週刊あはきワールド 2017年8月2日号 No.532

◎◎はこう治す! 私の鍼灸治療法とその症例 File.40-1

VDT作業者の眼精疲労と肩こりに対する鍼灸治療

~後頭下筋群と斜角筋からの肩甲背神経へのアプローチ(触診法と刺激方法を中心に)~

東京大学医学部附属病院リハビリテーション部鍼灸部門 粕谷大智 


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Ⅰ.はじめに

 近年、コンピュータの普及とインターネットに代表される情報化の発達により、Visual Display Terminal(VDT)作業者は急増している。仕事以外でもダブレットやスマートフォンを使用する頻度も高く、その作業を長時間続けることによって、心身にさまざまな不調をきたす健康障害を「VDT症候群」と総称されている1)

 厚生労働省では、1998年から「技術革新と労働に関する実態調査」を行い、VDT作業に対する労働者の適応状況や職場環境や労働衛生管理の実態などを5年ごとに調査している。 

 2009年の調査によると、「VDT作業でストレスを感じる」と答えた人の割合は全体の34.6%で、「VDT作業で身体的な疲労や症状がある」と答えた人は68.6%にのぼる。これを症状の内容別にみると、最も多いのが「目の疲れ・痛み」(90.8%)で、次に多いのが「首、肩のこり・痛み」(74.8%)、「腰の疲れ・痛み」(26.9%)、「頭痛」(23.3%)、「背中の疲れ・痛み」(22.9%)と続く。厚生労働省は2002年に新しい「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定し、適切な作業時間管理を推奨している2)

 とはいえ、スマートフォンやタブレット端末などの普及ともあいまって、ビジネスパーソンがVDTを使用する頻度はますます高まり、また使用する時間も長くなっている現状から、上記のような心身の不調を自覚するリスクは今後高まる可能性が強い。

 本稿では、VDT作業者の姿勢の特徴からみた東洋医学的治療のアプローチ、肩こりや眼精疲労などの有効性について、後頭下筋群と肩甲背神経へのアプローチを中心に述べる。

Ⅱ. VDT作業者の姿勢と症状の特徴

1.作業姿勢
 細かい字を覗き込む姿勢を長時間続けると、突き出した頭が前に倒れないように、常に収縮して筋疲労を起こし、血流が悪くなり、肩こりや眼精疲労、筋緊張性頭痛を引き起こす。

 スマートフォンなどの小さい画面を見て指先で細かい作業を続けるためには頚部を前に突き出して、頭から腕までしっかりと固定しなければならず、頚部の前側にある筋肉(特に斜角筋)が過緊張を強いられる。頚部の前側の筋肉は背中側の僧帽筋などと異なり、小さく、筋肉も腱のように硬く伸びにくいため、動く範囲は狭いものの強力に頚部を前に引き寄せる。画面を長時間に渡り下を向いた姿勢で使用すると過緊張で筋肉が硬直し、さらに硬くなっていく。この筋肉が短縮したまま不可逆性に拘縮すると、生理的な弯曲が失われる。

 特に若い女性は頚部の筋力が弱いため、ストレートネックの場合にはVDT症候群になりやすいといえる。

2.眼疲労と肩こり
 肩こりと眼疲労の因果関係は深く、目が疲れると頭痛などの症状を伴って肩こりがひどくなる場合が少なくない。目が疲れてくると視力調節が困難になり、焦点が合わず視界がぼやけたり視力の低下が起こる。視力の調節機能が低下すると焦点を合わせるために姿勢を変えて画面を見ようとする。その結果、画面をよく見ようとすることによって、頚部が前方にスライドし、そのような姿勢を長時間続けていると頚部や肩の筋肉が必要以上に働かなければならないため筋緊張に至る。

 また、VDT作業で眼疲労を訴える者は、瞳孔の副交感神経緊張型が多いと言われている。この過緊張状態やVDT作業によるストレス等で交感神経緊張が起こり、それが筋の緊張状態を促進し、肩こりを増悪させ、眼疲労も含め悪循環に陥るといわれている3)4)

Ⅲ.当院における東洋医学的治療のアプローチ

 肩こりは自覚的症状であるが、我々は臨床で自覚者の頚肩部を触診すると筋肉の緊張や圧痛等が比較的一定した部位にみられ、東洋医学における経穴とよく一致する。部位としては後頚部の天柱や風池、僧帽筋上部線維上の肩井、肩甲骨上角の肩外兪、肩甲骨内縁中央の膏肓などがよく知られている。
 

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