週刊あはきワールド 2019年4月3日号 No.612

◎◎はこう治す! 私の鍼灸治療法とその症例 File.60-1

腰背部のこりと痛み(前編)

~ファシア(筋膜)と鍼具の視点~

針灸指圧自然堂 中倉健 


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はじめに

 学生の方や卒後間もない鍼灸師の方も多く読まれているとのことですので、今回のテーマは「腰背部のこりと痛み」としました。日常的によく見られる症状であり、背部は診断部位や施術部位でもあります。腰痛や背部痛については、すでに多くの文献や症例報告、治療システムなどが紹介されています。それでも、なかなか同じように効果の出ないことを臨床ではしばしば経験します。もちろん、病のすべてが鍼灸の施術で完結するものではありませんので、レッドフラッグは除外し、多角的視点が必要となることはいうまでもありません。

 筆者は開業して20数年になります。鍼灸治療を基本としますが、手技による施術も行っています。公開するような特別な治療をしているわけではありませんので、施術方法などは教科書的な説明になりますし、手技については抽象的な記述となってしまいます。伝統鍼灸や現代西洋医学の概論的な診断法や治療法については成書を参考にしていただくとして、ここではファシア(筋膜)と鍼具をキーワードとして紹介したいと思います。既知の内容も多いかと思いますが、鍼灸の可能性を考えるヒントになれば幸いです。

ファシア(筋膜)について

 手技療法の歴史は紀元前まで遡ることができ、世界中で見ることができます。それは、原初的な行為といえるのかもしれません。マッサージをはじめ、手で施術する方法については現在まで、さまざまなことが試され研究されています。しかし、その術について書かれた資料は鍼灸に関する古典文献に比べると多くはありません。人から人へ受け継がれるため失伝しているもの、言語化しにくいこともその理由としてあげられるでしょう。

 江戸期、手技療法について書かれた書籍に『按腹獨稽古』浪華一愚子(1793)があります。70ページばかりの小冊子で、鉄斎から伝授された按蹻術を内海辰之進が記録してまとめたとあります。いろいろと興味深い内容が記載されており、その中に下記のような記述があります。

 「鉄板を作り布を其上に覆ひ静に是を摩(なづ)れば一月にして指の形付く、しかれども布は一向摸ずる事なきとぞ。見た人は皆其術の神妙なるをかんず。此鉄板に指の形付く妙あるを以て鉄斎と号するなり」

 鉄板に跡がつくかどうかは分かりませんが、布をずらさずにその下の鉄板に圧を及ぼす力、静かに撫でる操作法など。活字を読んだだけでは想像の域を出ませんが、もしかしたら、筋膜リリースのようなテクニックなのではないだろうかと考えるに至りました。それが、筋膜に注目する契機になります。

 前置きが長くなりましたが、筋膜の概略について述べておきましょう。

 筋膜をはじめ脂肪組織や靱帯、腱、髄膜、骨膜など軟部組織をファシア(fascia)と総称します。ファシアは馴染みのない言葉かもしれませんが、研究者の間ではこちらの名称が主流となりそうです。筋膜に関してはオステオパシーやロルファーの間では40年ほど前から議論されていたテーマです。筋膜リリースは圧縮、牽引、捻転などの手技により身体の歪みや筋膜系を調える構造学的なアプローチになります。結合組織は組織を覆い、身体の部分をつなぐ働きだけではなく、さまざまな医療系統を繋ぎ合わせている、つまり、ひとつのネットワーク系の働きがあると考えられています。

 ここにきて脚光を浴び始めた理由の一つに画像診断装置 (エコー)の性能が向上したことが挙げられます。最近の技術の進歩は目覚ましく、筋肉の動きやファシアの状態などが視覚的にとらえられるようになり、さまざまなことが分かるようになってきました。

 理論的背景は異なりますが、鍼灸やいくつかの徒手療法は、意識をする・しないにかかわらずファシアに対して何らかの影響を与えているということができます。この興味深いファシアの特性を知ることで、 臨床においてさらに効果的な施術が可能になるのではないかと推測します。

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