週刊あはきワールド 2020年5月13日号 No.665

緊急アピール11

COVID-19、発生から現時点までの臨床情報のまとめ②

~日々患者さんと対峙しているプライマリケア従事者のために~

 (1)石川家明(2)木村朗子 


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(1)石川家明:TOMOTOMO(友と共に学ぶ東西両医学研修の会)代表
(2)木村朗子:ともともクリニック院長

 本稿では、緊急アピール10に引き続き、COVID-19患者に接する可能性のあるプライマリケア従事者向けに、現時点(5月3日)までの臨床情報をいくつか供する。

 最近発表された医学論文には新しい知見が次々出て来ており、それらは日本や世界の衛生当局の施策方針を変える影響を持つものである。そのなかでも、台湾の論文は私たちを驚かせたので、簡単に紹介したい。

 前号緊急アピール10はあはきワールドの厚意により無料公開となった。緊急時の対応に多謝である。多くの人が目にした結果だろうか、今までと比較して反響が大きかったように思う。その中に「内容が難しい」「文章が長すぎる」という意見があった。未来ある学生からの発信とのことなので、冒頭メッセージを書いて返答したい。

■医療学生たちに~学びについて~

 世界には、今持っている知識だけでは理解するのが難しい講義や書物、はては意見が大きく異なる人が、存在する。何を言っているのか全然わからない書き物や人に出会うことはいいこと、なのである。自分の知的な限界を超えるチャンスに遭遇したということだから。今、理解できなくても、相手の話を聞いてみる、わからんちんでも、ちょっと読んでみる、触れておく、という姿勢が自分の限界を超えていく第一歩である。もしかしたら、1年後、5年後、10年後にはわかるかもしれない。でも、触れなければ、ずっとわからないままだ。

 自分が理解でき、共感できることだけを聴き、よく知っている分野についてのみ知識を増大させることが、本当の「学び」だろうかと、疑問を持ってほしい。自分が持っている「わからない」が「わかる」と変化し、世界が広がっていく喜びを、どうかたくさん味わってほしい。わからないことは、きっと誰にでもある。誰にでも、である。だから大切なのは、わからないことに出会った時、見ないことにして生きていくのか、難しさと向き合うのかの姿勢の違いだと、思う。

 Twitterなどのツールが増えたせいか、長文を読む機会が減り、長文を読む「体力」が減少していることを自らにも感じている。自らを律して長文を読む練習をしないと、「体力」は増えない。このまま衰えてしまうと、数多の歴史の良書にも触れることができなくなるのではと、自らも危惧している。それはジャンルを問わずにだ。これは、慣れしかないので、自戒をこめて申し上げる。どうか自らを奮い立たせて、長文を読む機会を、多く持つことだ。

 10年経ってその当時の自分を振り返ったときに、恥ずかしくもうれしい今の自分を発見できれば成長した証だ。それは患者さんへの診療にも反映されているはずだ。

■感染症対策と流行状況

 流行状況によって、感染症対策は違う。それは、今回のCOVID-19 対策でも同様だ。2019年12月に中国の武漢で新しい肺炎としてニュースになった。日本にその脅威が大きく降りかかってきたのは2020年2月の春節である。この時点では、有病率は非常に低いことが予想され、渡航歴や渡航者との接触が重要な要素であった。この後、徐々に感染は拡大し、各地でクラスター感染が発生する。ダイアモンド・プリンセス号、展示会、ライブハウス、医療機関などに集まった人々を中心に感染が広がっていった。ここまでは、感染症が起こった場所や状況に関連した人を特定し、PCR検査を行い、症状の出現を追跡・隔離して、感染者を後追いする対策が適切だったと思われる。これがクラスター対策である。

 しかし、3月中旬以降、感染経路がわからない感染者が一部の都市で急増する。特に、東京、大阪、愛知、福岡など大都市を中心とする流行だ。このような状況では、感染を後ろから後追いする前述のクラスター対策では間に合わない。いわゆるロックダウンが必要となる。誰であろうと感染している可能性があると仮定して、人と人との接触を極端に減らし、外出を控え、感染機会を物理的に激減させる。その地域に住んでいる人、通っていた人は、症状があれば検査を待たずに家族からも隔離が必要となる。

 軽症者に対するPCR検査はキャパシティに余裕があれば行ってもよいが、状況や症状から疑わしい場合はPCR検査によらずにCOVID-19 として扱い、周囲は感染対策を継続するべきである。理由は数点ある。1点目、PCR検査の感度は高くても70%程度のため、偽陰性はどうしても起こりうること。PCR検査の結果はあくまで補助である。感染症の診断は、病歴、流行度、身体診察で行うべきである。2点目、感染者のうち80%は軽症で回復していくこと。3点目、診断が確定したところで、明らかに有効な治療は確立されていないこと。4点目、通常一般の疾患においては複数の検査があるが、COVID-19は検査がPCR検査しかない現在においては、PCR検査を重症者のために、複数回行えるように準備しておく必要があること。現時点は、物理的資源も人的資源も多くはない。重要なところに有効に使用すべきだ。つまりPCR検査を迅速に行えるような余裕をもって準備をしておくことが重要である。不安のために検査をする人のために、重症肺炎の人が待たされる環境は作るべきではない。言い換えればそれは、私やあなた自身が重症になった時に、速やかに検査ができる仕組みを作ることになる。

■PCR検査をすべき場所と状況

 とすると、PCR検査を積極的にするべきは、COVID-19を疑う症状(特に重症)があるか、既感染者と濃厚接触のある場合である。さらに、呼吸器循環器などの慢性疾患治療中の患者、介護福祉従事者や医療従事者(自身や周囲への影響が強いため)などは速やかな隔離の上PCR検査を検討するべきと思われる。個別には、その地域ごとの検査能力や医療機関の能力によって、考慮していくべきであろう。

 感染蔓延の程度でも、検査の重要性は変わってくる。一般的に有病率が低いとき、つまり感染者が少ないときは、広く多くの人に検査をすべきではない。狙った疑わしい人に対して検査をしていく戦略が望ましい。これは陽性的中率や感度特異度との兼ね合いになってくるので、細かい記載はここでは省く。

■「病がある」と「検査が陽性」の違い

 感染症はウイルスや細菌、真菌という微生物が原因だ。しかし、そこに微生物がいるということと、病気である、感染症に罹患しているということはイコールではない。一方、ウイルスの欠片があることと、PCR陽性であることはほぼ同義と言ってよい。つまりPCR陽性であることがCOVID-19である、とは言えない。例えば感染症から回復してきている場合、疾患は治癒しているのに、ウイルスの残骸が鼻咽頭に存在するということはありうる。その場合、症状は改善傾向であるはずで、PCR検査の陽性陰性が疾患の有無そのものではないことが理解できると思う。

■誰がPCR検査をしているのか

 話題のPCR検査は、(少ないウイルス量でも逃さないように)ウイルスのRNAの一部を増幅して検出する検査である。その検査手技には極めて高い専門性が必要となる。公的資金をつぎ込んでPCR検査の機械を急に増やすことはできても、専門的な手技を行える検査技師は急には増えない。諸外国では、SARSやMERSという感染症との闘いの歴史の中できちんと学び、物理資源も人的資源も準備を重ねてきた。一方、我が国はどうだろうか。感染症の脅威にたまたま今までさらされることが少なかった事態にあぐらをかいてしまった。少なくとも検査体制においてまた感染症対策全般において、明らかに遅れを取っている。この機会に、感染症対策が重要な国家の安全保障として扱われ、日本にも独立したCDC(Centers for Disease Control and Prevention、疾病予防管理センター)が作られることを望む。

■発症前が感染性ピークだった!

 感染対策は他国から学ぶことが多くある。

 Science、Nature、New England Journal、Lancet、JAMA、Cochran、Elsevierなどなど錚々(そうそう)たる有名団体が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) に関しての記事を無料公開している。こんなにありがたいチャンスはなかなかない。論文の更新も非常に早い。大変親切なことに、Cochran、Elsevierには日本語訳をしてくれているページもある。ぜひ多くの知識に触れていただきたい。

 今回のCOVID-19対策で感染制御に最も成功した地域は台湾ではないだろうか。感染者440名 死亡者6名(2020年5月11日現在)で、4月以降ほとんど感染者数は増加していない。その台湾から、1-3月にどのような対策を行ったかの報告と感染性に関しての重要な知見があがってきた。

 台湾では感染症のアウトブレイクが起こると、疫学学者を中心として強力な権限の「中央指揮所」が設置される。今回の報告はCOVID-19の感染者100名と接触者2761名の検疫について示されたものである。政治的な制度についての詳細は本文を見ていただくこととして、接触者の洗い出し、検疫がどのような方法で行われたか、その結果がどうだったかを紹介する。感染確定患者の発症4日前からの接触者を追跡し、隔離を14日間行った。台湾では、国民健康保険と入国検疫データベースをわずか1日でリンクさせ、外来受診の際に旅行歴がわかるようなシステムを作っているとのこと。医療機関受診時に必ず提出する健康保険証で渡航歴がわかるとは、非常に賢明な漏れの少ないシステムである。

 2次感染が起こったのは22名(2次感染率 0.7%)で、発症数日前から発症後5日以内に接触していた。接触者人数は医療機関経由が多かった一方で、2次感染者は病院などの接触より家庭内で最も多いことが認められた。以上より、COVID-19は発症数日前から発症初期において、周囲への感染リスクが高まる感染症であることが示唆される。ほかの論文を合わせ読んでも、この調査で明らかになったのは新型コロナウイルスの感染は発症時頃に最も感染性が高く、時間が経つにつれ感染性が弱くなる可能性が示唆された。

※“Contact Tracing Assessment of COVID-19 Transmission Dynamics in Taiwan and Risk at Different Exposure Periods Before and After Symptom Onset.” JAMA Internal Medicine, May 1, 2020.
※“Quantifying SARS-CoV-2 Transmission Suggests Epidemic Control with Digital Contact Tracing.” Science, March 31, 2020, eabb6936.
※“Temporal Dynamics in Viral Shedding and Transmissibility of COVID-19.” Nature Medicine, April 15, 2020.

■COVID-19 感染性と症状の推移

 COVID-19の診断は難しい、とくに初期において困難だ。それは、初期に普通感冒と類似した軽い症状が出現すること、普通感冒と区別できるような特異的な症状がないことが原因である。いまだ不明な点も多いが、多くの医療者が接する軽症例についても報告が上がってきている。

 典型的なCOVID-19の自然史について記載する。暴露から平均4-5日の潜伏期間の後、発熱、倦怠感、乾性咳嗽、を認める。味覚や臭覚の障害も報告されている。消化器症状は報告されているが頻繁にみられるものではない。頭痛、鼻水、咽頭痛は典型的ではない。

 呼吸困難は、典型的には症状出現後5-8日後に出現することが多く、感染者全体の2-3割に見られる。その後5%以下の患者で、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)など急な増悪を認めることがある。発熱、呼吸器症状の増悪が典型的であるので、呼吸数はとても重要な指標となる。下記の論文などから軽症者の典型的症候を示した。

https://www.uptodate.com/contents/coronavirus-disease-2019-covid-19-
questions-and-answers#H2935853254 2020 May 9.

※Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China.  N Engl J Med. 2020;382(18):1708. Epub 2020 Feb 28.

■まとめ

 以上から、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19 )は、発症数日前から発症初期に、感染性が高いということ、その時期は無症状もしくは極めて軽症の症状が出る患者が多いということ、この2点が明らかとなった。この2点を考慮すると、非常に感染管理において厄介な性質を持つということがわかる。隠れている間に感染を広げる力のある、とても巧妙に広がっていくウイルスなのである。極めつけは、5%程度ではあるが、重症肺炎を起こすという点が重要である。

 発症前においては、自覚症状もなければ自らの感染を疑うこともない。「自分も、あなたも感染しているかもしれない」という前提で、日常生活を送る必要性が出てくる。繰り返しではあるが、まずは外出しない、social distance 周囲と2m以上の距離をとり、手洗い、手指消毒、マスク着用などいくつかの対策を重ねていくしかない。安全で効果の見込めるワクチンができるまでは、今後ともに人との接触を極端に減らすロックダウンの必要性をたびたび求められる可能性がある。

 疾患はCOVID-19感染症だけではない。多くの病いに加え、COVID-19とも戦いながら世界のために発信を続ける英明な医療人に心より敬意を表したい。また、今まさに重症の命と向き合っている当該病院の皆様に、そしてその病院を支えている多くの皆様に、深謝いたします。
 
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