週刊あはきワールド 2019年3月6日号 No.608

からだに触れる からだで触れる 第9回

触れずに触れる

いやしの道協会会長 朽名宗観 


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9.触れずに触れる

 これまで「触れる」ことについて記して来ましたが、私自身の経験から「触れずに触れる」ということについて述べたいと思います。

 私が往療をはじめて6年近くがたち、大腿骨頭骨折後の機能訓練を主な目的とした80歳代後半になる女性の患者がいました。かなり進行した認知症とうつ傾向があるため、往療をはじめたころには思うように施術ができず、その分、認知症の方との関係のつくり方などの工夫を重ね、多くのことを学ばせていただきました。

 往療を開始した頃のある日のことです。昼間は同居する息子さんは仕事に出かけており、一人でいるこの方の家を訪れました。患者本人は呼び鈴を鳴らしても応対できないので、鍵の隠し場所が表玄関の傍にあり、そこから鍵を取り出して玄関の扉を開けることになっています。中に入り廊下を進むと、居間の前に出ますが、引き戸になっている居間の戸に小さな窓があり、そこには曇りガラスがはまっていて、中が暗い様子がわかり、誰もいないものと思いました。

 しかし、青い光の点滅が映し出されているので、不思議に思って引き戸を開けると、昼間なのにカーテンを閉めきり、電灯もつけず暗い部屋にうつむきながら椅子に座っている患者の姿があったのです。青い光はテレビの画面から出ているものでしたが、消音されており、見ている様子はありませんでした。そのとき、私はこの部屋のなか全体に患者の内面が投影されているような気がして、そこでは不用意な振る舞いはできないととっさに感じました。

 それから4年ほどが過ぎ、患者との関係も深まり、施術も順調に進むようになっていましたが、内臓疾患で1カ月半ほど入院することになりました。退院後は腰下肢筋群の力の低下は著しいと思われるので、早めに歩くための機能訓練を始める必要性があると考えていました。気分に浮き沈みがあり、沈んでいるときはからだを動かそうとしません。退院後は沈みがちでしたが、しかし、機能訓練をしないと脚力は低下するばかりなので、やや拒む気配はあったものの歩行訓練を続けました。

 ところが、しばらくすると、患者から完全な施術の拒否をされてしまったのです。冬だったので、部屋に入ってストーブのスイッチを入れ、火がついたボッという音のした瞬間に「何するのよ、危ないじゃないか!」と、どこにそこまでの力が潜んでいたのか思われるほどの大きな怒声が飛んで来ました。掛け布団を取り除こうとすると、からだを振るわせて拒み、泣き声を上げて「もう来ないでいい!」と言われ、まったくのお手上げ状態になってしまいました。
 

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