からだに触れる からだで触れる
~「生命共感」への手がかり・足がかりとして~
著者: 朽名宗観
定価:2,200円(本体2,000円+税)
判型:四六判
頁数:160頁
発行:2019年11月
ISBN978-4-903699-70-7
本の紹介
「人が人のからだに触れる」とはどんなことか?
劇症の腰痛患者が整形外科で診察を受けたら、医師はレントゲン写真等で病態を説明するばかりで、一度もからだに触れることがなかったとか、がん患者が医師との面談の際、医師がパソコンのデータを見つめるばかりで、ほとんど自分の顔を見ることがなかったとか……。最近の病院では医師が触診することも少なく、外科的な処置など以外の治療は薬に委ねるだけ。患者のからだに全く触れないことも珍しくない。
その点、鍼灸師は診断の段階でも腹診や脈診を用い、治療の段階でも鍼を介してはいるものの患者のからだに触れることを主な手がかりとしながら施術するので、臨床家と患者との「からだ対からだ」の交感は医師と比較してより濃密になる可能性がある。そのため、そこでの技や感覚を磨くのが鍼灸師の課題となるわけで、鍼灸師は「からだに触れる」ことに、より鋭敏であることが求められるだろう。
本書では、その「人が人のからだに触れる」ことについて、必ずしも臨床の場に限ることなく、いろいろな方向から考察されている。第1部「からだに触れる からだで触れる―「生命共感」への手がかり・足がかりとして―」では多くの文献を引用しながらその論理的考察が展開され、第2部「スタンド・バイ・ミー―統合失調症・認知症患者の在宅療養での試み―」ではその実践、苦悩する様子が赤裸々に報告されている。
「推薦の辞」には、師匠の横田観風氏が著者に各部について目指したところを問うたくだりがあり、著者はこう答えている。第1部については、「人が人の身体に触れるとはどういうことなのかについて鍼灸治療の枠を越えたところで考えようとしたものです。肌で感じていることは<いやし>にも<虐待>にもつながること、からだのみならずこころをも覆っているようなものが<肌>であるといったことなどについて書いています」。 第二部については、「在宅療養での認知症や統合失調症患者との交感が一般患者とは違って難しくなるケースがあり、そういう時にどうするかということについて書きました。医師であれば薬を投与するという治療の方法がありますが、われわれは患者に触れることができなくなれば、施術ができなくなってしまいます。関わり方の工夫という点で多くのことを学んだということから、鍼灸治療をまったく行っていない認知症患者の例も挙げてあります。キングの「スタンド・バイ・ミー」の歌詞が『観音経』につながるという発想は、禅の『世語集』を読んで思いつきました」と。
本書に「触れる」。そのことで得られる世界は? 鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師などの治療家だけではなく、特に在宅療養に携わる医療・介護関係者にもぜひ手に取って、触れてほしい1冊である。
●関連記事(週刊あはきワールド 2019年10月23・30日合併号 No.639)
新刊紹介
『からだに触れる からだで触れる』(朽名宗観著)へのいざない
~「推薦の辞」より~/横田観風
目次
【第1部】 からだに触れる からだで触れる
~「生命共感」への手がかり・足がかりとして~
<第1章>「手当て」のいとぐち
「肌」でわかる/からだはいつも何かに支えられている
<第2章>子育てと認知症ケアとの共通点
子どもの楽園/養育者と乳児との触れ合い/認知症患者の安心感につなげる
<第3章>「触れる/触れられる」ことの基盤となる体性感覚
「触れる/触れられる」が生む無数のニュアンス/体性感覚を豊かにするメソッド/触れているものが自分のからだの延長となる/アイデンティティの基盤としての体性感覚
<第4章>人が人のからだに触れるとき
「抱擁」は「涙」と似ている/暴力としての「触れる」/からだに触れる、それは人生に触れること/触れずに触れる/手技療法の名人がとらえている「触れる」
<第5章>「アタマ」と「ハラ」をキーワードに
技を身につける/治療家と患者とが出会う次元/ガソリンをかぶった息子に抱きついた父/教誨師が死刑囚に引導を渡す/少年院の教官が問題児のこころを開く
<第6章>臨床の場によって求められるセンスの違い
そっと触れるか、ぎゅっと触れるか/小児の精神療法家、D・ウィニコットの手の感触/精神病患者の「暴力」を「制圧」するのではなく「ケア」する
<第7章>ある統合失調症患者とつながるために重ねた工夫
まずは「心地よさ」を手がかりとして/患者と自分をつなぐものに何があり得るか/「説明と同意」にフィクションが入ることもある/ノートの解読をきっかけにして
【第2部】スタンド・バイ・ミー
~統合失調症・認知症患者の在宅療養での試み~
<第1章>「ちきゅう」とのつながり
3歳のお孫さんを介してのターミナルケア/「いること」こそがすばらしい
<第2章>ある統合失調症患者の臨床からの報告
安全保障感・無条件でいて良い場所・母性性/順調な経過に潜んでいた見落とし/過信が信頼関係を傷つける/つながりを回復するために重ねた工夫/教会のミサに行き、公園で散歩して、喫茶店で文章を書く
<第3章>ある認知症患者の臨床からの報告
認知症ケアの鍵となる「安心」/認知症と鬱傾向のある女性高齢者の大腿骨骨折回復後の機能訓練/急ぎ過ぎた機能訓練による激しい反発/手も足も出せず、ただ正座して寄り添うことから/ついに立って、歩いた
<第4章>「見る」「話す」「立つ」「歩く」
施術者が自分のからだのあり方を見直すことからケアを考える/つながるための「身ごなし」を工夫する/「立つ」「歩く」-老夫婦が同居生活を維持するための条件
<第5章>「向かい合う」から「同じ方を向く」へ