あなた(@_@)の知らないあはきの世界 2022年6月6日

あはき人生相談~香食のけむり~ 第5回

脈診は覚えなくてはいけませんか?

ともともクリニック人生相談部


脈診は覚えなくてはならないものでしょうか? 臨床実習でもいまいちピンときません。(鍼灸学生)

習得する必要があるかという意味の質問だと思いますが、ぜひ覚えましょう。そんなの当り前じゃないかという答え方もありますが、たぶん、いろいろな不合理や不条理を感じてのことであり、臨床実習で実際の患者さんに接してはいくつか疑問が湧き出たからの質問であると深読みしています。実はこれは、長く学校で教鞭をとっていると、学生からぶつけられる質問のひとつです。ボーと過ごしている学生からは決して上がってこない、真面目に考えているからこそ疑問に思うのでしょう。こういう質問が「臨床的な問い(clinical questionクリニカルクエスチョン)」であると思います。学生のうちは特に、素直で謙虚な疑問をたくさん持つことが大切です。

 さて、まずは近々の分かりやすいエピソードから話したいと思います。うちの院長が普段見ている患者さんですが、いつも細脈や濇脈(または渋脈ともいう:しぶる脈)であるのに、ある日突然弦脈に変わっていました。これはきっと何かあったに違いないと尋ねてみると、40代の息子さんが帰国したイランの女性を追いかけて外国へ出ていったとのことでした! 患者さんはそんな話を医療側に吐露するつもりはなくて、今日の不調だけを訴えていたのですが、普段との脈状の違いから、患者さんの愁訴の原因を最短で掴めることができた好例です。

 近年医療は、生物医学的アプローチばかりではなく、心理・社会的なアプローチも必要と提言されていますが、すでに中国の古典医書ではその必要性が、何百年から千年単位の昔から、指摘されて来ています。その実践は、診察の一つである脈診を通しても可能であることを、上記のエピソードは見事に物語っていると思いませんか?

 ついで、今日の患者さんの例もあげておきましょう。抗てんかん薬抵抗性のある30代の男性ですが、脈が弦、数、促脈になり、さらに眼精に輝きが薄れてくると(神がなくなってくると)発作が近づいてきた徴候になります。家族に知らせておくと突然の転倒に対してのいくつかの方策を立てられることが可能で、これは患者さんの保護に繋がります。脈診は病の進展も予測できます。治未病ができる所以です。

 でも、何てったって脈診修得で研修に来た医療者たちに評判の良いのが浮脈の修得です。風邪(ふうじゃ)襲来の脈ですね。日常病では圧倒的に多いのが感冒症例です。浮脈の患者さんに「カゼを引いてますね?」と言っても患者さんが否定するとしめたものです。次回来たときに、「先生は名医です。あの後カゼを引いていました!」と驚いてくれます。(もちろん、この道は蛇道、いや邪道です。上気道感染症に関してのまっとうな診断方法はまた別物です。)

 また、何年で脈診をマスターできるかもよく聞かれる質問です。センスの良い人で半年、普通は2年間かかると答えています。何年も内科で西洋医学の脈をとっておられる医師達は総じて修得は早いようです。ところがです。先ほどあげた浮脈ですが、これは数カ月で判る方々がほとんどです。つまり、数カ月で患者さんに、自分は名医と騙せる訳です! でも、残念なことにコロナウイルス感染症が流行ってしまったこのご時世では、普通感冒診察の臨床手順が様変わりしてしまいましたので、この「脈診あそび」はちょっと変わって来ています。

 ともあれ、2年や5年、はたまた10年など、あっという間に過ぎ去ります。10年経っても脈診は判らないとは、東洋医学の治療者としてはちょっと寂しいかと思います。現代西洋医学と比較すると覚えることが少ないのですから、東洋医学の治療者になろうとしている皆さんにとって脈診は、とても効果的な能力だと思うのです。同じ10年間を過ごすなら、明日からさっそく脈診の修得に入りましょう。もちろん、判っている人に教わるのが一番の近道です。第1回での相談のように「すぐ開業しろ」という学校の先生たちが如何に無謀な事を言っているのかが分かるというものです! 

 上記に述べたのは、手首の寸口で取るいわゆる「脈状診」であり、同じく寸口で取り経絡の虚実だけを診る「六部常位脈診」ではありません。修得の順番もありそうで、最初に「脈状診」から入門してから、その後に虚実の比較脈診である「六部常位脈診」に入る方が修得しやすいようです。何てったって、どこの経絡をターゲットにしたら良いのかはもちろん脈診だけで決まるわけではないのですが、「六部常位脈診」の脈診法はかなり有力な診察手がかりとなります。

 また、西洋医学の脈診とかぶるところも当然ありますので(長くなるので、本日は述べませんが)、脈を修得する練習は「医療人」としてのスタートにもなるはずです。さあ、さっそく始めてください。まずは机上でも構いません。2年先に向かって今日の一歩踏み出してください。

 最後に、もう10年以上前のことになりますが、医療過疎地で鍼灸ボランティア治療をしながら行っていた合宿勉強会に研修に来てくれた薬学生の感想文の一部を披露しておきましょう。彼の脈診修得の熱意がすごいですよ。

 「脈を診るということは少なくとも私にとって、本を読んだ知識で出来るようになるものではありませんでした。特に緊や弦の違い、滑脈の見方などは独学で見通すのは本当に難しいと感じています。 ~略~ しかし、合宿研修後、帰宅してからの経験は寒と熱での脈状と変化を取るのに非常に有効な練習になるのではと思いました。サウナが好きな私は、最初は気持ちーなぁなんて思いながら、段々と体は熱くなり脈は浮、数、大へ。次に水風呂に入り、いつもは冷たさを我慢することで脈なんか診ないですが、ちょっと気になってみてみると緊脈になっているではないですか! そのまま診続けると、緊だと思っていた脈がさらに細く硬く、そして沈み、脈拍もゆっくりになり呼吸数が減り、顏が白くなり…指先がしびれてきたところで水風呂を出ましたが、その後2回ほど寒熱の脈の変動を観察しました。もうしばらく続ければ陰虚の脈も診られたかもしれません。」

 う~ん、良い子は真似をしないように! 高齢者も、持病のお持ちの方も!!

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