週刊あはきワールド 2016年1月20日号 No.458

【新連載】マッスル鍼法へのいざない1

両手刺手管鍼法を知る その1

~押手をやめる~

あんしん堂鍼灸院院長 宮村健二 


【はじめに】

 新しい鍼の実技書『マッスル鍼法』は、筆者にとって2冊目の本です。昨年10月にヒューマンワールドから出版されました。2012年7月に上梓した1冊目の本『手渡しで伝えたい情報コーディネート鍼灸』では、鍼灸作用の本質を神経インパルスやケミカルメディエーターなどの情報発信と捕らえ、生体が自然治癒のために入力待ちしているこれらの情報を鍼灸で供給するのが鍼灸臨床の基本原理であるとの立場を述べました。読者の方々から、この情報コーディネート理論を踏まえた具体的な実技書を書いてほしいとの多くの要望が寄せられました。この声に背中を押されて執筆したのが本書です。

 ところで、本というものは、どうしても統一された体系の下でのまとまりという体裁を取らなければなりません。その点連載は、その都度テーマを定め、そのテーマを核に、リアルに自由にアプローチできるという特徴があります。多くの場合、連載を先行させ、ある程度書き溜めた原稿に加筆・修正を加え、編集して単行本にまとめるというのが一般的です。先の『手渡しで伝えたい情報コーディネート鍼灸』は、このやり方で、3年に亘り、月一で書いた連載を1冊にまとめました。今回の『マッスル鍼法』は、順番を入れ替え、先に本を出版しました。そこで、前とは逆に、本の中から興味深いテーマを引き出し、それにリアルな味付けやデコレーションを施し、これらを月一で並べて連載としてみます。

 この連載によって、原本の『マッスル鍼法』を読んでみたいと思われる方がいらっしゃれば大歓迎です。また、すでに本を手にしておられる方々は、この連載によって、新しい読み取りや読み解きのヒントを得ていただければ、これまた大歓迎です。微力ながら全力投球で書いてまいりますので、ご期待ください。

【両手刺手管鍼法を知る その1 「押手をやめる」】

 「マッスル鍼法」は、「筋に刺鍼し、筋内微小循環の改善を図る鍼」です。筋に刺鍼するためには、前もって鍼尖を皮膚表面から標的筋の所まで運ばなければなりません。この過程を「鍼尖移送」と呼んでいます。

 ところで、鍼灸院を訪れるお客様は、ほとんど100%、鍼は痛い、鍼は怖いと、恐怖心や緊張感をもっておられます。極端な場合、ベッドに上がって緊張のため汗をかいておられる方も見受けます。そんなお客様にほっと安心していただくのが、理想の鍼尖移送です。

 筆者は、ほっと安心していただく理想の鍼尖移送について、長年課題意識をもちながら解決策を見つけられないままに悩み続けてきました。それは押手の問題です。鍼を学ぶ立場にあった1960年代、地元盲学校理療科および東京教育大学教育学部特設教員養成部で鍼実技の授業を受けました。押手は、母指と示指の圧バランスを整えてしっかりセットし、一度セットしたら刺鍼が終わるまで絶対に動かしてはいけない。そんな風に教わりました。

 しかし、どんなにバランスよく整えるといっても、上下圧を施術部組織に及ぼすわけですから、ひずみを起こした組織に鍼を刺し込むこととなります。ひずみのない自然体の組織とは異なり、不自然のそしりを免れないのではないか。そして実際に、押手によるひずみが刺痛や鍼のブレーキの原因になっていることも少なくないのではないか。また、一度構えたら絶対に動かしてはいけないというのは、いかにも窮屈ではないか。どっしり重く落ち着いた磐石の押手は、患者さんに安心感を与えるとも教わりましたが、それは押手の鍼に慣れた人に限った話で、初めて鍼を受ける人は、押手で押されること自体怖さの元凶といえるのではないか。さらに極め付きは、斜刺の角度管理です。押手をして斜刺をした場合、押手を取ると、意図したのとは異なる方向に鍼がぶれてしまうことは間々ある事実です。

 それでも押手は必要で、大切な技術だと、繰り返し指導されました。確かに重い金属鍼管を柔らかい組織の上に密着・固定するには、鍼管の下端部をしっかり持って、押手の底面と鍼管の下端を施術部組織に押しつけることは有効です。ちなみに鍼管の重さを計測してみると、いわゆる寸六の鍼管は、金製は15g、銀製は8g、ステンレス製は5gありました。

 これでは押手は必要不可欠といわれても仕方ないのかなと諦めかけていた筆者でしたが、1990年代となり、思いがけない変化が管鍼法の世界に訪れました。それはディスポーザブル鍼の普及です。ディスポーザブル鍼すなわち使い捨て鍼は、衛生管理上の理由から開発され、普及したわけですが、本来の目的とは異なる意味で、鍼の世界に大きな変化をもたらしました。それは、管鍼法を巡る道具の変化です。すなわち、鍼は、柔らかい銀鍼主流から堅くて鋭利なステンレス鍼主流へ、鍼管は、重くて壁の厚い金属鍼管から軽くて壁の薄いプラスチック鍼管へと変貌したのです。

 筆者はこの道具の変化に着目し、押手をやめて、その手を皮膚から浮かせ下刺手とする両手刺手管鍼法の技術に挑戦してみました。その結果、押手をやめたことによって、両手刺手管鍼法には二つの基本的なメリットがあることが分かりました。
 

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