週刊あはきワールド 2015年10月7日号 No.444

『マッスル鍼法』へのいざない

両手刺手管鍼法等の新技術で“ハリ”が変わる “マッスル鍼法”の世界へようこそ!

『マッスル鍼法』の「プロローグ」より

 宮村健二 


 間もなく、『マッスル鍼法 両手刺手管鍼法・インナーマッスルがセールスポイント』を上梓いたします。まだ発行前ですが、ここでは、本の紹介を兼ねて、本書の「プロローグ」を転載させていただきます。“マッスル鍼法”という新しい鍼世界に触れ、目から鱗が落ちるかもしれません(編集部)

プロローグ

マッスル鍼法 両手刺手管鍼法・インナーマッスルがセールスポイント(宮村健二著) 筆者にとって1冊目の著書である『手渡しで伝えたい情報コーディネート鍼灸』は、2012年7月に上梓しました。この本で筆者は、鍼灸のロジック(説明原理)のキーワードを刺激から情報発信へシフトすることを提唱しました。

 「鍼は機械的刺激、灸は温熱的刺激であり、それによって効果的な生体反応を起こし、それを治療や健康作りに応用する」これがこれまで広く用いられてきた鍼灸のロジックです。

 これに対して、筆者は長年疑問を持ち続けてきました。「鍼や灸の刺激で多種多様な反応が起きることは、よく知られている。しかし、それらの反応は、生理学的にみて日常変動の域を出ない程度のものであり、しかも一過性に短時間で元に戻ってしまうものが多い。ごくごく微小なエネルギーを用いる鍼灸には、手術や強力な薬剤のように、生体の機能や内部環境を変えてしまう西洋型医療の力の論理は馴染まない」。

 この現状認識に立つと、次のロジックがみえてきます。「鍼灸作用の本質は、情報発信とみることができる。受容器の発火による神経インパルスの発信や、組織破壊によるケミカルメディエーターの発信などがそれに当たる。一方、生体にはホメオスタシスのための複雑な通信ネットが備わっており、健康のバランスが崩れると、このネット上に自然治癒に必要な情報の入力待ちを生じる。このような状況下で、生体が必要としている情報を鍼灸で発信し、必要としていないまたは忌避している情報は発信しないように、すなわち需給一致の情報発信が得られるようにコーディネートするのが鍼灸臨床の神髄である」。これが筆者の提唱する情報コーディネート鍼灸のロジックです。鍼灸刺激で起こした反応によって生体を健康に導くという考え方でなく、生体が入力待ちしている情報を鍼灸で発信することにより、自然治癒力の発動・健康復帰にきっかけを作るという考え方です。

 先の本ではこの理論革新を述べた上で、生体が必要としている情報を発信する実技、および生体が必要としていないまたは忌避している情報を発信しない実技について詳述しました。読者の方々からは、興味深いとか共感できるなど肯定的なご意見を多数いただきありがたかったのですが、その反面、もっと各論的に、臨床現場の具体的な場面に即した実技を示してほしいとの要望が多く寄せられました。そこで、この要望を最大のモチベーションとして、2冊目に当たる本書の執筆に着手しました。

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 構想を進める中で、いくつかの課題が見えてきました。最初に当面したのは、本書でどの分野の実技を取り上げるかという問題です。臨床現場の具体的な場面に即した実技といっても、候補はいくつか考えられます。筋内に血管拡張情報を発信する実技、炎症巣境界に白血球誘引情報を発信する実技、高位脳にリラックスの転調情報を投射する実技、反射受容野に反射誘発情報を発信する実技などです。思案の結果、臨床現場で遭遇頻度が最も高いと思われる「筋内に血管拡張情報を発信する鍼」を取り上げることとしました。この範疇に属する鍼は、全国で広く行われていますが、不思議なことに名前さえなく、まして実技の体系についての議論も進んでいるとはいえない現状にあります。そこで、まずこの鍼に「マッスル鍼法」というネーミングを行い、筆者が主宰するあんしん堂鍼灸院で開発し活用しているマッスル鍼法を一つの典型例として紹介することとしました。

 次の課題は、ノンノイズ刺法のバージョンアップです。ノンノイズ刺法は、ノイズを起こさない鍼として前著第2章第6節で取り上げ、出版後の実技セミナーでも好評を得ていますが、その一方、複数の方々から、「ノンノイズ刺法の工程は22もあって覚えにくい。もっと簡素化できないか」との注文をいただきました。そこで検討を重ねた結果、工程を22から3分の1強の8工程に減らすことに成功しました。また、押手との訣別をより鮮明にする意味で、「両手刺手管鍼法」という新しいネーミングのもとリニューアルし、マッスル鍼法実技の重要項目の一つとしました。

 3番目の課題は、インナーマッスルです。スポーツ医学やリハビリテーション医学の世界では定着しつつある概念ですが、鍼灸臨床の現場ではまだほとんど手付かずといってよい現状です。このように研究が進んでいない状況ではありますが、それゆえに敢えて取り上げた方が良いという考え方もあります。そこで、不十分を承知で、インナーマッスル・アウターマッスルと鍼の関係を取り上げ、これもマッスル鍼法実技の重要項目の一つとしました。

 4番目に筋群触診マップの問題です。鍼灸教育の現場で、臨床筋学の必要性が言われて久しいですが、そのわりに具体的な側面で完成度の高い資料が少ないように思われます。あんしん堂鍼灸院で開発した筋群触診マップを取り上げ、これもマッスル鍼法実技の重要項目の一つとしました。

 5番目にニューモデル臨床鍼灸システムです。これはマッスル鍼法の内容充実と、周辺技術との一体化を追求する中でみえてきた新しい手法であり、マッスル鍼法改革の最終ゴールともいえる成果です。ニューモデルというのは、筆者が提唱する情報コーディネート理論を基軸とする新しいモデルという意味です。ニューモデル臨床鍼灸システムは、ニューモデル本治法とニューモデル標治法に分別します。ニューモデル本治法は、皮膚ポリモーダル受容野(皮膚ツボ)ネットアップ鍼法によって自律神経緊張のリラックス転調を図り、インナーマッスルネットアップ鍼法によってインナーマッスルの隠れ疲労を取り、両者の結合によって本治法の目的である全身状態の向上を果たそうとする手法です。ニューモデル標治法は、病症局所に現れる情報需要サインを捕らえ、その情報を鍼灸で供給し、自然治癒の賦活を図る手法です。筋虚血サインに対するマッスル鍼法、炎症サインに対する病巣境界鍼灸法、反射効果器変調サインに対する反射受容野鍼灸法などがその具体例です。このシステムによって、鍼灸臨床の未来に魅力ある明るい夢を繋ぎたいと考えています。

 最後に挿絵の課題です。ヒューマンワールドの石井利久氏の協力を得て、この本では鍼の実技は写真で示すことを原則としました。細かい位置関係を分かりやすくするために、長目の鍼・太目の鍼を用いるなど工夫してみましたが、静止画像にはどうしても限界があります。将来的には動画による紹介を考えなければならないかなと自問しています。

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 他にも意を尽くすべき点は多々あろうかとは思いましたが、当面まずは目に見える形にすることが喫緊と考え、一書を脱稿しました。陰に陽に誠意をもってお力添えいただいたヒューマンワールドの石井利久氏、また示唆に富んだご意見やアドバイスをいただいた『手渡しで伝えたい情報コーディネート鍼灸』の多くの読者の方々に心から御礼申し上げます。この本が鍼灸関係者の座右に置かれる一書となることを祈りつつ筆を置きます。

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宮村健二(みやむら・けんじ)

【略歴】
1941年12月4日、金沢市生まれ。
1951年、9歳で失明。石川県立盲学校小学部4年に編入。
1964年3月、東京教育大学教育学部特設教員養成部卒業。
1964年4月~1992年3月、石川県立盲学校教諭(28年間)。
1992年4月~1997年3月、筑波技術短期大学鍼灸学科助教授(5年間)。
1997年4月、金沢市にて「あんしん堂鍼灸院」院長、今日に至る。
1978年8月より、日本点字委員会委員。
2002年4月より、石川県立盲学校非常勤講師。
2006年4月より、北陸大学薬学部非常勤講師(講座名「鍼灸学」)。
2009年4月より、金城大学社会福祉学部社会福祉学科非常勤講師(講座名「視覚障害者教育論」)。

【著書】
『手渡しで伝えたい 情報コーディネート鍼灸』(ヒューマンワールド)
 
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2015年11月開催
日 時 2015年11月29日(日) 10時~16時
会 場 東京都内
内 容 マッスル鍼法』をテキストにしてその刺鍼テクニック等を学ぶ
講 師 宮村健二(あんしん堂鍼灸院院長)
詳 細 http://www.human-world.co.jp/seminer/seminer064.html




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