週刊あはきワールド 2016年12月7日号 No.500

鍼灸学生の研修奮闘物語 File.7

Student.SeのBSL(Bed Side Learning )Diary(7)

~「日本中医学会熊本支援プロジェクト」東洋医学編その4~

鍼灸学生3年 平岡遼 


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 長くなりました熊本支援プロジェクト 東洋医学編ですが、前回までの3回ではNさんの状態を西洋医学・東洋医学の両面から見ていきました。前回は東洋医学的に最後の診断までたどり着けませんでしたが、今回ついにその診立てに決着がつきます。一つの実症例から、一緒に体験した先生方・先輩方はどのように患者さんを診ているのか、次の一歩はどのように考えていくのかを丁寧に指導してもらいました。また、同時に迷える学生の私に、どのようにして臨床医療を学んでいったらよいのかも教えていただきました。緊急度の高い患者の危急を救うにはどんな知識が必要なのか、古典を臨床に活かす考え方は、数ある弁証法をどう考えどう運用するのか等々は、今後の私の長い治療家人生に必要な知識でした。

座談会メンバー

ともともクリニック院長 木村朗子
TOMOTOMO(友と共に学ぶ東西両医学研修の会)代表 石川家明

症例提示)74歳 男性 Nさん
3~4カ月前にカゼをひき、その後咳嗽が続いている。喀痰あり、白色。
毎年、夏場は食欲が落ち、夏に体重はわずかに増減する。今年はいつもより体重が減っているかもしれないと感じているが、測定していないので詳細はわからない。
震災前までは大工をしていたが、今はボランティアをしながら、自らは全壊した自宅の解体作業を行っている。数日前に壊れた家の片づけに行ったときに雨に降られてから咳がひどくなっている。夜中に咳で目覚めることがある。時折笑みは見せるが、声は弱く小さい。

脈診:右弦滑、左渋
舌診:舌大、黄膩苔、舌下静脈怒張
BT37.6℃、BP118/64mmHg、HR78/分、SpO2 95%、RR40/分

■東洋医学的に診ていくということ、まずは八綱・臓腑!

石川さて、前回までに話してきたNさんに対する東洋医学的な見立てをまとめてくれますか。

平岡今までの話の流れの順番にまとめてみます。はじめに、Nさんの声が小さく元気がないこと、震災で受けた地域的な悲しみ、大工であるが故に全壊した自宅をみずから片づけなければいけない個人的な悲しみから肺気虚があることがわかりました。

石川患者さんの環世界までも考えることが東洋医学の問診でしたね。それで?

平岡次に証立ての基本である八綱で考えました。表裏は、病歴が3~4カ月と長いこと、脈が浮いていないこと、舌苔が膩苔であることから裏証としました。虚実は、声の小ささや正気のなさから虚証としました。寒熱は、黄苔であること、右寸脈が他と比べ有力で長脈になっていることから熱証と考え、裏虚熱証と結論づけました。

石川八綱は基本ですので、初学者のうちはいきなり臓腑へ行かずにしっかり考えましょう。東洋医学的に診るときには舌脈の情報がとても助けになることがわかりますね。

平岡そして前回は咳嗽という症候から考えました。咳嗽を起こすために創造主になって考えてみると、肺、脾、肝、腎の関係が深いことがわかりました。それぞれの臓腑の状態を見てみると、肺に気虚があるのは明らかです。食欲が例年よりも少ないことから脾気虚もありそうです。そして震災というストレスによって肝鬱になっていると思われます。肝鬱はNさんの場合、イライラではなく気鬱という形で現れていました。さらに年齢的にも高齢で、元気がなく、声が小さく呼吸が弱いことから腎虚もあることでしょう。

石川創造主になって考えることは病因病機を理解するいい練習になります。各臓を順に考えていくことは、病態生理を考えていることになります。

■次は「症候」で診る。教科書をどう解釈するか?

平岡次に症候から考えてみました。「咳嗽」を引き起こす証について教科書を参考にしながら考えました。しかし、いずれの証もNさんの症状にはうまく合致しませんでした。西洋医学的に「肺炎」という重症度の高い病態を疑っているときに、東洋医学的に「咳嗽」だけで検索するのは甘かったというところで前回は終わりました。

石川そうですね。東洋医学の古典では病状の軽重についての記載はないので、もちろん「咳嗽」だけで説明できることもありますが、病状が重くなったときには東洋医学的にもより重症度の高い症候で考える必要が出てきます。どんな名前のものがありましたか?

平岡「肺癰」「肺癆」「肺脹」「肺痿」がありました。

石川復習になりますが、それぞれ現代的にはどのような疾患を思い浮かべるでしょうか。

平岡肺膿瘍のような肺に膿がたまり生臭い痰を出すものが「肺癰」です。肺結核のような伝染性の慢性消耗性疾患が「肺癆」。COPDや肺気腫のように胸部が膨満するものが「肺脹」。間質性肺炎のように肺が機能低下を起こしたものが「肺痿」です。

石川Nさんは肺炎疑いですが、肺炎はどこに入るの?

平岡どこにもありませんでした!

石川え~! 人類誕生以来、肺炎はあったはずだよ?

平岡むむむ、たしかに…。

石川それではNさんの証を導き出すにはどう考えましょうか?

平岡うーーーん、先生、考えれば考えるほど迷路に入っていくような感覚があるのですが、どうやって一つの証を導いていけばよいのでしょうか。答えは一つではないと思いますが、何を持って「これだ」とするのかがわかりません。また、病態と証立ての違いも疑問です。例えばNさんは脾気虚がありそうですが、それは病態であって最終的な証立てが脾気虚証になるとは限りません。

石川悩んでいるな、青年!

木村それは大切な疑問ですね。よくぞこの短期間でここまで、と言えるかもしれません。最終的なメインになる弁証を決める決め手に欠けるということでしょうか。正しい弁証名を引き出すにあたり何が今の患者さんの病態の主体なのか、を考えることが重要でしょうか?

石川まず病態と証の違いですが、証は診断名です。診断名なのでその疾患に至る時間的経緯はその名前には含まれません。対して病態は時間の流れの中にあるものです。雨天の続く中で風寒邪を感受し、震災の悲しみの中で咳嗽を繰り返すうちに肺気が虚して正気が不足し、年齢的に腎虚もある中で元気はなくなり…というストーリーです。

平岡まさに病因病機ですね。ではその中で一つの証をどう決めればいいのですか?
 

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