週刊あはきワールド 2018年12月26日・2019年1月2日合併号 No.599

夢の轍を歩きながら 第6回

歴史の複数性―リトアニアの旅に寄せて

 冬香 


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 まだ猛暑が続く9月、ポーランドとバルト三国の一つであるリトアニアを旅しました。一人旅が好きな私ですが、今回の旅は出張を除けば生まれて初めての団体旅行でした。国内外で桜の植樹を行い、日本の心を伝えることをミッションとしているNPO法人の旅行に参加したのです。バルト海沿岸から地中海へ向かう「琥珀の道」に憧れを持っていた私は、いつか自分の足でバルト三国を旅してみたいと思っていたのですが、お世話になっている税理士の先生がそのNPO法人に関わっていた関係でこの植樹旅行を紹介されたのでした。

 このNPO法人は5年前にすでにポーランドで桜を植えており、今回の旅では、5年経った桜を見るとともに、リトアニアの首都ヴィリニュスと杉原千畝がユダヤ人に「命のビザ」を発給したカウナスを訪ね、50本の桜をカウナス市民の憩いの場である公園に植樹してきました。

 この旅行にはノンフィクション作家の平野久美子さんが同行されるとのことでしたので、旅の直前に著作『坂の上のヤポーニア』(産経新聞出版社 2010)を取り寄せて読みました。平野久美子さんには本書のほかに、東京大空襲を生き抜き、88歳で亡くなるまで町医者として地域の人々の治療に当たった中尾聡子先生の半生を描いた『つなぐ命、つなげる心―東京大空襲を乗り越えて』や、テレサ・テンの生涯を描いた『テレサ・テンが見た夢―華人歌星伝説』等の著作がありますが、『坂の上のヤポーニア』は、リトアニア独立運動に身を挺した運動家ステポナス・カイリース(1879~1964)の生涯について、彼が日露戦争終結直後の1906年に出版した日本論を基軸に詳述した書です。

 リトアニアと言えば、日本総領事であった杉原千畝が第二次大戦中に、ナチス・ドイツの迫害を逃れてヨーロッパを脱出しようとしたユダヤ人達にビザを発給、6000名とも言われるユダヤ人を救った物語が有名ですが、この小さな国で、自身で訪れたことのない日本の歴史文化と、急速に西洋の制度を取り入れた過程を分析した書物が作られているとは思いませんでした。『坂の上のヤポーニア』ではカイリースが著した日本論三部作(『日本今昔』(Japonija seniau ir dabar)、『日本人の暮らし』(Kaip Japonai gyvena dabar)、『日本の政治構造』(Japonu Konstitucija))の内容を瀬戸はるかさん(リトアニア在住)の翻訳で読むことが出来ますが、原文はリトアニア語で書かれています。リトアニア語は長期に及ぶ帝政ロシアの支配下で使用を禁じられてきましたが、日露戦争中の1904年にロシアの文化政策が緩和される中で使用が認められました。本書はロシア敗北の報に接した26歳のリトアニア人が、形のない祖国の将来を描くために、密かに継承してきた言語で書き綴った書なのです。
 

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