週刊あはきワールド 2016年5月11日号 No.473

【熊本地震】鍼灸マッサージボランティア・レポート その1

災害ボランティア 1

災害鍼灸マッサージプロジェクト代表 三輪正敬 



河川敷の樹木の根が地震により露わに
 「避難所暮らし、隣の人のイビキもあったりして眠れないんだけど、お医者さんにもらった睡眠薬は余震に気づけないまま眠り続けることがこわくて飲めないんだよ」

 熊本県益城町の避難所にて、60代の女性の言葉です。

 2011年の東日本大震災、2015年の関東東北豪雨災害と活動してきて、今回の熊本地震。避難所の中は一見似たように見えて、そこに暮らさざるを得ない方々の細かな訴えはそれぞれに異なります。そうした意味では同じ災害はないのですが、大切なものを失い、途方にくれる人々の苦悩は、いつでも深くあります。

 どうかどうか早く余震がおさまり、安心した暮らしへ戻っていくことができますように。

「熊本地震 鍼灸マッサージ支援活動地図」を作成

 東日本大震災を契機に発足した災害鍼灸マッサージプロジェクト(以下、災プロ)は、そのスタッフの9割が関東在住、そしてそのほとんどが、小さな個人経営の治療院を営んでいたり、訪問マッサージ会社などへ勤務している有志の鍼灸師、マッサージ師です。

 そのため、遠く九州での災害へすぐに駆けつけることは自分たちに無理がかかり、そうした無理の中で行う支援では地元に迷惑をかける恐れがあることから、すぐに現地入りすることは控え、代わりに各個できることをやろうと、発災直後から動き始めました。

 その活動の一つが、鍼灸マッサージボランティアとして現地入りされる個人、団体の活動場所を地図上にプロットしていく活動地図「熊本地震 鍼灸マッサージ支援活動地図」です。

 現地で活動されているあらゆる先生方に敬意を表しつつ、活動場所のバッティングを避け、支援の手薄な地域を、所属など関係なく明確にしていこうという試みです。現地で継続的な支援をされている方がいらっしゃいましたらすぐに記載させていただきたいと思いますので、ぜひ災プロまでご連絡ください。

スタッフは他団体等で各個にボランティア活動


益城町災害対策本部ミーティング
 また、現地活動を始めている団体やチームへの参加も行いました。スタッフの一人は、2011年の災プロの活動にも参加してくださった藤井正道先生のチームに参加しました。

 代表の私は、AMDAの活動へ、やはり東日本大震災を契機にご縁を頂いた、AMDAの鍼灸師統括で、帝京平成大学の今井賢治先生のご紹介により、5月1日~5日にかけて参加させていただきました。今井先生にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。


写真左:保健室での筆者の治療風景
写真右:鍼灸師チーム(今井先生、高山医師、大槌町の佐々木先生らと)










AMDAの「Local initiative」と
活動3原則「迷惑をかけない、事故を起こさない、他を尊重する」

 本稿の目的は、災害ボランティアの活動にあたって、その基本的な理念を自戒を込めて確認していくことであるため、AMDAでの活動内容の詳細は次稿に譲りますが、それでも書かなければならないのは、AMDAが非常に丁寧な支援を行っていることです。その丁寧な支援は2011年の大槌町の活動で耳にしてはいましたが、今回、自身で参加してみることで実感できました。

 AMDAで掲げられている支援のベースとなる「Local initiative」という考え方、そして活動に際しての「迷惑をかけない、事故を起こさない、他を尊重する」という3原則は本稿で説明したいことが凝縮されており、災プロが持っている「地元中心主義」、そして「地元へ迷惑をかけない」「自分がしたいことをするのではなく、相手のしてほしくないことをしない」「他団体や個人の批判をしない」という活動理念と驚くほど合致していました。

災害ボランティアの活動にあたって、その基本的な理念を確認しよう

1.「鍼灸マッサージをしに行こう」と思わない
 さて、災害ボランティアとして外部から現地へ入ろうとしたとき、まずは「鍼灸マッサージをしに行こう」と思わないことが肝要です。代わりに災プロは「自分にできる支援をしに行こう」と考えます。現場に入り、目の前にあるニーズが片づけならば片づけを、掃除なら掃除を、話相手なら話相手をすることが私たちの役割です。やることを決めてしまい、視界を狭めないよう注意する必要があります。

2.必要な道具や物品は十分に準備する
 次に準備するのは、施術に必要な道具と衣食住に必要な物品です。もちろん、地元で買えるものは地元で購入することも支援になりますが、間違っても、他の支援者や地元の方から分けてもらうようなことのないよう、十分に準備する必要があります。

3.地元の情報をきちんと調べておく
 準備は物品だけでは足りません。地元の情報をきちんと調べておくことも必要です。たとえば私が益城町へ入る際、町の人口は3万人強で、外国人は少ないこと、2009年に熊本市との合併が住民投票で否決された歴史があることや、再春館製薬の本社があること、町の花や木、特産物など、ある程度頭に入れていきました。

 「外国人は少ない」と書きましたが、昨年の常総市の避難所ではブラジル人が多く、ポルトガル語の通訳が必要だった場面もあり、活動にあたってポルトガル語の「指さし会話帳」を準備しました。

4.過去の経験にとらわれない
 過去の経験にとらわれないことも大事です。避難所の様相は似たようでも、現場によって避難者の必要なことや訴えることは微妙に異なります。以前の経験をそのまま当てはめることは避けることをお勧めします。もちろん、経験を積み上げていくことは大事であり、常に自分の目で現場を見て、新たに組み立てていくことが必要とされる、ということです。

5.実際の活動では無理をしない
 また、実際の活動では、無理をしないことが求められます。日常の時間を削ったボランティアですから、正確に言えば「ちょっとだけ無理をする」ものですが、丁寧さを欠くのであれば、やらない方が事故も防ぐことができ、周囲に迷惑もかけません。自身の「疲れ」を認識できるように、そして疲れたなら遠慮なく休みましょう。活動終了後の自分自身のケアについては災プロのガイドラインにも載せていますので参照いただければ幸いです。

AMDA活動中に出合った勉強になる2つの事例

 特に健康に資する私たちの活動は、継続的であること、また他の医療職と連携することが求められます。AMDA活動中の医療事故は皆無だったのですが、私の滞在中に2件、勉強になる事例に出合いました。

1.蜂窩織炎疑いの患者さん
 1つは蜂窩織炎疑いの患者さんです。

 2日前にすでに帰宅したボランティア鍼灸師の鍼を受けた70代の女性避難者が土踏まずの腫れを訴えて鍼灸室を訪れました。

 「肩とか腰とか全部良くなったからありがたいんだけども、ここが腫れてねぇ。お世話になってるから別に良いと思ったけど、同室の人たちから受診を勧められて来たの。鍼灸のせいではないと思うけれどねぇ。先生たちがいなくなったら困るし」との訴えでしたが、患部を見ると確かに赤く腫れて熱を持っています。

 ぶつけた記憶もないそうで、当然、蜂窩織炎も疑わなければならない状況でしたので、まずはすぐ隣の医師を呼び、診察してもらったところ、虫さされとわかりました。

 AMDAという継続された支援団体の中での事案でなく、単発のボランティアによるものだったら、施術者がすでに帰宅してしまった後に起こった腫脹の原因が鍼灸とされた可能性は大いにあり、本人ばかりでなく、同室の人たちの鍼灸への不信を買っていた可能性があります。

 災プロが継続的な支援を前提に自らを団体化しているのも、このようなことを避け、責任あるアフターフォローのできる丁寧な支援を心掛けているためです。カルテを用意し、施術者が変わっても引き継いでいけるように工夫しています。

 個人による支援である場合でも、カルテを作ること、あまり間を置かずに繰り返し支援に入ること、自身の連絡先を残すことができれば、それは「地元の方々にとって」良い支援となると思われます。

2.糖尿病の患者さん
 2つめは、糖尿病の患者さんです。

 50代の男性、足尖部に潰瘍があり、一目で糖尿病が疑われる状況でした。医師により計測された血糖値は390mg/dl(血液100ccの中に390mgの糖分)と非常に高く、AMDA医師から「対応はお任せします」と伝えられた現場の鍼灸チーム6名の合議により、施術はマッサージのみと決まりました。

 この方はその後、午前は看護師によるフットケアとリハビリ、午後はマッサージと分担した介入が行われ、食事指導も入り、現在は足もきれいになってきていると伺っています。ここまでの医療連携は鍼灸マッサージ師のみの災プロでは難しく、医療団としてチーム医療の行われているAMDAならではと思います。

「災害ボランティア」とは

 本稿の題をただ「災害ボランティア」としましたが、まとめますと、災害ボランティアとは、自分のやりたいことは横に置いておき、よく観察して相手の求めていることを見極め、ただ被災地のために、迷惑のかからぬよう行動すること、と言えるでしょう。

 以上のようなことは活動の大前提であり、災プロのガイドラインにも敢えて載せていませんでしたが、自戒を込めて、あらためて書かせていただきました。

 2011年3月25日のあはきワールド号外の中でも紹介しました内閣府防災担当「ボランティアの作法」など、まとまっているページや資料が現在はいくつもありますので、ご覧いただければと思います。

災プロの今後の活動

 なお、災プロの今後ですが、熊本地震発災から1カ月を前に、西原村、および南阿蘇村での活動を開始することを決定しました。NPO法人鍼灸地域支援ネットなど、他団体と協力しながら、所属は関係なく、これまでの活動と同様、皆で質の高い支援を行って参りたいと思います。

 まずはスタッフによる事前調査、活動から始めるため、一般ボランティアの受け付けは未定ですが、ご支持いただけるようでしたら、災プロHPにて募金のお願いもしておりますので、ご協力いただければ幸いです。

 活動の詳細な報告はHPのほか、フェイスブックツイッターでも行って参ります。

 私は今週末、2度目のAMDA活動へ参加し、益城町にて再度の活動を行います。またご報告させてください。

 余震を恐れ、不自由な暮らしを続けていらっしゃる方々に、早く安心した日常が戻ることを祈りながら。
 
マッスル鍼法セミナー
2016年5月開催
日 時 2016年5月22日(日) 10時~16時
会 場 東京都内
内 容 マッスル鍼法』をテキストにしてその刺鍼テクニック等を学ぶ
講 師 宮村健二(あんしん堂鍼灸院院長)
詳 細 http://www.human-world.co.jp/seminer/seminer067.html
 
第3回「超楽トランスファーテクニック」セミナー
2016年6月開催
日時 2016年6月18日(土)15時~19時
内容 誰でもできるトランスファーテクニック』をテキストにして安全に楽に移動させられる「トランスファーテクニック」の実技習得を目指す
講師 西村久代(株式会社訪問リハビリ研究センター代表取締役)
会場 東京都内
詳細 http://www.human-world.co.jp/seminer/seminer068.html
 
第14回あはき師のための変形徒手矯正術セミナー
2016年6月開催
日時 2016年6月19日(日)10時~16時
内容 AZP理論に基づく変形徒手矯正術』をテキストにして療養費(保険)取扱の基本事項から変形徒手矯正術の実技までを学ぶ
講師 西村久代(株式会社訪問リハビリ研究センター代表取締役)
会場 東京都内
詳細 http://www.human-world.co.jp/seminer/seminer069.html




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