週刊あはきワールド 2007年4月25日・5月2日
合併号   No.33

■インタビュー 東京九鍼研究会・石原克己代表に聞く

毫鍼・灸法の可能性と限界を整理できたとき
九鍼の必要性を感じた!

鑱鍼(ざんしん)、員鍼(えんしん)、鍉鍼(ていしん)、鋒鍼(ほうしん)、鈹鍼(ひしん)、員利鍼、毫鍼、長鍼、大鍼。この9種類の鍼は言わずもがな、古代九鍼である。鍼灸師なら誰でも知識としては知っているが、臨床の世界ではいくつかの鍼の除いてはいわば忘れられた存在になっていた。ところが最近、この九鍼に関心を示す人が増えてきている。今日は、自らの臨床の中で九鍼を自在に使いこなしている石原克己・東京九鍼研究会代表に、それぞれの鍼を使う目的や適応病態,、鍼の応用、注意事項など、九鍼についていろいろ話を聞いた。

聞き手:「あはきワールド」編集人 


――東京九鍼研究会を2005年に立ち上げてから、九鍼といえば石原克己の代名詞ではないか、と思えるくらい、石原さんはいま脚光を浴びていますね。今年は古典系の学会などでは引っ張りだこだとか。

石原九鍼をやられる先生はほかにもたくさんいらっしゃるとは思いますが、今年はなぜか多いですね。日本刺絡学会や日本伝統鍼灸学会などにシンポジストや実技の演者として招聘されています。そのほか、鍼灸学校・鍼灸関連団体や研究会などからも、九鍼についての講義や講演の依頼が結構来ています。

――ということは、九鍼に対する関心が高まっているということですか。

石原そう思います。特に若い人たちにはその気運を感じます。九鍼研究会は毎年、基礎講座として東京で1年間と大阪で半年間の講座を開いているのですが、大阪では今年、定員オーバーの60人が集まりました。多すぎると、指導するのが大変ですが、スタッフはうれしい悲鳴を上げているところです。

――すごい人気ですね。今日は、にわかに関心が高まっている九鍼について、いろいろお話を聞きたいと思います。まず石原さんと九鍼の出合いから聞かせてください。

日本や中国の多くの先生から九鍼を学んだ

石原30年前に訪中したとき、毫鍼のいろんな手技手法や長鍼、大鍼、頭皮鍼を知ることができました。ただ、すぐに臨床で使えるようになったわけではありません。誰でもそうだと思いますが、私の場合もまず実際の患者さんに刺せるようになったのは毫鍼からです。毫鍼は、私の母校が東洋鍼灸専門学校なので、当時そこの校長をしていた石野信安先生に手ほどきを受けました。毫鍼による小野文恵流接触鍼・刺入鍼といったものを教えていただきました。その頃はこのほか、自分で灸頭鍼や三稜鍼の使い方を覚えたほか、灸法各種を利用していました。

 その1年後ぐらいになると、工藤訓正先生から工藤流刺絡を学び、臨床でとり入れるようになりました。さらに、その2年後には、柳谷素霊先生の弟子の一人の橋本素岳先生から員鍼、鑱鍼、鍉鍼、長鍼、夢分流打鍼、そして角田章先生から挫刺鍼を学び、実際の臨床にとり入れていきました。

――石原さんは火鍼も臨床でよく使われると聞いていますが、火鍼はどうやって学んだのですか。

石原火鍼はかれこれ22年前になります。北京に行ったとき、「火鍼を行っている人を知りませんか」と伝えたところ、火鍼治療を一例見学することができました。それまで、火鍼についてはずうっとひっかかっていたので、実際自分の目で見たときにはそのひっかかりがとれた思いでした。それ以来、冷えや痛みの疾患、イボ、タコなどに火鍼を利用し始めました。

 また、14年前のことですが、北京三通法研究会会長の賀普仁先生と出会えたことで、火鍼治療の幅を広げることができました。

 そのような出会いをきっかけに、いまでは、私の臨床は九鍼のうち鈹鍼を除いたものに加え、挫刺鍼、火鍼、巨鍼、打鍼、皮内鍼、円皮鍼、耳鍼、頭皮鍼、灸頭鍼、灸法各種、王不留行の種子、カラーテープの接触を利用しています。

九鍼をなぜ使う必要があるの?

――九鍼以外にも、多彩な鍼を使われているのですね。でも、率直に「そんなにいろんな鍼、特に強刺激の鍼を使う必要ないんじゃないの?」と考える人もいるのでは、と思いますが、どうですか。特に九鍼をすべて臨床に用いる必要があるのですか。

石原もちろん、あります。私が九鍼の必要性を感じたのは次のようなときです。1つ目は、毫鍼・灸法の可能性と限界を知り整理できたときです。2つ目は、患者さんがより早く健康的生活に復帰できるように考えたときです。3つ目は、簡単で効果が生じるという事実が観察できたときです。4つ目は、急性病、難病に取り組んだときです。5つ目は、エネルギー体、皮膚、経絡、肌肉、経筋、骨、蔵府など人体を立体的に考えたときです。

 毫鍼だけで解決できない患者さんを目の前にしたとき、どうするのか。匙を投げ、ほかの医療機関を紹介するのも一つの選択肢ですが、私は単純に「治してあげたい」と思ったのです。しかし、そう思えば、私自身が臨床の幅を広げなければならない。つまり九鍼を学び、いろんな患者さんに対処する必要性が生じたわけです。

――そうすると、石原さんは患者さんの病態に応じて一番ベストな鍼を選択している、つまり九鍼を使い分けているということですか。

石原そうです。目の前の患者さんに最も適した鍼を、鈹鍼を除く九鍼などの中から選択して使っています。

――ところで、鈹鍼を使わないのはなぜですか。

石原鈹鍼は化膿性疾患への「去腐排膿・清熱解毒・去瘀」の目的で行う外科用メスに匹敵します。そのため、感染や外科手術への配慮を考えて、鍼灸師の業務を超えていると考えています。

――なるほど、そういう鍼であれば鍼灸師は使えませんね。では、石原さんが臨床で用いている九鍼について、具体的に聞いていきたいと思います。それぞれの九鍼をただ刺せても意味がないわけで、どんな病態のときにどの鍼を用いるのかがわかっていなければ、実際の臨床では使いこなせませんよね。

石原そうです。

――それなら、石原さんは九鍼をどう使い分けているのか、それぞれの鍼の特徴を含めて説明してください。まず鑱鍼からお願いします。

鑱鍼は陽気を出し頭身の熱を瀉す


              鑱鍼

石原鑱鍼の目的は「陽気を出し頭身の熱を瀉す」ことで、孫絡脈を含む体表の衛気に利用します。

――鑱鍼の適応病態は何ですか?

石原鑱鍼の適応病態は大きく分けて2つです。1つ目は、気虚に気滞を兼ねたり、気滞を主としたりする小児や虚弱な人、あるいは不眠・感冒・首肩こり症などです。これらに対しては疏通法を用います。疏通法のときは疏通に適する鈍い刃先を使います。そうすることで、鑱鍼の働きの1つである「行気・行血」の作用を引き出すのです。2つ目は、軽い気滞血瘀挟熱による小児や、不眠・首肩こり・痒み・痛み・感冒・アトピーなどです。これらに対しては、瀉法を用います。瀉法のときは瀉法に適する鋭い刃先を使います。そうすることで、「活血・行気・散熱」の作用を引き出すのです。

 なお、鑱鍼を使う部位ですが、小児鍼として用いるときは全身に施し、感冒や痛み、痒み、強ばり、熱感、麻痺に対して用いるときは全身および反応のある局所に用います。

――鑱鍼を使うときに注意することは?

石原皮膚の軟弱で白い人には使用してはいけません。また、刃の角度や触れ方に注意する必要があります。瀉法として使うときはエッジを立て、疏通法として使うときはエッジを斜めにすることです。

員鍼は分肉間の気を主る


            員鍼

――員鍼はどうですか。

石原員鍼の目的は「分肉間の気を主る」ことです。分肉間の去邪や経脈・肌肉の気の疏通を図るときに用います。

――員鍼の適応病態は?

石原1つ目は、肌肉軟弱に気滞を兼ねた小児や虚弱な人の痛み、こり、知覚鈍麻、冷えなどです。これらに対しては員鍼を補法として使い、「行気・補気」の作用を引き出します。2つ目は、肌肉・経筋系の緊張に気滞を兼ねた小児や分間の気の滞りによる痛み、こり、緊張などです。これらには瀉法として用い、「行気・舒筋」の作用を引き出します。

――員鍼を使うときのコツは?

石原小児鍼として用いるときは全身に施し、痛みやこり、麻痺のある人には全身および反応のある局所に用います。私の場合、員鍼は肌肉と肌肉の間を擦摩するように使っています。員鍼を使うときは、鑱鍼と異なり、少し圧を加えて揩摩するように使うのがコツです。

鍉鍼は脈を按じ、邪気を出し、脈を疏通する


            鍉鍼

――鍉鍼は?

石原鍉鍼を使う目的は「脈を按じ、邪気を出し、脈を疏通する」ことです。経脈、血脈への按圧による営衛の気の疏通を図るため、主に五行穴、原穴、絡穴、郄穴などに利用します。また、脈の営衛の気の疏通に必要な孔穴に対し、接触させて用います。さらには、経筋の緊張や気滞による硬結に対し、按圧を加えて用います。

――適応病態は?

石原1つ目は、気血虚損の多疾患。これらに対しては五行穴などの経穴へ鍉鍼を接触させます。鍼先の鋭利な方または員(まる)い方で接触させ、「経脈・血脈の疏通・去邪」の作用を引き出します。2つ目は、肌肉や経筋の緊張・気滞による硬結。これらに対しては按圧を加えて用います。すると、「行気・舒筋」の働きがあります。

――鍉鍼はその材質によって効果に違いがある、とよく聞きますが・・・・・・。

石原補法では、プラチナやステンレスよりも銀、銀よりも金の効果が高いですが、瀉法ではその逆になります。また、経脈の疏通行気では、プラチナが最も大きく速く目的達成ができますね。

――そのほか、注意することは?

石原孔穴を按圧するときに注意が必要です。按圧しすぎて脈を破らないように行うことが大事です。

鋒鍼は瘀血、邪気を除き、鬱熱を去る


            鋒鍼

――鋒鍼は?

石原鋒鍼の目的は、「瘀血、邪気を除き、鬱熱を去る」ことで、痼疾、痼痺、癰熱などの孫絡脈に利用します。井穴などの経穴や、硬結、腫脹、変色部位のある皮膚、そして細絡、血絡に対して用います。

――適応病態は?

石原古典には痼疾、痼痺、癰熱とありますが、現代では陽実熱、甚だしい気滞、血瘀、瘀血、血熱などです。それらに対し、解熱、鎮痛、鎮静、鎮痙、駆瘀血、瀉火、清熱解毒、止痒、開竅などの治療的作用があります。

 応用としては、「瘀を去り、邪気を除く」に適応し、気血が虚していないものに使用できます。また、感冒・扁桃腺肥大・瘀血・風熱性の痺症・咬症・帯状疱疹・結膜炎・高血圧・口内炎・子宮筋腫、癲癇などの疾患に利用できます。さらに、鍼における救急症状へのファーストチョイス(中風・意識障害など)としても利用できます。


――鋒鍼を使うときに注意することは?

石原止血機序に障害のある人や気血ともに甚だしく虚損の人は絶対禁忌です。重篤な疾患(五臓の疾患)のある人、気血虚損の人、浮腫などがあり水分代謝の悪い人のほか、常態と異なる場合には、相対禁忌です。

――鋒鍼は日本と中国では刺法や操作法に違いがあると聞きましたが。

石原違いますね。まず中国から説明すると、中国には五つの刺法と操作法、すなわち①速刺法、②挑刺法、③囲刺法、④密刺法、⑤緩刺法があります。

 速刺法は、四肢末端に多く使います。操作方法は、日本の手打ち式の速刺法と同じです。日本の経穴・皮膚・細絡刺絡はすべてここに入ります。なお、場所により吸玉を使用します。

 挑刺法は、胸背部の皮膚軟らかく筋肉の薄いところに対しては、速刺法ではうまくいかないので、押し手の母指と示指でつまんだり、引っ張ったりして患部を緊張させ刺すのでこの名があります。日本の経穴・皮膚(シミ・赤点……)、細絡刺絡はすべてここに入ります。なお、場所により吸玉を使用します。

 囲刺法は、捻挫・打撲・腫物などの時、1~2穴ではなく幅広い患部を囲むように刺すため、この名があります。原則的に吸玉を使用します。

 密刺法は、中国上海で多く行われています。たとえば統合失調症に梅花鍼で少し強めに足太陽膀胱経上の首から腰仙部へ、上から下に叩いていくと、その痕に血液がにじんできます。その叩いた中の数穴~十穴位に吸角を5~10分ぐらい留める方法です。

 緩刺法は、中国でよく使われている手技の1つです。たとえば尺沢の刺絡では、上腕部を駆血帯で縛り、怒張してきた静脈に太目の三稜鍼をゆっくり刺し、ゆっくり抜く方法で、この名称があります。少し血液がきれいになったところで駆血帯を外すと自然に止血しますが、静脈刺絡ということで日本の鍼灸師は、今のところ禁じているグループがほとんどです。

――日本における刺法や操作法はどのようなものがあるのですか?

石原日本では、スプリング式と手打ち式が使われています。スプリング式は、調整ネジで鍼管からでる鍼尖を1mm前後に調節し、押し手の母指と示指で鍼を皮膚に垂直に密着させ固定します。刺し手の示指頭または中指頭でリズミカルに叩打します。体幹部や面の大きいところでは、吸角を使用します。

 手打ち式は、速刺法と叩打法があります。速刺法は、刺し手の母指と示指・中指で鍼を保持し、目標となる細絡または経穴に鍼尖を軽く接触させ、刺し手の中指を支点とするようにすばやく切皮します。部位にもよりますが、刺絡の深さは1mm程度とし、必要以上に鍼が深く刺さらないように注意深く行う必要があります。叩打法は、目標となる細絡または経穴に直接母指と示指で押し手をつくり鋒鍼を固定します。鍼柄頭を刺し手の示指頭または中指頭で叩打します。部位により叩打する力は加減していきます。

員利鍼は急性の痛みへの破気・舒筋・開竅作用がある


            員利鍼

――員利鍼は?

石原員利鍼を使う目的は、「急性の痛みへの破気・舒筋・開竅」です。経筋、蔵府、癥瘕に利用します。

――適応病態は?

石原員利鍼の適応病態は、急性の気滞血瘀や寒邪による痺症、中風、経筋病や頑固な気滞血瘀による癥瘕です。これらに対し、員利鍼を用いると、破気・活血・行気・止痙・開竅・舒筋の働きがあります。たとえば、経筋だと阿是穴、癥瘕だと阿是穴・章門・京門、中風だと人中に利用します。

――注意することは?

石原気血虚損や敏感人には注意が必要です。

長鍼は慢性で深い痺症、痿症への大補大瀉作用がある


         長鍼

――長鍼は?

石原長鍼を使う目的は、「慢性で深い痺症、痿症への大補大瀉」です。経筋・経脈・肌肉・蔵府に利用します。健側あるいは患側へ透刺しますが、横刺、斜刺、直刺を行うこともあります。

――適応病態は?

石原長鍼の適応病態は、慢性の痺症・痿症・経筋病・五臓気血虚損による疾患、甚だしい気滞血瘀による経筋病・五臓病などです。これらに対し、「大補・健筋あるいは大瀉・舒筋」の働きがあります。垂直方向・水平方向で毫鍼の長さでカバーしきれない範囲の気の流れを調節できます。より具体的には、水平刺・斜刺・直刺で経絡や経筋の際に刺入する場合があります。

――透刺はどのツボで行うのですか。

石原透刺の例を表1に示しましょう。

表1 透刺(横刺・斜刺・直刺あり)例
上焦(分裂病、神経症)
中焦(胃下垂他)
下焦(腎下垂他)
膻中-鳩尾
上脘-下脘
陰交-中極
中風 上肢:曲池-肩髃、尺沢-太淵、合谷-後溪
下肢:環跳-殷門、足三里-承山、太衝-湧泉
頭痛 神庭-印堂、頭維-太陽、太陽-率谷
顔面神経麻痺 地倉-人中、地倉-承泣、頬車-地倉など
肩関節痛 肩髃-極泉、条口-承山など
胃痛 天枢-気衝、足三里-下巨虚、上脘-下脘
坐骨神経痛 秩辺・承扶-殷門、足三里-承山、環跳-承扶、
陽陵泉-絶骨

――長鍼を使うときに注意することは?

石原刺入に関しては、大胆かつ慎重に行い、皮下溢血に注意するとよいでしょう。

大鍼は関節の水を瀉すことと五蔵気血への大補・大瀉の作用がある


            大鍼

――大鍼は?

石原大鍼を使う目的は、「(火鍼として)関節の水を瀉す」ことと「五蔵気血への大補・大瀉」です。皮膚、肌肉、経筋(阿是穴)、経脈(甚だしい虚、実の穴)、骨、蔵府に利用できます。

――適応病態は?

石原大鍼の適応病態は大きく分けて3つあります。まず1つ目は陽気の衰えによる関節水腫など。これらには火鍼として用いると、「壮陽・瀉水」の働きがあります。2つ目は甚だしい気虚、五臓気血虚損による痺症・痿症・経筋病・五臓精気大虚・骨髓病変などや現代医学でいう脊椎分離症・椎間板ヘルニア・脊椎間狭窄症など。これらの虚穴へ補法として用いると、「大補気」の働きがあります。ただし、気少なき人には接触鍼として利用します。なお、虚の大きさ・深さにより大鍼の太さ・深さを変えることが大切です。3つ目は、甚だしい気滞血瘀による痺症・経筋病・骨髄病変や現代医学でいう脊椎分離症・椎間板ヘルニア・脊椎間狭窄症などの硬結。これらに対しては、瀉法として用いると、「大行気活血」の働きがあります。ただし、気少なき人には接触鍼の補瀉として利用します。なお、気滞血瘀の程度・深さにより大鍼の太さ・深さを変えることが大切です。

 また、接触鍼として用いるときは全身に使えますが、特に腹部や腰仙部などにはよく使います。刺入鍼として用いるときは腰仙部、殿部、上下肢の孔穴に使います。

――大鍼を操作するときに注意することは?

石原補的操作は、虚の大きさ、深さに応じて太さ(20・30・50・100番)、長さ(寸3、寸6、・2寸・2寸5分)、材質(金鍼・銀鍼)の決定をし、留鍼します。(5~6呼吸~30分ぐらいまで)。鍼体・鍼尖に意識を向け、鍼体から鍼尖まで鍼が渋り、温まり、重たくなってきた時点で吸気に合わせて速抜します。

 瀉的操作は、気滞血瘀による硬結の大きさ、深さに応じて太さ(20~100番)、長さ(寸3~2寸5分)、材質(金鍼・銀鍼・ステンレス鍼)の決定をし、硬結が砕け、緊張が緩んだ時点で、速抜あるいは緩抜します。

火鍼は関節の水を瀉すことと壮陽、散寒、舒筋、行気血の作用がある


             火鍼

――火鍼は?

石原火鍼を使う目的は「関節の水を瀉す」ことと「壮陽、散寒、舒筋、行気血」です。皮部、肌肉、関節、経筋、骨、経絡、蔵府に利用できます。

――適応病態は?

石原火鍼の適応病態は、寒+気滞(血瘀)、気血虚、気滞+寒湿+血瘀・瘀血を兼ねた経筋病・五臓病・痺症・痿症・皮膚疾患などです。これらに対し、「壮陽・温経散寒・舒筋・通経活絡・行気血」などの働きがあります。火鍼の適応病態を中医学的分類すると、表2のようになります。

表2 中医学的分類による火鍼の適応病態
散寒除湿 寒湿による関節炎・腰腿痛等の痺症
消癥散結 腱鞘膿腫・リンパ結核・子宮筋腫・卵巣膿腫など
益腎壮陽 腎虚腰痛・陽萎・遺精・頻尿・痛経など
生肌斂瘡 瘡口・慢性潰瘍等癒えざる者
祛風止痒 牛皮癬・白班・湿疹など
通経止痛 痺症・腰痛など
解痙止攣 痙攣・抽搐・小児驚風・癇など
除麻 末梢神経炎・肌膚麻木など
宣肺定喘 哮喘・慢性気管支炎・肺気腫など
升陽挙陥・温中和胃 胃脘痛・胃下垂など



――火鍼の刺法にはどんなものがありますか。

石原火鍼刺法には①経穴刺法②痛点刺法③密刺法④囲刺法⑤散刺法があります。経穴刺法は、弁証取穴・隨証取穴に火鍼を施します。痛点刺法は、痛点の気血疏通により痛みを緩解できるので、筋肉、関節病変、各種神経痛などに適します。時にやや深く刺鍼します。密刺法は、増殖性、角質化性の皮膚疾患に利用できます。囲刺法は、病の局部を取り囲む火鍼法の一種で、刺鍼部位は、病の局部と正常組織との境界です。皮膚科、外科疾患によいです。散刺法は、病の部位に散鍼します。麻木・痙攣・痛症・痒みの疾患に特によいです。また、1~1.5㎝間隔で施術していきます。

――火鍼は置鍼することもあるんですか。

石原あります。火鍼は抜鍼速度によって快鍼法と慢鍼法に分類されています。快鍼法は、紅く、正確に、速刺速抜(1/10秒間)で、多疾患に利用できます。慢鍼法は1~5分間置鍼します。袪腐排膿・化瘀散結の作用があるため、リンパ結核膿瘤・嚢腫など、各種壊疽組織と異常増生による疾患や冷えの強い痛みの疾患に利用できますが、日本では、冷えの強いときのみ使用するとよいと思います。

――火鍼を行うときに注意することは?

石原火鍼後の反応として、鍼孔に痒み、ほてり、赤みが出ますが、心配ないことを患者に伝えます。火鍼後は清潔にし、感染のないようにします。必要なら火傷時の軟膏(紫雲膏・太乙膏など)を利用します。火鍼治療当日の入浴・アルコール・香辛料・甘味食・乳製品・生冷飲食は避けます(熱・寒・痰湿を与えるもの)。また、火鍼期間中の房事は慎みます(陰虚)。実熱・血熱・表熱・裏熱などには不適です。さらに、神経過敏・飢餓・過労時・糖尿病の人には適しませんが、どうしても必要と考えられるときは、1穴だけ試します。

――初心者が火鍼を患者さんに刺せるようになるにはかなり訓練しないといけないような気がしますが、何かいい練習方法はありませんか。

石原ジャガイモ練習法というのがあります。①半分に切ったジャガイモにマジックで印をつけ、アルコールランプに点火し、鍼体が赤くなるまで加熱する②「ジュッ」と音がするように鍼先が熱い状態ですばやく刺鍼できるように練習する③マジック印に命中するように練習する④深さをイメージ(1㎜、5㎜、20㎜)して刺鍼練習をする⑤火鍼の太さ、長さを変えて①~④の練習をする、というものです。

 加熱が弱いと刺鍼した後、ジャガイモから外れにくいです。また、ジャガイモに慣れたら固さの違うもので練習をします。サツマイモや大根など、生あるいは乾燥したもので練習するとよいでしょう。

挫刺鍼は破気、舒筋、行気、活絡の作用がある


        挫刺鍼

――挫刺鍼は?

石原挫刺鍼の目的は、皮下結合組織を分断することによる「破気、舒筋、行気、活絡」です。

――適応病態は?

石原挫刺鍼は、経筋の甚だしい緊張、硬結の甚だしいもの、局所の気滞血瘀の強いものに利用できます。①神経痛、筋肉痛、リウマチ、関節疾患②筋の緊張、感覚の違和感、体表反応(圧痛・硬結・緊張など)③呼吸器、消化器、婦人科疾患④外傷、外科後遺症に対し、「破気・舒筋・行気・活絡」の働きがあります。1カ所に1~5回繰り返して行い、1回の治療で1~7カ所の治療穴に刺鍼します。

――逆に、挫刺鍼の不適応症や禁忌はありますか?

石原鍼灸の絶対禁忌症や心臓弁膜症、狭心症、衰弱疾患などは挫刺鍼の不適応症です。禁忌にすべき状況として配慮すべきことは、高齢、小児、甚だしい衰弱体質者、敏感体質、精神過度に興奮または精神異常の人、鍼を怖がる人、高熱、甚だしい高血圧・低血圧の人、甚疲労、甚飲酒などです。禁忌部位は顔面、耳、胸部、手掌、足蹠、鼡径部(副挫刺では可の場合が多い)です。

焦らず、一つずつ幅を広げていく努力をすることが大事

――鈹鍼を除く九鍼についていろいろ話を聞きました。九鍼を使いこなせるということがすごいことだと改めて認識させられましたし、そこに至るまでにはかなり努力が必要だろうな、という気がします。最後に、これから九鍼を学びたい人のために、どうすれば九鍼を使いこなせるようになるのか、アドバイスをお願いします。

石原1つ目は感性を磨くこと。そのためには、合掌行を1回10~15分、1カ月ぐらい行うか、あるいは太極拳、武術、気功、ヨーガなどを行うとよいでしょう。2つ目は、イメージ通り動く器用な手と筋肉をつけること。そのためには、①指、手首のさまざまな運動②指の筋力をつけるための運動③太極拳、武術、気功、ヨーガなどを行うとよいでしょう。3つ目は、丹田を充実させ、かつ丹田を利用できるようになること。そのためには、①腹式、逆腹式、丹田式呼吸を行う②太極拳、武術、ヨーガなどを継続し続ける③鍼(特に、大鍼、長鍼、巨鍼、員利鍼など)を刺入するとき、丹田で刺す練習をする、とよいでしょう。4つ目は、自己を観る訓練をすること。そのためには、①正坐法、座禅②内観法、を行うとよいでしょう。5つ目は集中力をつけること。そのためには、①暗い部屋で、線香あるいはロウソクの火を凝視する一点凝視法②刺入時、鍼尖に意識を集中すること、などを実践するとよいでしょう。6つ目は気の去来をつかむ練習を行うこと。そのためには、響き現象、気至、得気、硬結の砕ける瞬間、緊張の緩解する瞬間などをつかむ練習を行うとよいでしょう。7つ目は鍼具をつくる人との心の交流をすること。自らの思いを理解でき、必要な鍼具をつくってくれる人との出会いは大切です。8つ目は多くの人の体を多方面から触れる練習をすること。体表、経脈、肌肉、経筋、骨、蔵府などの健康体および病人にできるだけ多く触れることが大切です。9つ目は毫鍼の手技手法を多く体験していくこと。九鍼も毫鍼の手技手法の延長上にあるからです。このほか、九鍼をうまく使いこなしている人の手技をみる機会をつくったり、九鍼の講座などを利用して学ぶ機会をつくるのもいいと思いますよ。

――九鍼を操作する練習をする前にやるべきことがたくさんあるんですね。

石原何でもそうですが、何かを修得しようとするときは努力が必要です。焦らず、一つずつ幅を広げていく努力をする。それが大事ではないでしょうか。(終)

東京九鍼研究会のHP: http://tokyo9shin.hp.infoseek.co.jp/

石原克己(いしはら・かつみ) 

東京理科大学薬学部・東洋鍼灸専門学校卒業。九鍼を使った鍼灸、漢方、ハンドヒーリングおよび心の解放のためのアプローチ、健康法などを通じて、良き診断と治療、未病治療、癒し、自己の本質への気づきを促している。現在、(有)東明堂石原鍼灸院・漢方薬局代表取締役のほか、東京九鍼研究会代表、日本伝統鍼灸学会理事、日本刺絡学会副会長、日本伝統医学協会会長、東洋鍼灸専門学校・東京衛生学園専門学校講師などの役職にある。



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