週刊あはきワールド 2015年11月4日号 No.448

第1回マッスル鍼法セミナーへのいざないⅢ

解剖学・生理学を活かす臨床

あんしん堂鍼灸院院長 宮村健二 


 
 新しい本『マッスル鍼法』をテキストに、第1回マッスル鍼法実技セミナーを企画しています。前回は、マッスル鍼法の技術面で最大の特徴といえる「両手刺手管鍼法」、すなわち押手をしない管鍼法について紹介しました。今回は、理論面での特徴といえる「解剖学・生理学を活かす臨床」について取り上げます。

 学生時代のことを思い出してみてください。基礎医学の授業では、解剖学・生理学をがっちり学びます。それなのに、臨床実習の段階になると、解剖学・生理学の知見は舞台裏に片付けられてしまい、表舞台では陰陽五行論や臓腑経絡説・気血津液説などが拠り所として重きをなす。そんな風に感じたことはないでしょうか。筆者は、東洋医学の古典理論を全面否定するものではありませんが、存否の信憑性に疑義のある部分が存在することは間違いのない事実です。これに対して解剖学や生理学は、実証の科学であり、特に生理学の近年における進歩には、目を見張るものがあります。従って、解剖学・生理学で説明可能な事象については、敢えて古典理論を持ち出す労は必要ないのではないかと考えています。

 ところで、マッスル鍼法です。新しい本を出版するに当たり、「筋に刺鍼し、筋内微小循環の改善を図る鍼」を「マッスル鍼法」と命名しました。厳格にいうと意味上多少の伸び縮みはありますが、筋に鍼して筋のこりや痛みを取る鍼といってよいでしょう。マッスル鍼法は、解剖学・生理学の知見で余すところなく説明できる技術とみるのが筆者の見解です。解剖学や生理学の知見には、存否の信憑性に疑義はありませんから、安心して勉強を進めることができます。そして、勉強すればするほど成果が向上し、それが臨床実践に反映すると期待できます。

1.マッスル鍼法と解剖学

 鍼灸師の世界では、堅い所に鍼するとそれが軟化すること、痛い所に鍼すると痛みが和らぐことは、経験的に知られてきました。筆者は、これらを堅い所主義・痛い所主義と呼んでいます。堅い所主義・痛い所主義は、経験のスタートとしては良いでしょうが、いつまでもそこに留まっていては困ります。トラブルを起こしているのはどの筋で、その筋を標的として鍼を命中させるにはどうすべきか、それが分かり、できるようになって、初めてプロといえるのではないでしょうか。トラブルを起こしている筋を見定めそれに鍼するなんて単純な技術であり、遠隔治効を運用する技術こそ高いレベルの鍼と考えておられる向きがないとはいえません。しかし、実際にマッスル鍼法を実践してみると、そんなに簡単なものではありません。明確なガイドラインはあるものの、その技術には予想以上に深みと味わいがあり、低いレベルの鍼とはとてもいえません。解剖学的にはっきりしているから単純などと考える向きがあるとしたら、その考え方こそ単純の謗りを免れ得ないでしょう。

 一方、鍼灸院の経営を考えると、マッスル鍼法は大きなシェアを占めており、鍼灸院経営の基盤をなすといっても過言ではありません。それくらいマッスル鍼法は、大切な技術です。

 さて、具体的に対象となるのは筋です。系統解剖学の筋学は、基礎知識としては有用ですが、マッスル鍼法の臨床で必要なのは、局所における立体的筋層構造です。これを正しく学ぶには、次の三つの観点が重要と考えています。

(1)骨および骨格の知識
 骨格筋という呼称があるとおり、筋は骨格を基盤に、それに付着して存在しています。したがって、骨およびそれで組み立てられた骨格を知ることは、筋の局所解剖学の大前提となります。セミナーでも骨格模型を持ち込んで、教材とします。

(2)筋の触診
 筋のうち、アウターマッスルと比較的浅いインナーマッスルは、触診が可能です。ときには、姿勢を変えたり、または一定の動作を指示しつつ触診する方法も駆使します。

 トラブルを起こしている筋を特定したり、鍼施術の前後で虚血サインの変化を評価したりする上で、触診の重要性は改めていうまでもありません。

 技術的にみて、一つ問題なのは、指を立てて深い所を触診する技術です。セミナーでは特にこの点に留意し、共に学びたいと考えています。

 二つ目の課題は、筋群触診マップです。既知の筋層構造を体表に反映したマップです。セミナーでは、あんしん堂鍼灸院で開発したマップを用い、共に学びたいと考えています。

 なお、深い所にあるインナーマッスルは、触診が困難です。これについては、触診可能な筋および骨と骨格の知識から、その位置を類推することとなります。

(3)筋パルスの応用
 触診で取り上げている筋が正しいかどうかを確認するのに、筋パルスは大変有用です。この場合、電極の一方は表面電極とし、他方を鍼電極として、標的筋内に刺入し通電します。筋の動きを観察することで、触診による想定が正しいかどうかを確認できます。

2.マッスル鍼法と生理学

 筋に刺鍼し、筋内微小循環の改善を起こす仕組みは深部軸索反射であることは、木下晴都氏によって報告されました。1981年のことです。これによって、マッスル鍼法のメカニズムは確定したといえるでしょう。それを受けて、当時鍼灸関係者の多くは、この分野の研究はゴールに達したと評価しました。

 しかし、筆者はそれとは異なる感想をもち、新たな検討に着手しました。すなわち、筋内微小循環改善のメカニズムが軸索反射であるならば、その軸索反射をどんな範囲に起こすか、またその強さをどのようにコントロールするか、それが臨床の鍼として新しい課題になるのではないか。そうだとすると、木下先生の報告は、最終ゴールではなく、中間のゴールであって、新たな研究のスタート点ではないのか。このように考えて以後30年間臨床に精進してきました。その結果、新しい本『マッスル鍼法』に示したような一連の成果を手にすることができました。

 筋内に軸索反射を起こす範囲については、鍼と皮膚および鍼と筋繊維との角度が決め手となります。このことについて、木下先生は交差刺という言葉でその基本概念を示しておられますが、筆者はそれをさらに細かく分析し、新しい両手刺手管鍼法の技術と結びつけて体系化を図りました。

 筋内軸索反射の強さのコントロールについて、一般には雀啄術を第一選択とする向きが多いようです。しかし、筆者の経験では、雀啄術には副作用のリスクがあることから、回旋術を基軸とし、それにアレンジを加え、五段階の深部ひずみ作り手技五術を考案しました。セミナーでは、実際に筋過緊張をもっておられる方をモデルとし、生理学の知見に基づく実技を供覧する予定です。

 最後に、第1回マッスル鍼法実技セミナーは11月29日(日)です。興味をおもちの方の積極的なご参加を歓迎いたします。

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マッスル鍼法セミナー
2015年11月開催
日 時 2015年11月29日(日) 10時~16時
会 場 東京都内
内 容 マッスル鍼法』をテキストにしてその刺鍼テクニック等を学ぶ
講 師 宮村健二(あんしん堂鍼灸院院長)
詳 細 http://www.human-world.co.jp/seminer/seminer064.html




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