週刊あはきワールド 2015年10月28日号 No.447

第1回マッスル鍼法セミナーへのいざないⅡ

道具の変化と技術の変化

あんしん堂鍼灸院院長 宮村健二 


 
 第1回マッスル鍼法実技セミナーの午前の部は、両手刺手管鍼法の実技をテーマとします。これは押手をしない管鍼法です。押手から解放された非利き手を下刺手、利き手を上刺手として鍼管と鍼を操作する方法です。

 押手が苦手と思っておられる方には、大きな朗報となるでしょう。また、押手に自信のある方も、どんなに上手な押手であっても組織をひずませた状況下で鍼を刺すわけで、ひずみのない自然体の組織に弾入・刺入する両手刺手管鍼法の、軽やかで心地好い施術感覚は経験してみる価値があります。

 痛み・押し込み感・重い感じ・不快な響き・違和感などがなく、いつ入ったか、どこまで入ったか分からない感覚に驚かれることと想像します。さらに、押手をしない管鍼法は、斜刺の角度を自由自在に管理できるというすばらしい特徴をもっています。この新しい管鍼法技術の誕生には、以下のような時代的背景があったと考えられます。

 1990年代以降、日本の鍼灸界にはいわゆる使い捨て鍼、ディスポーザブル鍼が目を見張る勢いで普及しました。衛生管理の観点で大変好ましいことと評価できます。

 ところで、このディスポーザブル鍼の普及は、衛生上の観点とは異なる別の面でも、鍼の世界に大きな変化をもたらしました。それは管鍼法を巡る道具の変化です。具体的には、鍼と鍼管が大きく変わりました。

 筆者は、この道具の変化に遭遇し、これこそ技術革新の絶好のチャンスと捕らえ、新しい道具に適合した新しい技術の工夫に専念しました。その結果、「両手刺手管鍼法」ならびにそれを支える「二頭叩打」「田植え圧鍼」「広角刺法」などと呼ぶ新しい技術を編み出すことに成功しました。これは筆者の偶然の思い付きというよりは、道具の変化に合わせて起こるべくして起こった技術の変化であり、鍼の技術史の必然と位置付けてよいのではないかと考えています。

 このことを三つの箇条に分けて、具体的に紹介します。

1.銀鍼主流からステンレス鍼主流への変化
  →二頭叩打の案出

 銀鍼は折鍼のリスクが高い、通電に不向きなどの理由で嫌われ、ディスポーザブル鍼にはもっぱらステンレス鍼が用いられています。こうして銀鍼主流からステンレス鍼主流への流れが生まれました。

 ところで、弾入です。従前は柔らかい銀鍼を前提としたテクニックでした。「タン、タタンタン、タンタン」という吉田流のキャッチフレーズでも知られるとおり、数段階に分けて叩打し、初めは弱く、次第に強くというやり方が推奨されてきました。一段弾入で強い叩打を行うと、柔らかい銀鍼が鍼管の中で屈曲してしまうなどのことがあり、数段階に分ける多段叩打が良いとされた訳です。

 ステンレス鍼は事情が異なります。堅くて鋭利なステンレス鍼の場合、叩打を数段階に分けると、叩打1回ごとにチクチクと発痛の機会を増やしてしまうことになります。さらに、1回ごとに叩く方向が微妙にずれる恐れがあります。そうなると、鍼尖の軌跡にジグザグ様のぶれを生じ、皮膚をスパッと一直線に切れません。このジグザグ様の軌跡は、後からの刺入のときに、痛みや抵抗増大の元凶となりかねません。そこで、1回で一直線に皮膚の全層を通過するような叩打が望ましいと考えられます。具体的には、鍼と鍼管の長さの差4mmを一気にストンと沈めてしまうような叩打です。

 ところで、4mmを一気にストンと沈めるような叩打を行うと、必然示指腹は鍼管頭に衝突し、その部に衝撃を及ぼします。この衝撃は鍼管下端部に伝わり、その部の皮膚・皮下に存在する触圧受容器を発火させます。こうして発生した触圧インパルスは、Aβ繊維を伝導し、中枢神経内で痛みの側方抑制を起こし、弾入痛の軽減に働くことが神経生理学上の仕組みとして知られています。

 以上の事実から、ステンレス鍼の弾入は、鍼柄頭と鍼管頭を一度に叩くつもりでストンと叩打する方法がよいと分かりました。そこで、この方法を二頭叩打と名づけました。二頭叩打により、鍼尖は一直線にスパッと皮膚の全層を通過し、触圧インパルスによる痛みの側方抑制も絡んで、安定した無痛弾入が期待できます。

2.重い金属鍼管から軽いプラスチック鍼管への変化
  →押手との訣別、田植え圧鍼、両手刺手管鍼法の案出

 従前寸六と言っていた金属鍼管の重さを計測してみました。金製は15g、銀製は8g、ステンレス製は5gでした。重い金属鍼管を柔らかい施術部皮膚上に密着・固定するには、非利き手の母指と示指で鍼管下端部をしっかり持ち(左右圧)、これを施術部皮膚にある程度の圧力で押し付ける必要があります(上下圧)。押手はこうして生まれたと考えられます。

 ところで、筆者は学生の頃から、押手というものに疑問を感じてきました。特に上下圧です。上下圧で施術部組織にひずみを生じるから、ひずみ故の不快な響きが起こったり、ときには鍼尖の前進にブレーキが掛かったりするのではないか。この疑問を先生にぶつけてみたところ、「それは君の押手が下手だからだよ」と一蹴されてしまいました。おまけに「押手は練習あるのみだ。頑張りたまえ」と励まされてしまいました。

 母指側と示指側でバランスの取れた押手が上手な押手なのでしょう。でも、どんなに上手な押手であっても、上下圧で組織にひずみを生じるという事実から逃れることはできません。釈然としないままに社会人となり、30年余りを過ごす結果となりました。

 1990年代となり、ディスポーザブル鍼が普及し始めました。吹けば飛ぶようなディスポーザブルの軽いプラスチック鍼管に遭遇したとき、これなら押手なしで弾入できると閃きました。百聞は一見にしかず、実際にやってみると、首尾は上々でした。非利き手の母指と示指を空中に浮かせ、鍼管下端の上方10~15mmの高さで鍼管を軽く把持します。そして、鍼管下端で施術部皮膚に圧力を掛けないようにします。最大のメリットは、押手によって生じていた施術部組織のひずみを回避し、ひずみのない自然体の組織に弾入できることです。理屈では分かっていても、正直なところ、最初は押手なしだと痛いかなと危惧しましたが、二頭叩打と組み合わせてやってみると、その心配は払拭されました。痛点に激突したと思われるとき以外は、無痛でした。

 弾入に続く刺入でも、押手をしないと鍼の操作性が向上し、メリットがあることが分かりました。非利き手の母指と示指で刺点の上方10~15mmの高さで鍼体下部を持ち、非利き手の力で鍼を引き下げると、鍼は少しずつ沈み込んでいきます。苗の根元近くを持って田に植える田植えの仕方に似ているところから、この方法を田植え圧鍼と名づけました。田植え圧鍼は、鍼のハンドルすなわち鍼柄を持って行うハンドリング圧鍼に比べて、力点が鍼尖に近いため、鍼尖加圧を微妙にコントロールできます。鍼の進路が定まる前の初期刺入に応用して大きな利点があります。

 以上により、非利き手は押手から訣別し、第2の刺手としての役割に当たることができるようになりました。そこで、利き手を上刺手、非利き手を下刺手と呼び、両手を刺手とする管鍼法を両手刺手管鍼法と命名しました。ある講習会でこの方法を供覧したところ、「押手をしない管鍼法なんて、まるで蚊みたいですね」とおっしゃった受講者がありました。確かに、蚊は、ひずみのない自然体の皮膚に押手なしで鋭い口吻を刺し入れて無痛で吸血します。この発言にヒントを得て、両手刺手管鍼法をモスキート管鍼法の愛称で呼ぶことともしました。なお、名前のなかった従前の管鍼法は押手刺手管鍼法と呼称し、比較対照する際の便宜を図ることとしました。

3.厚い鍼管壁から薄い鍼管壁への変化
  →広角刺法の案出

 筆者が用いているディスポーザブルプラスチック鍼管の壁の厚さは、0.5mmです。これに対して、従前の金属鍼管の壁は大変厚いものでした。六角形とか八角形の角型鍼管が多かったので、壁の厚さを数値化することはちょっとやっかいですが、1.5mm前後はありました。金属鍼管による斜刺や横刺がスムーズにいかなかった理由は、この壁の厚さにありました。

 その点、ディスポーザブルプラスチック鍼管の壁は大変薄いので、斜刺にも横刺にも障りとはなりません。合わせて、斜刺用・横刺用の下刺手も工夫し案出しました。その結果、三角関数表のサイン値を活用して、任意の角度での斜刺および横刺が可能となりました。筆者はこれを広角刺法と名づけています。

 以上、鍼が銀鍼からステンレス鍼に変わったこと、および鍼管が重い壁の厚い金属鍼管から軽い壁の薄いプラスチック鍼管に変わったことを踏まえて筆者が取り組んできた工夫についてご紹介しました。先にも述べたように、これは筆者の偶然の思い付きというよりも、管鍼法の技術史上の必然と考えています。筆者が言い出さなければ誰か別の方がきっと同じような提唱を行ったであろうということです。

 1600年代、杉山和一が管鍼法を案出した時代にはステンレスもプラスチックもありませんでした。管鍼法の考案に当たり、和一はかんざし職人に依頼して鍼管と鍼を製作したと伝えられています。その過程で、当時入手しやすかった金や銀を材料とすることとなり、重い鍼管が押手の技術を発展させたという仮説がみえてきます。もしもその時代にステンレスとプラスチックがあったら、和一は押手のない軽やかな管鍼法を案出したかもしれないと、楽しい夢を膨らませています。

 最後に、第1回マッスル鍼法実技セミナーは11月29日(日)です。興味をおもちの方の積極的なご参加を歓迎いたします。

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マッスル鍼法セミナー
2015年11月開催
日 時 2015年11月29日(日) 10時~16時
会 場 東京都内
内 容 マッスル鍼法』をテキストにしてその刺鍼テクニック等を学ぶ
講 師 宮村健二(あんしん堂鍼灸院院長)
詳 細 http://www.human-world.co.jp/seminer/seminer064.html




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