間、3~4間、4~5間(中渚)と、外関など。灸では、中指と薬指の拳先、骨空、指端も使えます。足では、足徹腹(外承扶)、風市、外丘〜飛揚、足甲3~4間、足臨泣〜地五会など。
つぎは、体の横側面。頚では、横頚中央。背側では、肩貞、痞根、徹腹、環跳。腹側では、横腹、章門、五枢~維道、居髎。
また、少陽経と表裏の手足厥陰に出ることもあります。内関、上曲沢、陰包、蠡溝など。
経過が長いので、古い病でツボが出る体の境目にもおおくなります。左右境界では、背の肩甲間部の華佗経、胸の膻中、腹の臍まわり。上下境界の横隔膜あたりでは、背の膈兪〜督兪、腹の心下部や章門。体と手足の境目では、肩貞、居髎、足徹腹。このあたりは、「古いツボ、古い病」というテーマで、病証編のあとの応用編で解説する予定です。
そのほか症状におうじてツボは出ます。
耳関連では、耳まわりの翳風、完骨、風池。耳関連で、内耳の水毒が関係するときは、足太陰にもツボが出ていることがあります。
中風の予防には、横腹のスジバリなど。
花粉症は、上衝もあるので、合谷に引きます。鼻水に上星、鼻の後ろの玉沈など。
喘息では、肩甲間部の華佗経、膻中など。
(3)手順
経過が長いので、慢性期や応急的予防処置がおおいです。急性期は慎重に。脳血管障害など重度の病変がうたがわれるときは、救急医療と連携します。
1.応急的予防処置
まず、あお向けかうつ伏せで横側面のツボの出方をしらべます。そのあと、横向きに寝てもらい施術します。
左右入れ替わりのあるときは途中で寝方を変えてもらいます。
手甲~内関の順で引き鍼したあと、頭から足に上から下の順で、出ているツボを刺鍼するのが基本手順です。体の上下境目あたりは、痞根→章門→腰徹腹の順になります。「陽→陰→陽」の基本ですね。足の陰経にツボが出ていれば刺鍼し、頭を散鍼し手の甲に引いて仕上げます。
手足陰経や腹への刺鍼は、状況を見ながら慎重にします。刺鍼しないこともおおいです。腹の章門に刺鍼しないときは、内関と足の陰経以降の刺鍼は、省略も可能です。ただし、上衝しそうなら省略はできません。
症状に応じて、症状ごとのツボをそのツボが出ているあたりを刺すときに加えます。耳鳴り、難聴のときは、耳まわりに熱のあることがおおく、そのときは散鍼します。
2.慢性期
ツボを考慮して、慢性期の型の順で刺鍼します。必要に応じて、灸・灸頭鍼をし、手の指端の灸で仕上げます。
喘息で肩甲間部の華佗経に細い溝状のくぼみがあるときには、灸頭鍼が効きます。
灸や灸頭鍼と置鍼を中心とするときは、手の中指か薬指の骨空に灸したあと、横向き、または、うつぶせで、頭から足に、つぎに、あお向けで上から下に施術し、手指端の灸で仕上げます。
花粉症では、鼻関連の頭のツボに置鍼すると、鼻水対策になります。
3.眩暈発作、突発性難聴
これらは、少陽病でも発作的な病ですので、手早い刺鍼が大切になります。体の横側を邪気が突き上げる病態、つまり、上衝の一種と考えます。
手甲、内関の順に引き鍼したあと、完骨、翳風、風池など耳まわりに出ているツボに刺鍼し、体の横側に出ているツボを首から足にむかって刺鍼していきます。横頚中央、肩貞、大包、痞根、風市、外丘、地五会など。途中でツボの出方が左右逆になる場合もあります。ツボが出ていないときには省略しますし、発作が軽減したらその時点で止めます。頭に散鍼したあと、手甲に引き鍼して仕上げます。
眩暈がひどい場合などは、内関に鍼しないで施術したほうが良いこともあります。患者さんの状態をよく確かめながら施術することが大切になります。
表位の急性症状でもあるので、以前に書いた「先急の一本鍼」の「表位・少陽経の急性期」(術伝流一本鍼no.23)も参照してください。
4.子供の喘息
子供の喘息には、肩甲間部や命門~横腹の小児鍼、背骨ゆすり、くすぐりが効きます。応用編の「子供にコロコロ」で、くわしく解説する予定です。
(4)写真付き症例
ひどいアトピーだったのがよくなったけれど、その影響が残っているという人。
時間の関係もあり、応急的予防処置で、体の横側、体側面の左右差の調整をしてみました。
うつ伏せになってもらい(写真1)、左右差のツボの出やすいところを順にしらべていきました。
上半身は左側にツボが出ていました。横頚部中央(写真2)、肩甲骨外上側の肩貞(写真3)。

写真1 写真2 写真3
脇腹あたりから下は、右側にツボが出ていました。痞根(写真4)、腰徹腹(写真5)、足徹腹(写真6)、風市(写真7)。

写真4 写真5 写真6

写真7 写真8 写真9
この人にこの手順で刺鍼するのは初めてのこともあり、陽経陽位のみ刺鍼することにしました。まずは、左を上にした横向き寝になってもらい、左手甲3~4間に出ていたツボ(写真8)に刺鍼しました(写真9)。
つぎは、左横頚部中央(写真10)と左肩貞(写真11)。鍼を刺す向きが分かりやすいように、鍼管で方向をしめしています。

写真10 写真11 写真12
それから、右を上にした横向き寝になってもらい、右痞根と右腰徹腹に順に刺鍼しました(写真12)。この2つのツボは、前にも書きましたが、脊柱起立筋のいちばん外側で、肋骨よりと骨盤よりです。
それから、足少陽に出ていたツボに、上から順に刺鍼していきました。風市(写真13)、飛揚~外丘(写真14)、丘墟(写真15)。

写真13 写真14 写真15

写真16 写真17
座位になってもらい、頭に散鍼し(写真16)、左手甲3~4八邪(写真17)に刺鍼し、仕上げました。八邪も、鍼管で刺鍼方向をしめしています。