週刊あはきワールド 2017年10月18日号 No.542

臨床に役立つツボの話 第2話

つわりの鍼灸治療

~列欠-照海の一対治療~

筑波技術大学名誉教授 形井秀一 


◎第1話 気至るツボ“太白”(首藤傳明)

1.はじめに

 その細長い鍼は、うつ伏せに寝て動けない私の友人の腰と大腿部に刺され、低周波が流された。20分間ほどして、鍼を除くと、ぎっくり腰で動けなかった友人は、何事もなかったかのように歩いて階段を降り、帰って行った。私は何が起きたかわからなかったが、以前から知っている友人だったので、2階の部屋に這って上がらざるを得なかった腰痛が作り話でないことは分かっていた。でも、細い鍼を刺しただけで、腰痛がなくなるなんて……。その頃まだ、鍼灸には無縁な他分野の大学の学生だった私には、それがどういうことかよくわからなかった。

 それからおよそ10年後、東京の鍼灸学校で週1回教鞭を執っていた私は、放課後、希望の学生たちと実技の勉強会を行っていた。ある日、一人の学生が、「先生、下腿三頭筋を揉むと腰の筋肉が緩みますね」という。揉まれていた学生も腰が軽くなったという。え、下腿を刺激すると、腰の緊張が緩んで、楽になる? 今は、遠方で開業しているその学生の驚きと得意げな言葉の抑揚が妙に耳に残っている。

 私が鍼灸の分野で学び始めた頃は、鍼灸は暗示だ、鍼灸はえせ治療だと主張する医療関係者が少なくなかった。けれど、その二つの経験は、鍼灸やあん摩の刺激が生体に実際に生じさせた現象だと自分自身では信じられた。もちろん、それらが単純に生理的な現象だけではなく、受けた人の意識も強く関与している可能性も否定できない。が、いずれにせよ、私の目の前で実際にそのことが起きたということ自体は間違いないことだと言わざるを得ない。鍼には何らかの効果があることは、疑うことのない事実だと思われた。

 そして、次なる疑問は、その事実は、鍼灸の古典理論で言われている経絡や経穴の存在を意味付けるのか、ということだった。経穴や経絡は、本当に存在すると言えるのか、という疑問には簡単には解答は出せないが、上記の例で経験したように、身体の離れた部位同士が関係し合い、刺激により生体に変化が起きる。それは現代流に言えば、経絡現象と言えるだろうか。もしそうだとしたら、経絡現象は、どれくらいの確率で起こせるものであろうか。

 その疑問を自分なりに解消しようとすることが、その後の臨床の際の大事なテーマの一つとなった。それは、自分の体験を自分で納得できるように裏付けたいという気持ちはもちろんであるが、その再現率は、治療の有効率に繋がることであるし、とりもなおさず、治療効果の評価につながるものであり、選穴や選経を理論づけることにもなる、と考えたからである。

 日本で行われている鍼灸臨床は、運動器疾患の治療が6~8割を占めると考えられる1)2)が、生体に惹起する上記のような現象は、運動器疾患だけではなく、内科疾患や不定愁訴、心理的な問題などの症状の場合にも起きる現象なのだろうか。自分で納得できるそのような現象を臨床の中で再現することができるであろうか。

 そんな課題を持ちつつ鍼灸臨床を行ってきた。そこで、つわりの治療でそのような現象に遭遇したケースをお話ししたい。

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