週刊あはきワールド 2019年11月27日号 No.643

緊急寄稿

「非医業類似行為」を嗤う

 浦山玖蔵 


 
 先週末参加した日本伝統鍼灸学会学術大会の会場で、「非医業類似行為」という言葉を聞く機会があり、その珍妙なネーミングに思わず笑ってしまった。こともあろうに無資格の医業類似行為を表わすために新たに厚生労働省が編み出した造語だそうだ。今年度中に作成される鍼灸マッサージの広告ガイドラインに掲載されることが決まっているものだと言う。

 面白すぎるので厚生労働省のウェブサイトなどで調べてみたが、このガイドラインの検討会議(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会)には医師、法学者、保険者、患者代表、そしてなんと鍼灸の業界団体の代表までも参加している。

 これまでの会議などでは無資格の医業類似行為を表現する言葉として「国家資格外行為」という用語が使われていたが、最新の資料で登場したのがこの「非医業類似行為」なる、いかにも頭の悪そうな響きの言葉だ。

 「医業類似行為」という言葉は、あはき法第十二条(第一項)に、「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。」とあることに由来し、そもそも、無資格者が禁止される行為を意味する言葉であった。そして、この文言は、立法から72年をへても1字も変更されてはいない。

 ちなみに、第12条にいう「もの」とは、第1条で定義する「あん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゆう」のことである。つまり、ここでは、「本来は医師が行うべき行為」すなわち「医療行為」であるというニュアンスが言外に含まれており、当該資格所有者のみがこの行為を特別に限定的に行うことができる資格であることを意味しており、そのほかの「何人」すなわち無資格者が行う「医業類似行為」は業としてはならないわけである。

 その後、解説書や裁判の報道、厚生労働省からの「通知」などではこの言葉の意味あいが徐々に変化してきた経緯はあるが、それは後付けの解釈でしかなく、立法時の趣旨はあくまで「無資格の行為を禁止する」という目的から逸脱することはあり得ないはずだ。

 しかし、「医業類似行為」の意味については、個々の鍼灸教育の現場での基礎知識の不足により、あるいは鍼灸学校間のコンセンサスの不足によって指導内容が曖昧になってしまった結果、業界全体も「医業類似行為」という言葉に対する統一的な見解はいまだに持ち得ていないのが現状だろう。

 こうした中、業界の弱みに付け込むかのように登場したのがこの「非医業類似行為」だ。もし、無資格が「非医業類似行為」となれば、必然的に鍼灸は「医業類似行為」という不名誉な烙印を押されてしまうことになる。私に言わせれば、「非医業類似行為」すなわち「医業類似行為でない行為」とは、どう考えても「医療行為」そのものであるはずで、無資格施術は「非医療行為」であり、あはき法に従えば「非医療行為=医業類似行為」としなければまったく意味が通らないものである。それとも、厚生労働省は無資格者の施術を医療行為に準じるものと看做そうとでもしているのだろうか。

 昨今は全国の医学部で伝統医学が教育されており、その中には鍼灸治療も含まれている。脱臼・骨折に対する整復や医療マッサージも純然たる「医療行為」であることは自明のことである。ましてや、観血療法であり、一つ間違えれば臓器や組織を損傷する危険性を孕む「鍼灸」という高度で特殊な技術を「医療行為」ではないと規定しようものなら、医師法や医療法そのものの立法趣旨まで、根底から脅かされることになるだろう。当然ながら、医師が鍼灸治療を行った場合も純然たる「医療行為」であって、もちろん「非医業類似行為」でなければならないはずである。

 厚生労働省はこれほど簡単な日本語の読解力もないほどに知能が低下してしまったのだろうか。それとも、これほどあからさまな誤魔化しをしようとも、鍼灸師程度なら気が付かないほどに愚かしいと、本気で考えての横暴なのであろうか。あるいは、鍼灸関係の代表者がこの横暴に沈黙しているのは、「これを黙って承諾しなければ、当該資格者の業務から『治療』という用語を使用させなくしてやる」と脅迫されているからである、などという悍ましい噂まで飛び交っているやに聞く。いくら何でも、そこまで悪辣なことが行われているとは到底思えないが、あまりに理不尽で差別的な内容を慮ると、「ひょっとしたら」などという気持ちになりそうにもなる。

 我われ鍼灸師は誰しも、人類の福祉と健康に貢献したいと願い、誇りをもって日々研鑽努力しているものと信じている。なぜなら、明治中期以来、医師との協力のもとに、世界に先駆けて西洋医学的な治効機序に基づいた日本型ドライ・ニードリングを確立し、また、昭和初期以来、中国鍼灸古典を近代的視点から脱構築して再生させ、より現代人の体質に合わせた治療方式の開発も成功させ、さらにその両者を並立させる形で日本独自の知的財産として連綿と存続させてきたからである。その結果として、全日本鍼灸学会や日本伝統鍼灸学会をはじめ、複数の学会や研究会、研究機関で鍼灸の医学的、歴史的、文化的研究を進めてきた歴史と伝統に対し、鍼灸師としての矜持を抱いているからである。

 また、国際的に見ても、日本の鍼灸文化や日本人による鍼灸治療は、すでに戦前から高く評価されており、世界的に受け入れられていた実績もある。最もその恩恵に与ったのが近現代の中国で、日本の近代化された伝統医学の影響なくしては現在の中医学の世界的な隆盛はあり得なかったはずだ。今年改定されたWHOの国際疾病分類(ICD-11)においても伝統医療項目が収載されたところだ。日本の伝統医療が世界に対して行った貢献は、ことほどさように絶大なものがある。これからの日本においても諸外国においても伝統医療におけるWHOの疾病分類によるデータが収集されて行くことになるのは必然的な帰結だろう。今世紀の世界が日本鍼灸の優秀性に気が付き始めたのは、このように世界的に中医鍼灸が普及してきたことによって、より効果的で安全な鍼灸を求める機運が高まってきたことが、最大の要因と考えられる。

 こうした折も折、その発信地たる当の日本において、医療行為としての日本の鍼灸文化の価値を議論することもなく、無資格の医業類似行為の呼称を訳のわからない造語に置き換えることによって既成事実化を図ろうという姑息な手段で外堀を埋めることで、世界に冠たる日本鍼灸を医療行為の範疇から追い落とし、国民から鍼灸治療を享受する機会を奪うような卑劣なやり方には呆れるばかりである。

 すでに義憤を感じた有志による署名用のウェブサイト(厚生労働省・あはき柔整広告検討会は「非医業類似行為」という意味不明な言葉を作らないでください)もできてはいるが、これだけではいかにも心もとない。日本の国民の健康を鍼灸・マッサージによって守り、少しでも医療費を削減していくためにも、有資格者自身による個々の意識の向上こそが急務なのである。
 
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