週刊あはきワールド 2017年4月5日号 No.516

【座談会】若葉マーク(学生)が鍼灸臨床力をUPさせるには?

ある流派の鍼灸を学ぶ前にやってほしいこと

臓腑病、経脈病、経筋病を判断できる力を身につけよう!(上)

 〈出席者〉篠原昭二・和辻 直 〈司会〉あはきワールド編集人 


 先日、国家試験の合格発表があり、約3000人の新しい若葉マーク鍼灸師が誕生したが、そのうちペーパー鍼灸師またはそれに近い存在の人はどれくらいいるのだろうか? 免許はとったものの、鍼灸ができないままなら、この先路頭に迷ってしまいかねない。折しも、そんな若葉マークに光明ともいえる『すぐ使える若葉マークのための鍼灸臨床指針~臓腑病、経脈病、経筋病の診察法と治療法~』という本が出版され、ちょうどその著者(篠原昭二氏、和辻直氏)に会う機会があった。せっかくなので、座談会の場を設けて気になっていたことをいくつか聞いてみた。
 

篠原昭二氏                         和辻直氏













篠原昭二(しのはら・しょうじ)

1978年 明治鍼灸柔道整復専門学校卒業・専任教員
1980年 明治鍼灸短期大学・助手(東洋医学教室)
1987年 明治鍼灸大学・講師(東洋医学教室)
1990年 明治鍼灸大学・助教授(東洋医学教室)
2001年 博士号(鍼灸学)の学位取得
2003年 明治鍼灸大学・大学院 教授
2014年 明治国際医療大学を退職、九州看護福祉大学・鍼灸スポーツ学科 教授
 著書に『誰でもできる経筋治療』(医道の日本社)、『補完・代替療法「鍼灸」』(金芳堂)、『ビギナーズ鍼灸 HARIナビ〜初学者のための鍼灸臨床マニュアル〜』(ヒューマンワールド)、『臨床経穴ポケットガイド361穴』(医歯薬出版)などがある。

和辻 直(わつじ・ただし)

1987年 明治鍼灸大学鍼灸学学部卒業
1987年 明治鍼灸大学附属研修鍼灸師
1989年 明治鍼灸教員養成施設卒業
1991年 明治鍼灸大学・助手(東洋医学教室)
1994年 明治鍼灸大学・講師(鍼灸診断学教室)
2004年 博士(鍼灸学)取得(明治鍼灸大学)
2004~2015年 明治鍼灸大学・大学院 助教授(東洋医学基礎教室)
2015年~現在 明治国際医療大学・教授(基礎鍼灸学講座) 
           明治国際医療大学大学院・教授(基礎鍼灸学Ⅰ〔伝統鍼灸学〕)
 共著に『新しい鍼灸診療』(医歯薬出版)、『[図でわかる]中医針灸治療のプロセス』(東洋学術出版社)、『運動器疾患の治療(整形外科、現代鍼灸、伝統鍼灸)』(医歯薬出版)、『緩和ケア鍼灸マニュアル』(医歯薬出版)、『特殊鍼灸テキスト』(医歯薬出版)などがある。
 
 

『すぐ使える若葉マークのため
の鍼灸臨床指針』の表紙
―― 今日は年度の変わり目のお忙しい時期にわざわざ時間を割いていただき、ありがとうございます。つい最近、お二人共著の新刊本(『すぐ使える若葉マークのための鍼灸臨床指針~臓腑病、経脈病、経筋病の診察法と治療法~』)を上梓されましたね。おめでとうございます。

篠原ありがとうございます。鍼灸師養成施設が急激に増加することによって、1999年には年間1738人だったのが2017年には推定で6001人と大幅に増加し、場合によっては無試験状態での入学といっても過言ではありません(医道の日本、3月号、76ページ、2017)。また、義務教育のあり方の変化(ゆとり教育の採用)の弊害として、高校時代に学習習慣のない学生さんが入学されてくる比率が増えてきました。さらに、専門学校の国試合格率偏重から実技の習得がおろそかになっているのではないかと思える傾向があり、国家試験は合格したけれど、臨床はできない鍼灸師、資格はあるけれど鍼が効くことを理解できていない(見ることができなかった)卒業生が増加しているのではないでしょうか? そんな意味で、和辻先生とはこういった問題意識を共有して議論してきましたので、なんとか卒業してすぐに使えるようなテキストが必要ではないかと思っていた次第です。

和辻このような座談会にお招きいただき、ありがとうございます。特に東洋医学の内容はとても難しいと思っている学生が多いです。専門学校や大学で『東洋医学概論』や『東洋医学臨床論』で理論や知識を勉強しますが、それは国家試験のための学習だけで、ほとんど実習を行っていない状況です。そのような状況では、入学当初に東洋医学は好きだったとしても、東洋医学の用語が難しかったり、東洋医学の診察・治療の実習が少ないために未消化でわからなくなって、東洋医学が苦手になったり、嫌いになったりします。東洋医学を学ぶ方に、東洋医学の診察から治療に関して、本書が役立つことになれば良いと思っています。

我々は師弟関係

―― 実は、お二人にお会いしたかったのは、この本のサブタイトル(臓腑病、経脈病、経筋病の診察法と治療法)が気になりまして、もっと詳しく知りたいな、と思ったからなんです。そのことは後ほど触れるとして、まずはお二人の関係をお聞きできますか。経歴を見ると、お二人とも「明治」で、篠原さんが教壇に立たれていた時に和辻さんが在学されていたことに気づきました。ということは、和辻さんの先生が篠原さんだった、つまり師弟関係ということですか?

和辻そうです。学生の時からお世話になっております。

―― やっぱりそうでしたか。学会なんかで、よくお二人のツーショットを見る機会があって、仲がよさそうだな、とは思っていましたが、納得しました。ところで、本人を目の前にして言いづらいかもしれませんが、篠原さんは当時、どんな先生でしたか?

和辻私が学生の頃は、大学で助手されていた時でした。学生当時は現代医学的病態把握をしっかりと教えていただいた優れた先生でした。研究に熱心で、被験者に呼ばれたこともよくありました。時々、東洋医学の話が出て、とてもユニークな先生であると思っておりました。私が大学で助手になった時に鍼灸診断学教室に配属され、それ以来、色々とご指導をいただいている先生です。この鍼灸診断学教室では主に東洋医学の基礎から診断までを教育・研究する教室です。

―― 篠原さんから見て、和辻さんはどんな学生でしたか?

篠原徹底的に追究するタイプですね。大学を卒業して付属病院の外科で仕事をするようになったのですが、外科手術前後のダイナミックな病態の変化は舌にも顕著に出現します。そういった現象に注目して、それ以後、ず〜〜と、舌診研究一筋といった印象があります。また自分が納得するまで追究するという頑固さというかこだわりをお持ちの先生ですね。でも、小生の至らない部分を随分補っていただいて、大変助けられた先生でした。

経絡治療に始まり、現代医学的病態把握、中医学、経筋治療に
魅せられて…

―― 本のまえがきを読むと、篠原さんが自分の治療スタイルの変遷について触れられています。経絡治療に始まり、現代医学的病態把握に基づく鍼灸に魅せられ、さらに中医学へと……。壁にぶつかった時にご自身のスタイルも変化していったのかな、と思いますが、今の治療スタイルにたどり着くまでの経緯について、簡単に説明していただけますか。

篠原学生時代から経絡治療夏季大学(当時は熱海の暖海荘)に毎年通って勉強していました。脈診をするだけで証(診断結果)が決まり、治療ができるのですから初学者としてはこれほど便利な方法はないわけです。しかし、免許取り立ての未熟な技術でもって脈診をしても、効果が出ないわけです。

 また、学生時代に今治の池田啓二先生のところで夏休み、冬休みなどになると押しかけて見学させていただいていました。ベッドメイクして、患者さんを誘導して、先生が治療できる準備をしてすぐにまずこっそりと患者さんの脈を見ていました。その後で先生が脈を見てどのツボに鍼をするのかを盗み見て、自分の診立てがあっているのかどうかを自分で確認するといった状況です。ところが、時々先生から「この患者さん、治療してください」と任される患者さんに治療しても、治療後に思った脈の変化が出ないし、効果も出ないんです。そこで、思い切って先生にどうして私の治療では効果は出ないのでしょうか? 脈診の結果も鍼をするツボも合っているはずなのですが、脈も変化しないし、効果も出ません…と。

 すると池田先生は、「脈診はかなりできるようになっていますが、ツボと鍼が問題なのです。何気なくツボをとって、なんでもなく刺しているように見えるのかもしれませんが、微妙なツボの変化を探し、角度や方向、深さを考慮して、気の変化が確認できて初めて鍼をしたと言えるんですよ〜」という答えが返ってきました。それから、とにかく、ツボを探りまくるということをするようになったのです。

 また、日本針灸皮電学会(臨床鍼灸懇話会の前身)の先生が症候別の専用カルテを用いて現代的病態把握の研究を徐々にされていました。それに魅了されて一時期のめり込みました。その結果、診断は高等なクイズだ。答えは必ずあり、ヒントは患者さんがこちらから問いかければ何でも提供してくれる。そして、障害部位を局所の触診を的確にすることによって正確に把握することができる。鍼一本で症状を変えてやろう! としたこともありました。このころには、アクロバティックな姿勢で肩甲下筋の筋肉痛や腱板、梨状筋や双子筋、大腰筋、仙腸関節など、いろんな病態に対して的確に刺鍼することによって、鍼の響きと患者さんの自覚的疼痛部位が一致するかどうかを確認することができたなら、ほぼ疼痛を半減/消失することができる自信がついてきました。

 ところが、ある変形性膝関節症の患者さんが「先生の鍼は杖を忘れて帰るくらいによくなるけど、2日しか持たん(効果が持続しない)のや」の一言にショックを受けたんです。患者さんは整形外科にも通院しており、毎日痛み止めを飲んでも止まらない関節痛が2日は痛みなく過ごせているにもかかわらず、2日しか効果が持続しないというのです。それで実はショックを受けて、どうしたらもっと効果を持続できるようになるのだろうと悩みました。

―― それは本の前書きで触れられている患者さんですね。

篠原そうです。それで、再度、経絡治療に立ち返り、局所治療をすることなく、東洋医学的な治療を試してみました。すると、1週間楽だったと喜ばれたのです。それが、中医学に取り組むきっかけとなりました。

 中医学は論理的な構成がされていますので、とても理解しやすくできています。また、学生時代から北辰会(当時は大阪経絡学説研究会:代表/藤本蓮風)に定期的に参加していましたので、中医学は馴染みがありました。八綱弁証と臓腑弁証を中心とした証立てをして治療するととても理解しやすかったのが印象的です。

 その後、外科における鍼灸研究、腫瘍免疫と鍼灸などをやる傍らで、徐々に経筋の研究にシフトしていくことになりました。そのきっかけになったのはやはり患者さんの一言です。

―― きっかけはまた患者さんなんですね。
(次号へ続く)

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