週刊あはきワールド 2015年11月11日号 No.449

第1回マッスル鍼法セミナーへのいざないⅣ

近頃体験した面白い話

あんしん堂鍼灸院院長 宮村健二 


 
 近頃マッスル鍼法の臨床を行っていて、とても面白い体験をしました。今回はこれをご披露し、マッスル鍼法実技セミナーへのいざないといたします。

 患者さんは、73歳、女性。本年9月5日に、慢性腰痛を主訴として来院されました。医療面接と身体診察で、腸腰靭帯およびその周辺の腰部腸肋筋を責任病巣とする腰痛と判定しました。左右の比較では、右の方が強いようです。そこで、触診による過緊張と圧痛を指標に、腰部腸肋筋に第1フォーカス群を求めることとしました。また、触診はできませんが、典型的な一類インナーマッスルである腰部の多裂筋・回旋筋に必ず隠れ疲労があると想定し、これに第2フォーカス群を求め、標治法としてのマッスル鍼法を施すこととしました。

 ここまでは良かったのですが、施鍼は大変苦労しました。患者さんが怖がりで、鍼を恐れびくびくしておられたからです。ベッド上で側臥位になっていただきましたが、腰部の皮膚は、緊張のためうっすら汗ばんでいます。鍼尖が標的筋に達してちょっとでも響くと、びくっと体を震わせ、「あっ」と声を発します。聞いてみると、「鍼が怖くてしようがないんだけれど、あそこの先生はとても上手でよく効くからと友人に勧められて来ました」ということでした。

 過敏者対策としては、細い鍼、例えば14号鍼を用いるというのは一つの選択肢ですが、この症例の場合、標的筋が皮膚から遠く深いので、14号鍼の鍼体長40mmでは届きません。やや太めの体格を考慮すると、長さは、どうしても60mmは必要であり、太さは、メーカーの規格からして14号を諦め、20号を選択することとしました。筆者は、自ら考案した両手刺手管鍼法を用いているわけですが、押手をしないこの方法はノイズが極めて少ないことをセールスポイントとしています。そこで、両手刺手管鍼法の作業工程を漏れなく忠実に丁寧に実行することにより、この急場を凌ごうと決心しました。弾入の後の刺入準備と、それに続く第1期刺入を、次のように行いました。

 説明に当たり、上刺手は右手、下刺手は左手と表現します。左利きの方は左右を入れ替えてお読みください。

【刺入準備】

 指先・除管・預管・指腹・RF。以上五つのキーワードで示す五つの操作を、この順序で行います。

①指先
 下刺手指先ホールドを「指先」と表現しています。

 これは、弾入が終わった後、右手で鍼の長さの半ばぐらいまで鍼管を持ち上げて留め、露出した鍼体下部を、左手の母指先と示指先で、刺点の上方1~1.5cmの高さでしっかり持つ操作です。

 このとき、左手の手根に重さや力などの圧を加えてはいけません。手根に圧を加えると、左手が押手のように固定され、下刺手としての動きが窮屈になります。手根は、浮かせるか、軽く接触するだけとし、薬指を支点として、左手の安定を図ります。

②除管
 右手で、鍼管を鍼から取り去る操作です。

③預管
 除管した鍼管をシャーレまたは胸ポケットへ預ける操作です。筆者は、胸ポケットに鍼煮沸管を挿入しておき、それへ預けています。

④指腹
 上刺手指腹ホールドを「指腹」と表現しています。

 右手の母指腹と示指腹で、鍼柄を軽く持つ操作です。刺入に向けてのスタンバイということです。

⑤RF
 Rは、リリースの略称です。リリースは、右手を鍼柄から離す操作です。これによって、鍼柄周囲に自由に動けるゆとりができます。

 Fは、フリーの略称です。フリーは、左手を鍼体下部から離す操作です。リリースが終わった直後に行います。これによって、鍼は自由となり、組織の弾性に押されて浮き上がります。タイミングを計って、右手の母指・示指を鍼に寄り添わせ、鍼が倒れないようにサポートします。

 RFによって、組織はひずみのない奇麗な自然体となります。これで刺入の準備は完了です。

【第1期刺入(鍼道前刺入)】

 鍼道が成立するまでの刺入です。サイクル圧鍼とテスト圧鍼がその中身です。

①サイクル圧鍼
 キーワードでいうと、半ミリとRFの繰り返しです。繰り返しは、4回をめどとします。

 半ミリは、半ミリ加圧ということです。半ミリを数値化すると、0.5mmですが、正確な数値化は必要ありません。1mmにも達しない小幅な加圧という意味で用いています。半ミリ加圧は、左手主導で行い、欲張ることなく、無理することなく、控え目に小幅に行います。

 RFは、前述のとおりの要領で行います。半ミリ加圧で生じたかもしれない組織のひずみを消去し、組織を自然体に戻します。

②テスト圧鍼
 キーワードでいうと、半ミリとDを繰り返します。繰り返しは、4、5回をめどとします。

 半ミリの意味と要領は、前述のとおりです。

 Dは、脱力の略称です。脱力は、加圧の休止です。

 テスト圧鍼は、鍼道の成立をテストするための圧鍼です。圧鍼によって鍼尖がすっと沈むようであれば、鍼道は成立したと判定します。

 鍼尖がすっと沈まないときは、半ミリとDを変形して、テストを繰り返します。

a)変形1:N半ミリ・D、または半ミリN・D。ここでいうNは、旋撚の略称です。

b)変形2:半ミリ・B。ここでいうBは、テークバックの略称です。

 刺入準備と第1期刺入の操作を、ガイドラインどおり徹底して丁寧に実効した結果、予想外の面白い現象が起こりました。第3診から、「先生の鍼を受けていると眠くなる」と言い出したのです。そして、実際にうとうとしていることがあるようになってきました。10月24日には第8診を行いましたが、初診当初明らかに存在した腰部腸肋筋の過緊張と圧痛は、消失といってよいくらいに消退しています。鍼尖が筋層内に到達しても、ひびきはあるそうですが、体をびくつかせることも声を上げることもなくなり、嬉しそうにベッドに上がっています。この変化をどう考察したらよいか、以下に仮説を書いてみます。ご一緒に考えていただけるとありがたいです。

【考察】

①1本の鍼が二つの働きを現したとみてよいか
 両手刺手管鍼法は、鍼尖が皮膚表面から標的筋に達するまでの鍼尖移送が、いつ入ったか、どこまで入ったか分からない“いつどこはり”になるように規格されています。すなわち、鍼尖移送に際して、受容器に不必要な刺激の入力がなされないことを念頭においているわけです。

 今回体験した症例では、単に鍼が痛くない、低ノイズであるというだけでなく、眠くなってきたと訴え、実際にうとうとしたりしています。これは、鍼尖をひずみのない自然体の皮膚・皮下組織に長く滞留させ、ごくゆっくり小幅に前進させるという操作を通じて、皮膚・皮下のポリモーダル受容器から、高位脳にリラックスの転調情報が発信したとみるべきではないでしょうか。

 そうだとすると、筋を標的とする1本の鍼が、皮膚・皮下通過時にはリラックスの転調情報を発信し、筋内に到達した後には軸索反射による筋内血管拡張情報を発信するという二つの働きを現したと考えてよいのではないかと考察します。

②丁寧に行った第1期刺入は深部の響きに影響したとみてよいか
 初診時の第1期刺入が特に粗暴であったとは思いませんが、怖がりの過敏者であることを知ってからは、強く意識して丁寧な操作を心がけたことは事実です。初診時には強い響きを感じ、体をびくつかせる、声を上げるなどの強い反応を示していた患者さんが、響きはあるというものの、強い拒否反応を示さなくなったことについて、どのように解釈したらよいでしょうか。

 一つには、治療の進行につれて筋の状態が改善し、響きが弱化した可能性があります。また、鍼に慣れて、響きを初めほど強く感じなくなったということも考えられます。しかし、それらとは別に、皮膚・皮下組織のポリモーダル受容器から発信した情報が、何らかの道を経由して響きに干渉したという可能性も否定できないのではないでしょうか。

 近頃体験した面白い話ということで、一つのエピソードをご紹介しました。マッスル鍼法実技セミナーでは、こうしたエピソードも踏まえ、皆様の臨床に直結した実技を取り上げたいと考えています。

 最後に、第1回マッスル鍼法実技セミナーは11月29日(日)です。興味をおもちの方の積極的なご参加を歓迎いたします。

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マッスル鍼法セミナー
2015年11月開催
日 時 2015年11月29日(日) 10時~16時
会 場 東京都内
内 容 マッスル鍼法』をテキストにしてその刺鍼テクニック等を学ぶ
講 師 宮村健二(あんしん堂鍼灸院院長)
詳 細 http://www.human-world.co.jp/seminer/seminer064.html




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