週刊あはきワールド 2015年1月21日号 No.410

〈黄帝と老子〉雑観 第13回

天の聖数が繋ぐ万物感応のネットワーク

『黄帝内経』の謎を解く鍵は数術にある(その1)

『黄帝内経』研究家 松田博公 


 
 読者の方々は、中国人の図表好きに気づいておられることだろう。ちょっと考えただけでも河図・洛書の魔方陣、陰陽太極図、易図が思いつく。五行の相生相克、脈診や運気論なども図で表現されている。中国人は古来、物事を抽象化し、図式化し、視覚化する能力に秀でた人々であり、図表文化を発展させてきた。日本人は、そうした図表文化は持たない。そこからも中国鍼灸と日本鍼灸の違いが透けて見えるが、そういう議論はされてこなかった。

 こうしたことを念頭に、中国古代鍼灸の原理を図形に表現してみよう。まだ誰もやったことのない、大胆不敵、荒唐無稽かもしれない初公開である。といっても、複雑な図ではない。あっけないほど簡単である。

 最初に円を描く。その円の中に四隅が接点を持つ正方形を描く。正方形と円の交点から対角線を引く。それだけである。複雑な『黄帝内経』の思想構造が、こんな子ども騙しの幾何学図のようなもので分かるかと、どこからかブーイングが聞こえて来そうである。


図形にした中国古代鍼灸の原理
























 だが、この1年間、「〈黄帝と老子〉雑観」を綴ってきたわたしには、『黄帝内経』の原理は、この簡単な装置で説明できるのである。

 まず、円である。これは、中国古代思想の共通基盤であり、『黄帝内経』にも貫かれている「天」ないし「天道」または「宇宙」を表している。同時に、この円は、気の上下・陰陽・四時(=四季)の循環の法則、「円道」の意味である。つまり、この円は、『黄帝内経』の医学が「天道」に則り、「天道」が気の上下・陰陽・四時の循環の法則に従っていること、さらに、鍼灸技術も、「天道」に則り、気の上下・陰陽・四時の循環の法則に従うべきことの端的な表現なのである。

 次の正方形は、「地」を意味している。円と正方形が接しているのは、天地の交わりを表している。「天と地が交わり生まれるもの、それを名づけて人という」(『素問』宝命全形論篇)。かく言う人は、正方形の対角線の交点、図形中心の1点である。中心点が人であるという配置は、「人よりも貴きはなし」(『素問』宝命全形論篇)という『黄帝内経』の人間中心主義と医療技術に対する誇らしい肯定を象徴している。

 ここまでの説明で分かるように、この図形は、『黄帝内経』の原理が天人合一であり、刺鍼技術においても「天の法則、地の法則を用いなければ、災害が起こる」(『素問』陰陽応象大論)」と強調していることを読者に想起させたいがためのものである。

 また、この図形をより細かく、宇宙と身体を貫く「天地人三層構造」図と理解することもできる。宇宙三層構造論は、これまで言及してきたように、『素問』三部九候論篇の脈診論などに見られる、『黄帝内経』の身体宇宙観の重要要素であった。

 それだけでなく、この図形は、気一元論、陰陽論、五行論も含んでいる。円は、古代以来、中国で「一」や「太一」と命名されてきた大きな気の全体性の造形であり、『黄帝内経』が立脚する気一元論を表現する。その円が、2本の対角線で重ね合わせに分割されている形を、ぐるぐると回転する陰陽太極図に見立てることができる。また円と正方形の交点4点と対角線の交点1点、合わせて5点で、五行論を暗示している。

 つまり、この図形は、『黄帝内経』を成り立たせている古代鍼灸の原型の論理をほぼ表現し終えているのである。

 だが、この説明はまだ、この図形の含意をすべて読み解いたことになってない。『黄帝内経』の原理は、これだけでは足りない。というと、そりゃそうだよ、あれも足りない、これも足りないと、皆さんは言い始めるだろう。経脈論はどこにある、蔵府論はどうなっている、虚実補瀉論もないね、と。

 いや、わたしが足りないというのは、そういうことではない。経脈論も、蔵府論も、虚実補瀉論も、『黄帝内経』では、天地と身体の構造の合一性や四季と日月星辰の運行の法則から導かれているのである。それらはすべて、この円と正方形が交差する天人合一の宇宙論的時空から取り出せる。だから、これまでの説明に論理としては既に含まれていると強弁しても、この連載に長くお付き合いいただいた読者の方々には、お許しいただけるだろう。

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