週刊あはきワールド 2017年8月9日号 No.533

新米鍼灸師の研修奮闘物語 File.3

Resident.SeのBSL(Bed Side Learning) Diary(3)

~鍼灸院にも実は来ている!見逃してはいけない腰痛患者さん~

鍼灸レジデント1年目 平岡遼 


 
 鍼灸師として働くようになり5カ月が経ちました。内科、鍼灸それぞれの患者さんの顔も大体わかるようになり、業務内容の細かい部分はまだわからないこともありますが大概のオペレーションはできるようになりました。しかし臨機応変に動けるには至っておらず患者さんに合わせた動きはまだまだできていません。先輩方の対応を見ていると、受付での短い時間の中でも患者さんの症状や生活に合わせてお薬の渡し方を変えたりちょっとしたアドバイスをするなど工夫されていて、自分もそういうところまで目が届くようにならなければと思う毎日です。

 4月以降、鍼灸の新患さんを少しずつ担当させていただくようになり、力不足を感じながらも先生や先輩方に支えていただきながら奮闘する日々が続いています。患者さんの主訴のほとんどは、腰痛や膝痛といったcommonな訴えなのですが、なぜか私のもとにいらっしゃる腰痛患者さんの症例は一癖も二癖もあるものばかりです。臨床の神様が「これで勉強しなさい!」と発破をかけてくださっているようにしか思えません。今回は、そんな患者さんを花田学園で教鞭を執られる萱間先生と一緒に検討していく中で、木村先生、石川先生にご指導いただこうと思います。

【座談会参加者】
萱間洋平(日本鍼灸理療専門学校 専任教員)
木村朗子(ともともクリニック院長 医師)
石川家明(ともともクリニック副院長 鍼灸師)

■腰痛デビュー戦! しかしキャンセルの電話が…

平岡 今回お話するのは、私の腰痛デビュー戦でもある症例です。

症例)Hさん 49歳女性 主訴:右腰痛

平岡3日前から腰が痛み出したということでいらっしゃいました。石川針灸院に通われている患者さんからの紹介でした。Hさんにはこの日とその翌週の2回鍼治療を行ったのですが、3回目の予約日の数日前に「腰痛が悪化したので婦人科に行ってみます」とキャンセルの電話が入り、それっきりになってしまいました。

萱間平岡さんが腰痛を診ていたのに別の病院に行ってしまったというのは、なにか見逃していた可能性がありそうですね。病歴はどうだったのですか?

現病歴:3日前から右腰が痛み出した。思い当たる原因はない。痛みの性状は鈍痛で、「なにか気になる」程度で強い痛みではない。部位はL1~L3の高さで右側のみ。横になっているのがつらく、特に右側臥位の姿勢がつらい。就寝中、眠りが浅く途中で目覚めることがある。下肢神経症状なし。体温37.4℃。

萱間3日前からということは急性腰痛だったのですね。平岡さんは治療のときには腰痛の原因についてどのように考えていたのですか?

平岡色々鑑別を考えてはいたのですが、結局 筋筋膜性のいわゆる普通の腰痛と考えて施術しました。

萱間この患者さんを筋筋膜性の腰痛と考えたのはなぜですか?

平岡下肢にしびれや痛みといった神経症状がなかったこと、鑑別として挙げていた尿路感染症もそれらしくなかったこと、そして以前にも何度か腰痛になったことがあり、今回の腰痛も同じ感じとおっしゃっていたことなどからです。その時は3日ほどで寛解していたそうです。

萱間初発ではなかったということですね。この方は49歳ですが、「50歳以上の初発の腰痛」はレッドフラッグですから注意が必要です。レッドフラッグを説明しておきましょう。

平岡レッドフラッグ・サイン(Red flag sign、赤旗徴候)とは、重症な疾患や緊急に対応しないと危険な疾患かもしれない! と警戒する必要があるサインのことです。

石川「50歳以上のはじめて」はなんでも注意が必要ですよ。

平岡50歳以上のはじめての…デート!

萱間うーむ、それは危険…。では、50歳以上のはじめての…おつかい。

平岡そ、それも、なかなかですね。どんな人生だったのか妄想が止まりません…。

木村はいはい、大喜利になってきているので話を戻しますよー!

萱間すみません。気を取り直して、神経症状や内臓疾患をちゃんと考えていたのはいいですね。尿路感染症はどうして鑑別疾患に挙げたんですか?

平岡待合室でお待ちいただいている間に体温を測ってもらったら37.4℃で微熱があったためです。

萱間発熱していたら尿路感染症を疑うんですか?

平岡あ、いえ、初めはカゼによるものかと思ったのですが、咳、鼻閉・鼻汁、咽頭痛などの上気道症状がなかったことから疑いました。

木村念のために言いますが、理由なくとりあえず体温を測る、というのは×ですよ。血液検査にしろレントゲンにしろ、疑っているものがあって初めて取りに行くのが正しい流れです。でないと、予想せず見つけてしまった所見に振り回されてしまいます。

萱間今回も微熱を見つけてしまったから上気道感染や尿路感染を疑ったわけですもんね。いずれにせよ、見つけてしまったからには確認しないといけないです。そもそも尿路感染症を考えたのはなぜでしょう?

平岡尿路感染症のひとつである腎盂腎炎は腰痛の原因になるからです。特に女性は尿道が短いため膀胱炎になりやすく、進行すれば腎盂腎炎となります。

萱間腰痛に限らず、年齢・性別からありそうな疾患を想起することは鑑別の第一歩ですよね。「患者の話をするときにまず年齢・性別を言いなさい」というのも想起できる鑑別疾患がまるで変わってくるということですね。それで、尿路感染症は何をみてそれらしくないと思ったんですか?

平岡小便に変化がなく、腎盂腎炎で有名なCVA(肋骨脊柱角)叩打痛もなかったためにそう思いました。

萱間第12肋骨と脊椎がつくる三角形の領域がCVAですね。腎盂腎炎や水腎症ではここに叩打痛が出ると言われます。

平岡このときは腰痛と微熱を引き起こす疾患として尿路感染症を想起してその所見を取りに行ったのですが、今振り返ると椎体炎も考えなければいけなかったと思います。

萱間その場ですぐに想起できなければ臨床では使えないところが臨床の難しさですね。

平岡初診時に考えたことはこのくらいでした。

■初心者の陥る診療の進め方

石川平岡さん、ちょっと待ってください。診察の基本ができていません。
 

(続きはログイン・ご購読後にお読みいただけます)

この記事の続きをお読みいただくためには、週刊『あはきワールド』(有料コンテンツ)のご購読手続きが必要です。

ご購読の申し込み ログイン(ご購読済みの方はこちら)




トップページにもどる