あなた(@_@)の知らないあはきの世界 2022年8月3日

【投稿】

covid-19の時代には脈診が必須

~隠れ熱中症の落とし穴にはまらないために~ 

滋賀漢方鍼医会 二木清文



 今年(2022年)の梅雨は少雨の上に記録的な短期間で終わってしまい、代わって6月下旬だというのに35度以上の酷暑が続くというあり得ない季節展開がありました。このため前回の「covid-19の後遺症への鍼灸の対処」で書かせてもらった熱がこもっている状態へ臨床現場では対処せねばならないのですけど、例年より1カ月も早い酷暑の到来が隠れ熱中症を頻発していることに気づいたので、追加で書かせてもらうことにしました。

 まずおさらいも含めて、どうして隠れ熱中症に気を配らねばならないかを順を追って書いていきます。covid-19のパンデミックからまず私が一番に感じて臨床にも遭遇したのが真熱でした。ウイルスの恐怖や経済的負担や外出制限という極度のストレスから陽気不足になってしまい、全体は陽虚証なのに自分で内部へこもらせてしまった熱を排除できないという状態が代表例であり、ブロークンハート症候群も非常に多く遭遇しました。患者は熱っぽいと訴えるのに表面は冷えていて脈も沈み気味、それでいて指を沈めていくと力の弱い分厚さの脈が触れるというものでした。

 続いてcovid-19もオミクロンになって、極度のストレスはなくなってきたものの外せないマスクにより段々と蓄積してきた内熱が、突き上げるような痛みを伴う肩こりを引き起こすようになりました。陽気は不足していないのですけどこもってしまった内熱により結果的に陰気不足となってしまい、陰虚証の幅が大きくなってしまったのです。脈は浮いているのですがそれほど力がないのが基本ですけど、力がないのに変に突き上げるような脈状が増えてきたのです。

 そこで東洋はり医学会初代会長の福島弘道先生が提唱されたナソ治療の延長で、首はすべての陽経が通過しているので側頸部へ刺さらない鍼をタッピングしていくことで邪を払うことができ、治療の第一段階が終わったあたりに挟み込んでもらうと効果的に働かせられるだろうというのが前回まででした。

 けれど陽虚証も陰虚証も虚であるのに対し、熱中症は実です。臨床現場では何気なく問診していると似たように感じても、病理が真反対ですから取り間違えると回復しないどころか最悪はもっと悪化をさせてしまいます。熱中症は陽気が暴走してしまったもので、病理状態の違いから陽気が表面に吹き出して発熱のように感じるのか、すでに表面の陽気が吹き飛んでしまい強烈な倦怠感ばかりを感じているのか、内部の陰気を押し倒してこもってしまっているのかなどはその時点によります。四大病型で言えば陽盛になるはずなのですが、最初は外からの熱を跳ね返そうとしていたのに入り込まれてしまい次第に身体内部で暴れまわるので扱いが非常に厄介です。しかも、後で説明する今回のテーマである隠れ熱中症があるので、covid-19時代に脈診のない診察は私には考えられません。

 最近の熱中症に対する私の臨床は、暑さが時邪の影響を増大させてしまいその結果として陽気が暴走していると考え、四季の間に土用が挟まれる五季を基準に季節の該当する経絡の経穴から瀉法を行うことで数分で症状が回復できるようになりました。今は土用ですから経絡は脾経で経穴は太白、立秋後は肺経の経渠でと、その後も五行を追いかければ組み合わせがわかります。もちろん側頸部へのタッピング処置は、本治法で作った脈状をオートフォーカスのようにして修正してくれるので追加しています。この方法を大阪漢方鍼医会から教えてもらうまでは標治法を先に行うなどで陽気の制御を優先したり、あるいは陽経から本治法へ入るということで対処してきたのですけど、本治法を二度くらいやらないと抑えきれなかった記憶です。また集毛鍼を頭部や後頸部に行い、気を間引くことも有効でした。なお、漢方鍼医会は「学術の固定化はしない」ことを研修会の中核の一つにしていますので、季節に対するアプローチも何種類か研究されており今回は大阪漢方鍼医会から教えてもらっていたやり方をうまく臨床へ組み込めたというところです。

 実なのですから、刺絡(瀉血)を臨床に用いている治療家なら、適宜行えばドーゼ過多さえなければ陽気そのものを抜いてしまえるので熱中症の治療は得意分野と言えるでしょう。陽気を制御するのに、刺絡治療は非常に優秀だと思います。この原稿を書いていて思い出したのですが、視力が残っていた頃に陽気を制御しようということで井穴刺絡のみで真熱への対処をしていたのですけど、一発で解決できていました。

 順番が逆になってしまいましたが、ここから熱中症の診断についてです。患者が訴えるものとしては頭痛・突き上げるような肩こり・倦怠感・熱っぽい・異常な手足の冷え・盗汗に自汗が突然吹き出してくる・食欲がない・消化不良が続く・便秘と下痢を繰り返す・節々が痛むなど、これらが任意に組み合わせで出てくるのですから病理考察が成り立ちません。「こんなの病理が崩壊しているぞ」の代表例が熱中症です。

 以前はとりあえず治療へ入ってから「これは熱中症だったんだ」と気づいていました。経絡治療のいいところは、とりあえず分かる範囲から治療に取り掛かれることであり、その経過から最終診断へつなげていけるところです。しかし、当然ながら最初に診断が確定できれば効率がいいです。それがこんな衝撃的な臨床より、脈診のポイントが見つけられました。

 2020年のcovid-19の実態がわかり始めた頃でもまだまだストレスが強かった暑い夏に、強烈な倦怠感と頭痛を訴えて前回に登場している医師の母親が電話をしてすぐ来院されました。問診しながら脈診していると、遅数が大幅に変化するのです。興奮状態だと遅数が変化することはあるものの、「どうしても早く治療が受けたくてベッドに寝たなら安心して逆に心臓がドキドキしてきた」といいます。手足も段々と冷たくなっていて、意識ははっきりしているものの声が小さくなってきてしまいます。これは救急車を呼ぶべきかと、こちらのほうが冷や汗が流れ出してきました。過去の経験からこのまま治療を続けて大丈夫かを判断するには腹診で腎間の動気を確認することで切り抜けてきており、しっかり感じられたので少し安心して、深呼吸をして仕切り直しです。もう一度慎重に探ると脈状は開くことも細く締まりすぎることもなく、単純に胃の気が吹き飛んでいるだけのように触れます。そして不沈の中間で渋った状態がだんだんと触れてきたので、病状の変化があまりに早いのでまずは時邪だけ処理してやろうと腹をくくり、立秋を過ぎていたので肺経の経渠へ瀉法だけを行いました。すると数分で症状のほとんどが回復してしまい、手足が暖かくなり熱中症だったということが診断できました。この経験で、熱中症へ最も効率的な治療法を見つけ出すことができました。次第に不沈の間で渋りが強いと熱中症を疑うようになり、今は脈診だけで熱中症が見抜けています。

 漢方鍼医会では難経五難にある菽法の脈診を採用しているのですが、ブロークンハート症候群はすべての部位の六菽で渋りがあれば診断できると私は見つけられました。浮中沈で脈診されているなら、浮と中の間ですべて渋っているということになります。同じく熱中症で発見した特徴的な脈状は、九菽と十二菽のすべての部位に渋りがありました。中から沈へ少し入ったくらいで、全て渋っていることになります。熱中症のほうが幅が広いのですがそれだけ病状が重たいという証拠です。

 ここから隠れ熱中症へ話が進みます。前述のように2022年は6月後半から酷暑となり、熱中症での搬送数がすごい数になっているニュースは知っていました。そこへ頭痛はあまり発生しない体質なのに3日間痛みが服薬しても一向に軽くならないからと、40代の女性が来院されます。この方は腰痛で年に一度か二度来院されるのですけど頭痛は聞いたことがなく、手足が冷たく、それなのに数脈であり消化不良で食欲も落ちています。脈状も九菽に強い渋りがあるので熱中症の条件が整っていることはすぐ気づいたのですけど、手足の冷えや消化不良はこちらから指摘したものであり倦怠感についても本人には大した自覚がありませんでした。何度考察しても熱中症に該当するので、季節は夏ですから心経の少府を探ると瀉法が使えそうであり隠れ熱中症と結論づけるのに数分間かかりました。診察・診断が治療を左右すると先輩諸氏から何度も何度も聞いてきたのですけど、今さらながら診察・診断の重要性を再確認した症例でした。

 記憶を丁寧にたどってもらうと数日前に暑い部屋でマスクをしたまま作業をしていたことがあり、倦怠感は明くる日まで自覚していたものの頭痛に気を取られてしまったということです。最初に自己申告してくれていれば診断を迷わなかったのですけど、隠れ熱中症を見抜くヒントになったので結果オーライとしましょうか。冷房がないと暑くてたまらないのに冷房へ入るととたんに手足が冷たくなることは、知ってはいたけど酷暑で体力が低下しているものと思い込んでいたそうです。消化不良や下痢と便秘を繰り返すのも、同様に考えていたとか。素人なので仕方ないのですけど、患者の言葉をすべて鵜呑みにしてはいけないという典型例です。そしてぎっくり腰がそろそろ危ないということで予約を入れておいたのですが、腰は今は大丈夫という虚偽の申告も、今だから笑い話になりますけど、治療の途中で体位変換をしてもらっていたならぎっくり腰が本当に発生してしまい、円皮鍼を用いて痛み止め処置ですぐ回復してもらっています。ぎっくり腰も含めて1週間後に来院してもらうと、頭痛は直後から解消して腰痛も違和感程度であり、わずかに倦怠感が残る程度でした。脈状も九菽には軽い渋りがあったものの十二菽にはなかったので、このときには難経七十五難型の肺虚肝実証で治療をしています。

 この経験から、水分補給はしているし冷房も適宜使っているので様々な症状があるのに典型的でないことから「まさか自分が熱中症だなんて」と、その後の症例全てで隠れ熱中症はまず頭で否定されていて、表面に出てこなくなっているようです。それも若い年代ほど「暑いときだから仕方ない」と、体力低下でひとくくりにしてしまいます。隠れ熱中症を症状から判断するのに最も有効なのは、冷房がないと暑くてたまらないのに冷房へ入ると手足が冷たくなってしまうことで、ベッド上での触診はとても大切です。それから服薬してもあまり効果がない頭痛が長時間併発していることでしょうか。

 けれど隠れ熱中症が危ないと言っても、手当たり次第に問診しているだけでは治療家の技量を疑われてしまいます。さらに相手は頭でまず否定をしているので、簡単に口を割らない可能性も高いです。私の臨床では熱中症の脈状だと診断したならこちらから聞き出すようにして、今のところ見逃してしまいこじれたということがありません。若い年代ほど頭で否定をしてくれているので、付随症状を説明していかないと納得してくれない傾向が強いです。ですから、covid-19の時代には脈診が必須だと強調します。

 「母親と状態がそっくりだったから予想はしていた」と何度も登場してもらっている女医さん、脈診だけで隠れ熱中症だと言い渡したときには嬉しそうな表情をしていたのは気のせい? 段々と私の脈診力を楽しまれている感じでもあります。

 この文章とは少し別角度で、covid-19とマスクを中心に考察した文章も院長ブログにアップしています。「にき鍼灸院」で検索していただければ、前回の参考資料へのリンクと合わせて閲覧していただくことができます。

 あの酷暑がこの夏はもう戻ってこなかったとしても、covid-19以後からこもらせてしまった熱から熱中症がすぐ引き起こされてくるのは明白であり、鍼灸院には隠れ熱中症が確実に来院されます。回復した患者さんから「鍼灸で熱中症が治療してもらえるとは思ってもいなかった」と何度も言われたのですけど、西洋医学が入ってくるまでは鍼灸や漢方薬で当たり前に熱中症へ対応していたのであり、隠れ熱中症こそ近年になって出てきたものかもしれませんけど、脈診を丁寧に行っていれば即断は無理でも必ず気づけるものです。もう一つ治療のポイントを付け加えるなら、絶対に深追いしないことです。熱中症でも隠れ熱中症でも陽気が暴れているのが本体ですから、暴れん坊ほど少しの制御で行儀良さを取り戻してもくれます。暴れている陽気を各研修会のやり方で少し制御してやれば、驚くほどの回復につながりますのでまずは診察・診断から参考にしていただければ幸いです。

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