週刊あはきワールド 2018年7月18日号 No.578

レポート

「伝統医学テキスト 鍼灸編」公開

(公財)未来工学研究所 東郷俊宏 


【はじめに―伝統医学国際標準化の経緯―WHOからISOまで】

 鍼灸や漢方を含む伝統医学領域の国際標準化の歴史は、1980年代にまで遡ることができる。WHO西太平洋地域事務局(WPRO)で初の伝統医学担当医官として就任した津谷喜一郎が、WHO西太平洋地域事務局長、WHO事務総長などの要職を歴任した中島宏の支援の下に鍼灸の基本用語が標準化されたのがその嚆矢といえる(Standard Acupuncture Nomenclature 1st edition, 1988)。

 その後、WPROの伝統医学担当医官は中国出身のChen Kenに交代し、1999年にはGuidelines on Basic Training and Safety in Acupunctureが作られたが、この領域の国際標準化が大きく前進したのはなんと言っても韓国人のChoi Seung-hoonがWPROで活動した時期(2002-2008)であろう。Choiは伝統医学担当医官に就任するや、津谷担当官時代からの宿題であった経穴位置の標準化をはじめ、伝統医学の用語、情報の標準化などのプロジェクトに着手した。日本ではこうした動きに対応するために学会と業団などが協力して第二次経穴委員会を結成したり、2005年には、国内の主な東洋医学関係の学会が主体となって日本東洋医学サミット会議(JLOM)を設立したりするなど、そのスピーディな展開に追いつくための体制作りに追われた。

 筆者もChoiがWPROでプロジェクトを始めた時期に全日本鍼灸学会に籍を置き、当初は国際部員として、後に標準化推進委員会、JLOM関連委員会と所属を変えながら、こうした標準化の流れに追いつこうと懸命になったものである。中国が2009年にISO(国際標準化機構)にTraditional Chinese Medicineの標準策定に関わる委員会(TC249)の設置を申請し、これが承認されると、JLOMはTC249の国内審議団体として対応の最前線に立つことになり、WHOに加えてISOの業務に忙殺されることになった。

 JLOMは学会の長を主たるメンバーとする任意団体であるから、資金は各学会からの会費および企業からの協賛金によるしかなく、頻回に開催される国際会議に対応するには経済面で厳しい状況にあったが、幸いなことに厚生労働省より国際標準化を主題とする補助金が公募され、これをアカデミアが獲得することによって、国際標準化に関わる諸々の研究・活動を維持することができた。

 本稿では、平成22・23年度に厚生労働省科学研究費補助金 地域医療基盤開発事業として推進された「統合医療を推進するための日本伝統医学の標準化」事業(研究代表:東海大学 新井信)で作成された『伝統医学テキスト 鍼灸編』がwebsiteで公開されたことをうけ、その経緯と概要について、現在の鍼灸教育における問題点を挙げながら紹介したい。

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