週刊あはきワールド 2016年5月18日号 No.474

熊本鍼灸マッサージボランティア チームオレンジ・活動レポート

熊本地震鍼灸マッサージボランティアマニュアル

関西中医鍼灸研究会世話人、(公社)大阪府鍼灸師会会員 藤井正道 


 熊本鍼灸マッサージボランティア チームオレンジは5月1日~4日、避難所の熊本市立若葉小学校と御船町スポーツセンター、熊本市立一新小学校で被災者やボランティアのみなさん242名を治療しました。のべ22名、実質7名の治療家、補助者3名、実質1名が参加しました。

 チームオレンジは関西中医鍼灸研究会世話人の私が4月22日に呼びかけ、大阪、東京、茨城、大分の仲間が流派、会派を超えて結成した混成チームです。5月4日の活動終了後ただちに解散しました。4月24日に設置された日本鍼灸師会、全日本鍼灸マッサージ師会合同の災害対策本部と連携し、その一環として活動しました。

 被災者を少しでも楽にしてあげたいという気持ちは、被災地に出向こうという治療家の誰にでもあるでしょう。その気持ちをいかに具体化するかが大切です。思いばかり先走っても空回りします。現地に行き、できるだけ多くの被災者の治療を行うこと。当初の急性期が終わった後にできるだけ早期に現地に入り、現地の治療家たちが復活する時期には撤収する。そのためにどう動くか。この小文がそのヒントになれば幸いです。

現地の治療家もなかなか行けない避難所に今からでも行くという選択も、もちろんあります。



右側が藤井。左は大阪の鍼灸師会の三木先生
 4月14日 前震、16日 本震 いずれも震度7、そして繰り返す余震。阪神大震災でも東日本大震災でも鍼灸マッサージボランティアのリーダーをやった経験のある私でしたが、じつは悶々としていました。熊本は一度も行ったことはないのですが、数名の知人はいます。足がかりがないわけではないのですが、やっぱり余震は怖い。阪神大震災は40歳、東日本大震災は55歳、そして今は60歳、体力の心配もありました。

 交通機関の回復状況をみながらチーム結成を決意したのは4月21日。航空券を予約しレンタカーを手配、22日には呼びかけを各団体、個人にメールしました。あわせて熊本の知人やボランティア団体を通じて、ボランティアに入れる場所を探りました。25日には参加メンバーがほぼ固まりました。

☆今回はテントと車を臨時治療所と宿泊場所に

 避難所は手狭で余震が続いているという条件からテント泊車中泊を選択しました。テントと車の方がチームメンバーも安全安心です。それに夜に需要が増えることはわかっていましたから、治療現場と宿泊場所が近い方が効率的です。東日本大震災では被曝の危険等からホテル泊にしました。またこの時の経験から宿泊施設の確保が被災地では大変なことも身にしみていました。


5月2日 御船町スポーツセンターに臨時治療所を設置、
左奥は自衛隊の車両
 避難所の外にテントと車(ハイエース)で臨時治療所を設置することを基本方針として受け入れ先と交渉しました。

 阪神大震災の時は避難所となっている学校の教室を借りて臨時治療所を設置したりしましたが、これは私が直接、避難所まで行って事前交渉したから実現できたこと。熊本は阪神よりも21日時点で避難所に人があふれていたので、テントと車の方が先方も受け入れやすいだろうと考えました。テントは阪神の時、公園にできていた被災者のテント村に、新たに治療所用テントを設けた経験がありました。

☆行政に頼らずボランティア受け入れ先を確保

 熊本市や周辺市町村は混乱している様子でしたので連絡は入れませんでした。4月27日、知人のルートから熊本市の中では被害の大きかった若葉小学校に臨時治療所を設置することが決まり、事前にビラ、ポスターのワードファイルを送りました。ボランティアといっても普通の治療院の仕事と変わることはありません。いつ鍼灸マッサージがあるかということを被災者に事前告知しておいたほうが、顧客の被災者が利用しやすいのです。

 熊本YMCAは地震の起きる前から、行政から委託を受け益城町総合運動公園、御船町スポーツセンターなどを管理運営していました。地震後はそのまま避難所の運営を手がけ、YMCA独自ルートでボランティアを送り込んでいました。例えば御船町社会福祉協議会はボランティアを県内に限定していましたが、御船町スポーツセンターには大阪YMCAの若者が独自に入っていました。

 熊本YMCAにも鍼灸マッサージボランティア受け入れ要請のメールを出し続けていましたがなしのつぶて、4月28日にそれまで遠慮していた電話をしました。担当者は「いつお返事できるかわかりません」という返事でしたが、30分後に電話が入り、「御船町スポーツセンターでお願いします」ということになりました。前震から2週間、ちょっと落ち着いた頃に電話したタイミングがよかったのでしょう。

 御船町は益城町に隣接する被害の大きかった地域。御船町スポーツセンターは町の中心部にあり町役場もすぐ近く。同じく避難所になっているカルチャーセンターに隣接し、そこには自衛隊がお風呂を設置しています。スポーツセンターだけでなく物資の配給、入浴等で集まってくる町民のみなさんに治療をしてくださいと要請されました。広報にも掲載され災害FM放送でも流されることになりました。

☆ビラ、ポスターで被災者の需要を開拓

◆1日 熊本市立若葉小学校 13時~20時

鍼灸マッサージの受療を促すポスター
 晴天で暑い日でした。治療家6名で41名の治療をしました。体育館内はぎっしりの避難者であふれていました。高齢者の多い地域で、被災者も高齢者が目立ちます。

4月30日 熊本市東区若葉小学校
(4月29日夜横浜市職員調べ)
体育館内 約140名
教室 約48名
校庭の車 約70台(車中泊含む)

 熊本市の中では被害の大きかった地域で、立入り禁止を示す赤い紙が街の建物のいたるところに張られています。到着して挨拶すると、応対したボランテイアの方は私たちの到着を知らなかった様子、前日にビラが配布されたはずですが、これぐらいは想定内。さっそく近くのコンビニでビラとポスターをコピーして配布、体育館の南側の涼しそうな木陰にテントを設営、のぼり旗もたてました。


若葉小学校体育館南にオレンジテント設営
 私は車で30分ほどの御船町スポーツセンターへ事前調査と挨拶へ。到着すると別のグループがスポーツセンターとカルチャーセンターの中間に多数のテントを設営し、10分間マッサージをやっています。テントは御船町観光協会の持ち物、早速交渉し借りることにしました。持参のオレンジテントだけでは手狭だったからです。


木陰で神闕に箱灸の治療
 若葉小学校ではテント内やハイエース内は別のメンバーに譲り、木陰のポータブルベッドで治療、鍼灸をためらう人にはマッサージをしましたが、神闕の箱灸と勇泉の棒灸を組み合わせるようにしました。温灸を嫌がる人はいません。温灸は体育館の外だからできる治療、神闕で温陽して健脾補腎補気、勇泉で補腎降気して不眠を治します。体育館の避難者はみんな不眠です。「今起こっていることが現実とは思えない」という患者さんもいらっしゃいました。

 御船町スポーツセンターの患者さんの中には自宅で過ごしている方もいて、不眠がない人もいらっしゃいました。

◆2日 9時~20時 御船町スポーツセンター
 晴天で暑い日でした。治療家5名、補助者1名で76名の治療をしました。ほか治療家1名が熊本市立一新小学校で治療。16名を治療しました。

 知人のルートで電話がかかってきました。熊本市内の一新小学校にきていただけないかという要望です。1名を派遣。派遣した先生からは、受け入れ体制も整っているし需要もあるのでそのまま一新で治療を続けたいという要望が2日夜にあり、3日朝からは一新で寝泊りして治療を続けてもらうことになりました。


ハイエースを個室にして温灸を多用
 私はオレンジテントから3mぐらい離れたハイエースの車内で温灸を多用する治療を続けました。個室のため、被災者の患者はせきをきったようにしゃべり始めます。隣近所がそのまま越してきたような避難所の中ではしゃべれないことばかりなのでしょう。心配事やぐちが続きます。オレンジテントで治療中の患者さんもいろいろしゃべっていらっしゃいます。避難所の中の巡回だけではこうはいかないでしょう。

 自閉症の息子さんのために避難所に入れず、軽自動車で車中泊を続けているシングルマザーの方を治療しました。働き詰めだった半生を話されます。どうしてもしんどい時だけ鍼灸で治してきたとの事で、治療中はうとうと眠られていました。

 大阪に帰ってから、障碍者枠での特例処置があることを見つけ、電話で伝えました。早く車中泊を卒業できればいいのですが。

 御船町スポーツセンターには180名ほどの被災者が避難されていて、玄関ホールまでぎっしりです。YMCAのスタッフやボランティアは屋内プールの脇の空間で寝ているとのことでした。熊本市内の避難所の人数は減る傾向でしたが、被害の大きかった御船町、益城町は違います。

 治療は予約制とし、携帯電話にこちらから電話を入れるようにしました。待ち時間を減らす工夫です。

◆3日 9時~19時 御船町スポーツセンター
 土砂降りの雨、寒い日でした。治療者5名、補助者1名で、51名を治療しました。ほか治療家1名が熊本市立一新小学校で治療。21名を治療しました。


軒下に治療所を設置
 前日のスポーツセンターとカルチャーセンターの中間地点では患者さんが雨に濡れてしまうし、雨のテント内の治療も困難が予想されました。スポーツセンターの玄関屋根の下の空間は物置になっていて、ここを片付けるとオレンジテントが設置できそうです。交渉して雨のあたらない場所にオレンジテントを設営、土砂降りの中でもきちんと治療ができました。持参したランタン等の照明が役に立ちましたが、意外に活躍したのがヘッドランプ、鍼を打つときの手元を明るくしてくれました。

◆4日 9時~13時 熊本市立若葉小学校
 晴天、でも前日の土砂降りで1日にオレンジテントを設置した場所は足場が悪くなっている。治療者3名、補助者1名で、17名を治療。ほか治療家1名が熊本市立一新小学校で終日治療。20名を治療しました。

若葉小学校近況(5月3日18:00時現在熊本市職員調べ)
避難者数
体育館 115名
教室 36名
車 60台

 5月1日の治療の時に4日午前の治療を予告しておいたので、治療所開設前から順番待ちが出る盛況でした。午前中は被災者が忙しいため需要が減少する傾向にあります。1日と4日と入れたのが狙い通りでした。予想通り被災者の数が減っていたので、外ではなく体育館内にオレンジテントを設置することができました。

◆飯と風呂
 チームリーダーの仕事はメンバーのための充分な数の患者さんの確保、快適な治療環境の確保だけではありません。ボランティアは自己完結といわれても野営に慣れていないメンバーも多いのです。事前に参加者に最新の生活環境についてのメールを送り、メンバーが不安なく参加できるように配慮しました。


登山家の吉田智美さん
 あたたかいご飯とお風呂はチームメンバーの疲れを癒します。熊本市内をよく知っている関西中医鍼灸研究会の幸谷雄一氏がいてくれて助かりました。夜遅くまで営業していた銀シャリ亭でチームメンバーは1日2日とあたたかい夜食をとることができました。開いている入浴施設もつかんでいたので1~2回 入浴できました。

 車とテント、男女に分かれて宿泊するようにしました。登山家の吉田智美さんが持参してくれた広いテントと温かい寝袋には助けられました。

◎阪神大震災と東日本大震災については以下から
http://www.yuisuita.com/hobby/
(終)

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