週刊あはきワールド 2016年11月2日号 No.496

◎◎はこう治す! 私の鍼灸治療法とその症例 File.31-1

本態性肩こりはこう治す!(1)

~中医+イルチム+奇経治療+経筋治療を駆使する私の治療法~

森ノ宮医療大学保健医療学部鍼灸学科・日本臨床鍼灸懇話会理事 坂本豊次 


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<私の治療法の遍歴とその概略>

 鍼灸臨床に携わってから40年以上になる。私の現在の治療は随証治療だと自分では思っている。診察では舌診や腹診、脈診あるいは切経から証を立て治療をする。治療方法は中医方式、一鍼(イルチム・韓国式経絡治療)方式#1、宮脇式奇経治療#2、川嶋式経筋治療#3と多彩である。口の悪い友人は「何でもありやな」と揶揄する。確かにそうかもしれない。だが、臨床を懸命に続けている臨床家ならば、目の前の患者さんをもっと楽に治してあげたい。1日も早く病魔から解放してあげたい、と思い悩むことは1度や2度ではないと思う。私の場合は、その都度、自分の臨床能力を上げたい一心で、魅力的と感じた治療法を見つけると、積極的に研究会に飛び込んでいった。その結果が中医方式を基盤にして宮脇式奇経治療や川嶋式経筋治療、イルチムなど複数の方法での臨床となった。

 初期の治療は師匠田中昭三先生が代田文誌先生を崇拝されていたため澤田流の太極治療であった。20年ほど自宅兼治療室で澤田流を中心に鍼灸臨床に励んでいた。1992年に治療室と自宅を切り離した。そのころから直接灸を嫌がる患者さんや軽刺激を好む人が多くなった。

 悩んだ末、師匠も治療の中に取り入れられていた奇経治療による少数穴治療に本気で取り組むことにした。奇経治療に関する専門書は多いが、難解に思えるものが多い。だが、間中喜雄先生の『医家のための鍼術入門講座』(医道の日本社)の異種金属法や、奇経流注と圧痛分布を中心にした奇経治療は導入しやすいと思われた。しかし、実際に応用してみると、圧痛に対する患者さんの感受性の個体差にばらつきが多すぎ、どの奇経を治療すべきか迷うことが多く、奇経診断が簡単ではなかった。

 そのころ宮脇和登(現在名:優輝)先生が異種金属をテスターとして診断に利用し、腹診による証決定を中心とした「わかりやすい奇経治療」を『医道の日本』誌に発表された。田中昭三先生も腹診を重視されていたため導入しやすいと思った。すぐに真似てみた。手ごたえがあった。

 そこで、宮脇先生を訪ね、自身の肩こりに東洋はり医学会方式の経絡治療と奇経治療を受けてみた。以来、10数年「東洋はり医学会」に所属し脈診による鍼術を学んだが、残念ながら脈診の才がないことがわかり脱会した。だが宮脇式奇経治療は今でも私の治療法の大きな柱の1つになっている。

 過去に、私が学んだ治療法の多くは、それぞれ発案者、元祖がおられる。それらの方法を知り、学び、臨床で実践してみる。すると、ある段階で手応えを感じるようになる。さらに追試する。しかし、どの方法もどこかで必ず頭を打つ事例に遭遇する。少しの努力では解決しない辛い臨床の日々が続く。そして、当たり前ではあるが、あるレベルから元祖のようにはなかなか上手くいかないことに気づく。気づいた時はしばらくその方法から意識的に離れ、他の方法で臨床に励む。休息の期間が過ぎると、なぜか休んでいた治療法を使わないと無理な症例に出合う。そして再びその療法を開始することになる。この繰り返しである。だから、私の場合、どの方法も名人の域にはほど遠い。それでもあきらめずに、いつかは元祖レベルに手が届くことを夢見て、こつこつと多種類の方法を試し続けてきた。

 現在行っている治療法はどれも「石の上に3年」は当たり前で、10年、20年と続けているものばかりである。その結果、今のスタイルに落ち着いた。つまり、自分ができる治療法の中で、治療法の優劣を決めて選択するわけではなく、そのときの患者さんの病状、病態から最も適している方法を選択し治療する、それが現在の私の臨床なのである。

#1 一鍼:韓医師金廣浩(キムグアンホ)が提唱した韓国式経絡治療。問診を重視し、『東医宝鑑』をもとに弁証し『舎岩鍼法』と五兪穴応用の五行鍼を合わせた配穴に韓国鍼(中国鍼と日本鍼の中間ぐらいの鍼)で巨刺法を行う治療。
#2 宮脇式奇経治療:宮脇和登(現在名:優輝)氏が提唱した奇経の診察、診断、治療法。主に腹診で治療すべき奇経を推定し、代表穴にスターを当て確認、決定した少数穴に対して切皮置鍼や九分灸など弱刺激で治療する体に優しい方法である。
#3 川嶋式経筋治療:元日本臨床懇話会理事、東日本医療専門学校鍼灸スポーツ科学科学科長、故川嶋和義氏提唱の経筋治療法。バランステストによる診察法と治療法で経筋・経別システムを応用して身体の歪みを正す、少数穴使用による、奇経治療と同様、体に優しい鍼灸治療法である。

 以上、私の治療法の遍歴とその概略を記してみたが、このコーナーはビギナーを主な対象ということなので、できるだけ真似ることが容易な「本態性肩こり――特に気虚、気滞中心の肩こり」を例に解説してみたい。先にお断りしておくが、気虚・気滞の肩こりに関しては篠原昭二著『ビギナーズ鍼灸 HARIなび』(ヒューマンワールド)や北辰会の出版本や日本臨床鍼灸懇話会の『臨床鍼灸』あるいは中医学関連書の記載を参考にし、自身の経験を加えて紹介する。なかでも篠原昭二著の本はビギナー鍼灸師には非常に参考になることが多い。一読をお勧めしたい。

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