週刊あはきワールド 2018年6月6日号 No.572

◎◎はこう治す! 私の鍼灸治療法とその症例 File.50-1

膝痛はこう治す!(その1)

~私の視点と治療~

田村はり治療院 田村憲彦 


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はじめに

 膝痛は、年齢を問わずADL(日常生活動作)障害からQOL(生活の質)を低下させる要因になります。特に高齢者や若年者でも病気などによってフレイル状態であったりすると「痛みがあるので動かない、動かないでいると痛みが出やすくなる」という負のスパイラルに陥りやすいです。できるだけ早期に痛みの軽減を図りADL改善を目指したいところです。

 そして、その痛みの原因、要因をみると、これまで執筆者が書かれておられるように多種多様です。ここでは臨床の現場で使える視点の一つとして、膝関節周囲に障害がある場合と、それ以外からの影響で膝に痛みを感じる場合とに大別する方法で書かせていただこうと思います。

 ただ、科学的に生体機能はまだ解明されていないことがたくさんあります。遠い未来、この世の全ての物質&エネルギーを把握できてから、生体内外全ての物質&エネルギーを即時スキャン&シミュレーションができる時代になれば生体機能は解明され、あはき術の効果も検証できると私は考えています。

 そんなブラックボックスである生体ですから、我々現代の医療人は有効性を推察しながら治療に当たっており、また、鍼灸治療は患者さん自身が治癒させるのを手助けする治療法だと認識しています。私自身は開業してまだ16年ほどの若輩者ですが、これまで多くの先輩方と患者さんからいただいた貴重な糧(経験)を元に、電子工学等で培った科学的視点、観察をもって組み上げてきた治療方法を僭越ながら紹介させていただきます。

どうやって身体に作用させるか考えよう!

 膝痛に入る前に、この記事を読まれる方々は臨床で治療を行いたい、より向上したいという方だと思い、そのために役立つと思われる私なりの視点から、考察、認識を書かせていただきます。鍼灸を扱う技術は必須ですが、これらのことがあってこそ技術は活きるものだと思います。臨床の場はそれぞれ全く違う心身状態(内的にも環境的にも)の患者さんと一対一で向き合う場です。これらを省いてhow toのコピペばかりを行っていると、応用が効かず臨機応変な対応を求められる臨床では難しくなってきます。情報収集、分析、考察、判断する能力と技術を高め、より円滑に手助けできる治療を求め続けたいですよね!

 ということで、鍼灸ってどうやって身体に働きかけるの? を考えてみましょう。こういう“考察”やその“認識”の仕方は、臨床力向上に不可欠なばかりでなく、他職種との連携にも非常に重要な要素になります。

 まず、身体全体の働きをみると、恒常性維持という、体内外のさまざまな変化に応じて適度な状態(いわゆる「健康な状態」)に維持していると考えられています。

 鍼灸の刺激で使われるような、体外での温度変化や皮膚表面の接触や擦るなどでも、当然体内に反応(変化)が起きることが推察されますよね。そして、皮膚を突き破る鍼の刺入や、皮膚に火傷をさせる灸などの刺激では、それらとは「違う反応」が起きることも想像できると思います。また、いろいろな捉え方があると思いますが、ここでは前者よりも刺激は強いとして書かせていただきます。

 この「違う反応」という捉え方は大切だと思います。例えば、痛みに対して強い刺激の鍼灸、軽い刺激の鍼灸、優しく撫で擦った時とでは、鎮痛された時に患者さんが感じる全体や局所も違う体感(シャキッとする、ふぅと気が緩むなど)や、客観的にも温度、皮膚・筋の張り具合、覚醒度など違いがとれると思います。そして、もう一つ「刺激の強さ≠効果の強さ」という認識も大切な認識だと思います。例えば、炎症のある部位へ強い刺激の鍼灸をするよりも、さっと軽めの刺激で鍼灸をした方が熱が冷めたりということがあります。

 重要なポイントなのでもう少し書きますと、開業当初は、基本的な治療として鍼は寸6-3番や2寸-5番を使い神経や椎間関節近傍まで刺入したり、神経や筋パルスも使い、灸は透熱灸という強い刺激でした。ただ、軽微な刺激でも十分に効果が出せることを実感し、その方が患者さんの負担が少なく適応範囲も広く大変重宝することに気づきました。現在は軽い刺激をメインにしています。

 どういう刺激方法が良いかは普遍的なものはなく、その患者さんの“今”の状況(全体的にも、刺激部位としても)によるもので、適宜対応することが臨床では大切だと感じています。

 患者さんの“今”の状況とは、全体的な面では心身全体で、例えば精神面ではピリピリ気が張っていたり怯えていたりする状態、身体面では大きな筋疲労があった後などでは、感覚閾値が下がっていると思われることによく遭遇します。普段から症状が出ている場所では鍼灸刺激を特に過敏に感じたりということがあります。局所面では、皮膚や筋が突っ張っている部位では、感覚閾値が不安定な印象を受けることがよくあります。例えば、大きく雀啄をしても何も感じないほど鈍い場合、初めから過敏な場合、散鍼をすると途中から急に過敏に感じる場合などです。そういう状況を全体的にも局所的にも把握し、反応を推察しながら対応するよう心がけています。

 上記のものは私なりのものですが、皆さんの“考察”はいかがでしょうか?もし、何かヒントが欲しい時には、全体と局所をよく観察し、多くの方々がご尽力され積み上げられてきた論文等を参考にすることをおすすめします。例えば検索すると、鍼尖が何にどう影響を及ぼしているのか、鍼体が何にどう影響を及ぼしているのか、透熱灸での皮膚組織への影響や、鍼や灸刺激後の神経活動、筋活動や血流・血中成分、水分等の変化を捉えた文献がみつかります。それから、細胞間や間質液などでも情報が伝達されているでしょうし、このあたりも鍼灸刺激による変化に関わっている可能性が考えられると思います。こういう事を想像・推察することは、治療の際に、どのような状態のどこの組織に鍼尖を進め、どう刺激し、どう反応を引き起こすか、目標・目的をもって治療することに繋がります。もちろん灸の刺激でも同様ですよね。

 そして、起こった事象の“認識”ですが、「事実を事実として受け止め、わからないことはわからないと認識すること」が大切です。人間、都合の良い解釈をしたくなりますよね。例えば、鍼を刺して、患者さんの症状が軽くなった場合“鍼を刺した。そして、患者さんの症状が軽くなった“というのが的確な事実の認識ですよね。ここで、陥りやすいのが“患者さんの症状が軽くなったのは鍼の効果”とか“悪いところに鍼を刺したから症状が軽くなった”と、鍼灸を愛する者は解釈をしたくなるものです。しかし、よく考えると、反応したのは患者さんの身体ですし、鍼を刺した場所が悪い場所だったのかはわかりませんし、何か他に変化が起こりえるような事が気づかないうちにあったかも知れません。事実からの考察をすると“症状が軽くなる反応を起こす場所に鍼を刺し、その反応を引き起こすだけの刺激をした可能性が考えられる。他の影響も否定はできない”という辺りが妥当でしょう(図1)。
 

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