週刊あはきワールド 2017年5月3日号 No.520

【新連載】Dr.シノハラの鍼灸徒然草 プロローグ

連載を始めるに当たって

~1本の鍼でも劇的な変化を導き出しうる~

九州看護福祉大学鍼灸スポーツ学科 篠原昭二 


鍼灸師養成施設はペーパー鍼灸師を社会に輩出していないか?!

 はり師、きゅう師養成施設の定員数について厚生労働省医政局医事課調べを見ると、都道府県知事免許の時代では1500人程度であったが、国家試験制度に移行した後徐々に増加し、平成27年度では5665人に達した。しかし、国家試験合格率は、はり師が3808人で76.5%、きゅう師が3773人で77.1%であった。このことは、養成施設の定員を満たしていないことから、受験生にとっては広き門となっている可能性が高い。

 一方、各養成施設は受験生確保のために、国家試験合格率を競い合う傾向があると思われる。このことは、はり師きゅう師の資格は取ったものの、鍼灸の臨床経験をほとんど有しないペーパー鍼灸師を社会に輩出する可能性があることを類推させる。臨床が重視される鍼灸において、診断、治療技術は不可欠であり、いかに良質の技術をマスターさせるかが各養成施設の、到達目標と思われる。しかし、その現実はいかがであろうか?

学生は鍼による劇的な症状の変化を目の当たりにすると目を点にする

 筆者は九州看護福祉大学鍼灸スポーツ学科において、4年次の鍼灸臨床センター実習を担当しているが、学生さんにカルテを渡して医療面接、診察、診断、病態把握、治療方針等を考えさせ、場合によっては、鍼・灸治療も積極的に体験してもらっている。その際、単純な経筋治療の場合には、現代的病態把握を行い、異常を有する解剖学的な組織を考えさせる。次いで、その部位と一致する経絡(経筋)の走行を考えさせる。次に、末梢の滎穴や兪穴の圧痛点を探索させる。何とかここまで到達したなら、最圧痛点に切皮置鍼を行わせる。そして、鍼が刺さったままの状態で治療前の疼痛動作を再現させて疼痛の程度を確認させる。すると、異口同音に患者さんは症状の軽減もしくは消失を不思議そうに申告する。

 このとき最も驚くのが、実際に鍼治療を実践した学生さんであり、自分の刺鍼した鍼の直後における劇的な症状の変化を目の当たりにして、目を点((・_・;))にして感動する。

 そして、午後に行う症例カンファレンスにおいて得意気に、病態把握や治療効果を報告する。1本の鍼刺激の効果が学生同士の馴れ合いの治療ではなく、初めて対面した患者さんの不思議そうな、そして嬉しそうに語る症状の変化を確認して、満足感を噛みしめる様は、見ていて興味深い。

 中には、直後効果の不明瞭な患者さんもおられるが、その際は、治療前の四診情報の特徴的な変化の1つ(1つだけ)に注目させて、治療後の診断情報の変化を確認させている。

 結局、自分が実施した鍼治療が効いているのかどうか、学生さん自身が体験的に学ぶ機会や環境は十分とは言えない。しかし、自分が担当した患者さんの劇的な症状や所見の変化を確認したときに、「鍼って効くんだ!」ということを体験的に実感するようである。

鍼灸は劇的な変化を導き出しうるすばらしい医療の一手段である

 当連載を思い立ったのも、1本の鍼であっても、劇的な変化を導き出しうるすばらしい医療の一手段であることをご理解いただければ望外の喜びとするところである。

 連載が続くかどうか心配であるが、しばらくの間、おつきあいいただければ幸いである。

 

篠原昭二(しのはら・しょうじ)

1978年、明治鍼灸柔道整復専門学校卒業・専任教員。1980年、明治鍼灸短期大学・助手(東洋医学教室)、1987年、明治鍼灸大学・講師(東洋医学教室)。1990年、明治鍼灸大学・助教授(東洋医学教室)。2001年、博士号(鍼灸学)の学位取得。2003年、明治鍼灸大学・大学院教授。2014年、明治国際医療大学を退職、九州看護福祉大学・鍼灸スポーツ学科教授。著書に『誰でもできる経筋治療』(医道の日本社)、『補完・代替療法「鍼灸」』(金芳堂)、『ビギナーズ鍼灸 HARIナビ〜初学者のための鍼灸臨床マニュアル〜』(ヒューマンワールド)、『臨床経穴ポケットガイド361穴』(医歯薬出版)、『すぐ使える若葉マークのための鍼灸臨床指針~臓腑病、経脈病、経筋病の診察法と治療法~』(ヒューマンワールド)などがある。
 
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