週刊あはきワールド 2016年11月9日号 No.497

『腹診による「毒」と「邪気」の診察と鍼灸治療』へのいざない 第2回

自 序

~『腹診による「毒」と「邪気」の診察と鍼灸治療』より~

いやしの道協会顧問 大浦慈観 


 
腹診による「毒」と「邪気」の診察と鍼灸治療(大浦慈観著)  本書を書こうと思い立ったきっかけは、2016年5月に、株式会社ヒューマンワールドの石井利久氏より、「何か江戸期の鍼灸に関する論考を、『あはきワールド』に連載してほしい」との依頼があったことに始まります。

 日本鍼灸の歴史に関し何かを書こうとしても、歴史を書くにはさまざまな文献調査や、それを読み解いて比較検討し、裏付け調査をするなど、膨大な時間をかけてコツコツと事実を積み重ねていくしかありません。手元にある資料だけで、うかつな文章を書けば、その害を後世に残すことになります。それを今、簡単に連載などできるわけがないと、一旦はお断りしました。

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 しかし、しばらく考えていく中で、これまで鍼灸専門学校の非常勤講師として多くの学生に「腹診」の仕方や診断のポイントを教えてきていますが、現代の初心者にとって腹診の参考書といえるものは存在せず、今後も出てきそうにないことに思い当たりました。

 授業に当たっては、自らが十数年前に初学者向けに作成した「腹診の観察から見た、毒と邪気の診察の目安」という腹診の手引書を用いてきましたが、この際にこれまでの臨床実践経験を踏まえて、思い切って書き直すことにしようと思い立ちました。そうした提案を石井氏にもちかけたところ、快諾していただき、それならばハンドブック的な体裁で、見やすく各所に図画もまじえて小冊子にしてみましょうという返答を得ました。こうしてこの作業は6月から開始しました。

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 当初、これまでの旧資料を新しい知見を含めて書き直す程度に考えていましたが、執筆しながら熟考していくと、私たちが「いやしの道協会」(創始者・横田観風師)という鍼灸の研究会の中で、当たり前のように話し合ってきた言葉も、東洋医学の初学者に伝えようとすると、なかなか簡単には理解されないことがわかってき、言葉で表現することの困難さに苦闘する日々でした。例えば、日本の鍼灸界全体を見渡すとき、「虚実」や「補瀉」の観念一つをとっても、所属する団体や流派によって意味するものには相異があります。腹診の仕方や、診察する目安も、結論とする証立てに左右されて、かなりの違いがあります。

 日本の漢方界では、大塚敬節・矢数道明といった両巨匠が、立場の相違を越えて衰退していた漢方界の再興を図っていった中で、腹診の方法も標準化されていきました。それに比べて日本の鍼灸界では、鍼灸という技術が個人的な技能に大きく左右されることもあってか、流派によっても、術者個人によっても、ずいぶんと異なる腹診が見られます。それらの違いも含めて私の頭の中で整理した上で、実地に手で触り目で見て心に応じ得られる腹診の情報から、すなおに病態把握を進められるように工夫し直しました。

 また「毒」と「邪気」については、師匠である横田観風先生より長年懇切丁寧な薫陶を受けてきていますが、「毒」については、吉益南涯(よしますなんがい)の「気血水論」をはじめ湯液の世界では専門用語として当たり前に唱えられてきたものを、より実地臨床に基づいて現代医学の言葉に近い形でどう表現するか工夫しました。

 「邪気」についてもまた、古典の用語としては誰でも知っていますが、鍼灸治療の中で「気」の変化を具体的に表現してくれている解説書や、実感として治療の中で捉えている「邪気」を具体的に瀉す方法を述べてくれている文献は皆無に等しい現状です。そこで、私だけの自己満足的な表現に陥らないよう注意しながらも、自信をもって述べることにしました。

 かつて六然社より『杉山真伝流臨床指南』を出させていただいた時、理解されないかもしれない不安を抱きつつ、「気」や「邪気」の概念を、手技を理解する上で最も必要な要素として図示しながら述べてみました。その後の経緯をみていると、大きな反発や非難もなく、しだいに鍼灸の手技内容やその効果を表現する概念として定着しつつあるように思われます。そこで意を強くして今回は、ベテランの鍼灸師からは、粗雑な方法で臨床しているなと思われることを覚悟の上で、初心者向けに「邪気」とはどのような性質をもったもので、これとどう戦うのかといった具体的戦略・戦術を述べてみました。これは『はりきゅう実技』の教科書や中国の古典に書いてある方法だから、といった形式的表現や引用抜粋の羅列ではなく、実地臨床の中で身に着けてきた私の用いる方法論です。

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 7月はこうした格闘であっという間に過ぎ、最後に体内に隠れている「毒」や、目に見えない「邪気」や「気至る」世界を、初心者にもイメージしてもらえるように、たくさんの画像を慣れないパソコンソフトを使って描いてみました。若かった昔、手塚治虫や石ノ森章太郎にあこがれて、漫画同人誌を作っていた頃の遊び心と手わざが、少しは有効だったようです。

 最後に、本稿を御覧いただいた上で、あたたかい励ましと的確な指摘をいただいた師匠・横田観風先生に、厚く御礼申し上げます。また、こうした機会を作っていただき編集の労を努めていただいた、ヒューマンワールド編集人の石井利久氏にも、厚く感謝申し上げます。

 この小冊子が、鍼灸および東洋医学を学んでいこうとする多くの学生や初心者にとって、有効な道しるべとなれば、この上ない幸いです。

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