週刊あはきワールド 2017年6月14日号 No.525

【新連載】新米鍼灸師の研修奮闘物語 File.1

Resident.SeのBSL(Bed Side Learning) Diary(1)

~鍼灸レジデント生活~

鍼灸レジデント1年目 平岡遼 


 
 昨年度はStudent.Seとして1年間連載させていただきありがとうございました。無事に表彰状のような免許も届き、いよいよ鍼灸学生から鍼灸師にクラスチェンジです。しかしまだまだ1年目のぺーぺー鍼灸師。医者の世界でいえばひよっこ研修医です。英語では研修医のことをレジデント(resident)と呼びますが、これは研修が忙しくて帰れずに泊まり込む人=resident が由来だそうな。それじゃあ私も負けじとクリニックに泊まり込んで医療を学んでいこうじゃないか! という気概を込めて「Resident.Se」とした次第です。ベテラン鍼灸師の石川先生と危ない疾患を見逃さない凄腕内科医の木村先生、そして切磋琢磨する先輩スタッフの方々に鍛えていただく中で、洋の東西を問わず医療について、鍼灸師の教育について、笑いあり涙ありの日々についてなど、考えたことや学んだことをお伝えしていきたいと思います。

■ドキドキワクワクハラハラの居候研修生活

 3月から始まった研修生活ですが、レジデント宣言の通り週の半分以上はクリニックに住み着き、たまに自宅に帰っては溜まった洗濯をする日々です。毎日タスクは沢山ありますが(貯まっていく一方??)、大変な中でも笑いは絶えない楽しい日々を過ごしています。毎日患者さんを診ていると、季節や生活の変化によって体調も連動して症状が増悪したり緩解したりするのを目の当たりにでき、学びの毎日です。内科の患者さんではさらに劇的で、癌が発見された方、肺炎で入院された方、反対に無事に退院されて自宅に戻られた方など、これまでの生活ではなかなか感じられなかったリアルな患者さんの日常を見させていただいています。先日は来院時に患者さんがプレショック状態となり救急搬送も経験しました。襟を正さなければいけないと感じることも多々あり、本当に良い環境で学ばせていただいていると感じます。

 さて、今回はResident.Seの初回ですので、Student.Seの最後に掲げました鍼灸レジデントとしての目標と研修計画の概要を再確認し、この3カ月で出会った印象に残った症例や学びを共有したいと思います。

■Resident.Seの1年間の目標と研修計画

 まずは鍼灸レジデントとして研修計画を立てるにあたり、1年目の私の目標として考えたものが以下になります。

・舌脈診の精度を上げる
・舌脈所見、質問紙票、問診などから証を考えられるようになる
・日常病 common diseaseに対応できるようになる
・重篤疾患の除外を行えるようになる
・鍼灸患者に多い整形外科疾患の診察に必要な触診のレベルを上げる
・患者さんに運動療法をアドバイスできるようになる

 端的に言えば、患者さんを診たときに西洋医学的にも東洋医学的にも疾患を想起できること、つまり鑑別疾患を挙げたり、証を考えたりできるようになることに重点を置いています。そしてそのためには材料集めが必要なので舌脈診、触診を挙げています。他にもバイタルサインは日常的に取れるようにならなければいけないですし、フィジカルアセスメント、特に理学的検査法の精度も上げなければいけません。本当は西洋薬や漢方薬、食事療法や薬膳、日常生活指導、東洋医学の古典の勉強などやりたいことは山ほどありますが、現実的に考えて上記に抑えました。しかし運動療法だけは患者さんにやっていただかないと治らなかったり治りが遅くなったりしてしまうので目標に加えました。この目標を実現するために具体的に月のスケジュールに落とし込んだものがStudent.Seの最後にご紹介した研修計画でした。

■梨状筋症候群が1回の治療で治った?

 鍼灸師として学んでいくにあたり、鍼灸医学が学問的に発展するには何が必要なんだろう? ということを考えることがあります。西洋医学が著しい発展を遂げている今の世の中において、西洋医学的な疾患に対する鍼灸の効果がどの程度なのかを知ることは、今後の鍼灸の発展において大切な要素だと私は思います。これを知るためには、西洋医学疾患の知識とアセスメント力が必要不可欠です。しかし、鍼灸師は臨床的に西洋医学をちゃんと学べる場がとても少ないためになかなか身につけられないのが現状だと思います。この事実を示すわかりやすいお話を石川先生からいただきました。

 ある鍼灸師の先生が「坐骨神経痛を1回の鍼治療で治した」と発表していたらどのように感じるでしょうか? ちょっと前までの私なら、「やはり鍼灸はすごい力がある」とか「もう2カ月も治療しているのに私の患者は治らないのはなぜだろう」とか「その治療法を自分も試してみよう」などと考えたかもしれません。あるいは「私だって1回で治せる」と感じる方もいるかもしれません。

 しかし、ここは一度立ち止まって西洋医学的に考えなければいけません。坐骨神経痛はどういうときに起こるでしょうか? 多くは腰椎椎間板ヘルニアによるもの、そして梨状筋症候群によるものです。ではこの1回で治った坐骨神経痛はどちらによるものでしょうか。かなりの確率で梨状筋症候群によるものでしょう。

 梨状筋症候群は、殿部の梨状筋が張って固くなっているために梨状筋を通過する坐骨神経が圧迫されて神経障害を起こしています。そのため梨状筋さえ緩めば症状は緩和されます。そして鍼灸は筋の硬結を取ることは得意ですから1回の治療で治ってもおかしくありません。

 しかし、腰椎椎間板ヘルニアの場合はどうでしょうか。こちらは腰椎椎間板の髄核が後外方に飛び出して椎間孔を出る神経根を圧迫することで神経障害を起こしてしまっています。この状態の人に鍼をしても飛び出した髄核を戻すことは難しく、痛みが取れるまでには時間がかかります。これを1回で治すことは難しいでしょう。

 問題は、坐骨神経痛の原因が聴者に分からない発表の仕方をしてしまうこと、そして受け手も原因が分かっていないことに気づかないことだと思います。言われればすぐに納得できるのに、言ってくれる人がいなければいつまでも気が付かないかもしれません。鍼灸が発展していくためには、冷静に客観的に正しい症例を積み重ねていかなければいけません。今アメリカではそのような症例の積み重ねが成果となって現れ始めています。日本も負けていられません。だから私は鍼灸師も西洋医学を学ばなければいけないと感じています。

 余談ですが、ともともゼミの卒業生の医師達(多くが島医者や僻地で働く総合診療医)が「前医が何年も治せなかった梨状筋症候群による坐骨神経痛を鍼治療1回で治した」と、喜び勇んで石川先生に報告してくるそうです。「ともとも活動を長年やっていて良かったと思える瞬間だあ」と喜んでおられます。鍼灸治療の素晴らしさを感じる瞬間です。

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