週刊あはきワールド 2021年5月5日号 No.712

しくじり症例から学ぶあはき臨床 その10

すりこまれるな!

~いい学生になってはいけない話~

あい鍼灸&エステティック 天野聡子 


◎過去記事≫≫  もっと見る
 
 4月から入学されたみなさま、鍼灸の世界へようこそ!

 3月に卒業されたみなさま、頑張っていきましょう。

 鍼灸学校へ入学したいと思うきっかけの一つに「東洋医学を学びたい」というのがあると思います。なかなか独学が難しい学問でもあります。なぜか? 「東洋医学は哲学」だからです。どう身体を捉えるか? 身体の中で何が起こっているのか、なぜ身体ははたらく細胞Blackになっちゃったのか? を考える法則があり、理論に沿って考えていく。そんな感じでしょうか? 西洋医学が科学で病気を解決しようとするなら、東洋医学は哲学で病気を解決へ導く手立てを探ろうとします。

 ところがです。東洋医学を学びたいと思って鍼灸学校に入学したのに、卒業するときには美容鍼やりたい! っていう鍼灸師が数多く生まれるのはどうしてしょう? それなら初めから美容師とかメーキャップアーティストとかエステティシャンとか目指せばいいのに。あなたのお友達がそんなこと言い出したら、学生時代になにがあった? どんな教育されたんだ? と思っちゃいませんか?

 しくじり症例をお願いしますというご依頼ですが、症例じゃないんだけど、私が一番苦しんだことを書きます。

 それは「すりこみ」です。

私が一番苦しんだのは間違った「すりこみ」だった

 例えば、患者さんは腰が痛くて鍼灸院へ来たとします。ひととおりの治療が終わって、鍼灸師は「よし! 脈が整いました」「舌が変わりました」と言いました。だから大丈夫! と。

 これ、おかしくないですか?

 患者さんは脈を変えたかったわけでもないし、舌の色を気にしていたわけでもありません。腰の痛みをとってほしいというのが患者の希望です。治療費の対価は腰の痛みが取れた、せめて軽減した、ではないですか? 腰の痛みは取れていないのに、脈は整ったので大丈夫! って堂々と言ってのける鍼灸師ってほぼ詐欺に近くないですか? ということを考えた時期がありました。

 その辺りから、私の治療法に刺絡が加わり、治療点を圧痛、硬結で取るというように変わっていったように思います。お灸も同じく虚したところにお灸ではなく、圧痛硬結が治療点という深谷灸法です。つまり、患者さんにも理解できる、見えるもの、触れるもの、感じられるものを指標にして患者さんと共有するという方法に変わっていったということです。

 私は学生時代、中医学にドハマリしていました。面白くて、面白くて、中国の教科書とか中国語の論文とか読んで喜んでました。中医学関係の鍼灸院、漢方診療所、上海の大学病院にも見学に行かせてもらいました。中医学という共通言語を使うと医師、鍼灸師、中国人の先生、誰とでも話ができるのです。先生方と話をするのが楽しくて、面白くて、こういう現場で仕事がしたいと思いました。

 卒業も近くなったある時、見学先で患者さんに鍼を打ってみろと言われました。こういう弁証で配穴はこうしますって話をして、鍼をさせてもらいました。すると先生が言ったんです。「これでは効かない。君、鍼はヘタだね」。

 理論は合ってる、配穴もまあよしとしよう。でも、その鍼は違う。

 これを理解するのに2年ばかり費やしました。

 学校の実習授業で、先生が変わると同じ経穴でも全然違う場所に訂正されたってことありませんでしたか? わりとよくあることですね。私も学生時代はよく頭がウニってなっていました。先週の授業ではこっちってゆうたやん! ってことがよくありました。適当なこといいやがって! って思っていました。今のワタシならそりゃそうでしょと思えるし、多分、同じことをやるし、毎週違うことを言うと思います。でもこれ、臨床家には必要で不可欠なことなんです。

 私は、卒後、病院のリハビリ室と病院内鍼灸院で仕事をしていた期間が3年ほどあります。当時は患者数が多く、リハビリ室はご近所さんの井戸端会議状態でした。リハビリの隣で鍼灸院を開けたので患者に困ることはありませんでした。とにかく数だけは触っていました。

 その時に気がついたことは「人間は生きている」っていうことです。

 ツボは動く、反応は変わる。鍼を打つとまた変わる。鍼をした後、灸をした後、刺絡した後、使う刺激の種類が変わればグラディエーションのようにどんどん変わっていく。もう少し経つと、変わってない! ということにも気がつきました。わからなくなって、私の治療は効いてますか? ってド直球で患者さんに聞いていた時期もありました。痛みの場所も変わるし、患者の言うことも変わるし、変わらないこともある。変わった! 変わってない! が触って自覚できるようになるのに私は2年かかったということです。

 脈も舌も理論も大事です。でも、これは鍼灸師側の感覚。患者さんの感覚は変わったのでしょうか。脈が整ったら腰もラクになったのでしょうか。主訴が変わらなければ治療の意味がありません。ただ鍼してもらった、鍼してあげただけのこと。

 私は、理論がわかれば配穴が出る。そしたら治療ができるよねっていう「すりこみ」から抜け出すのに時間がかかりました。

 鍼をしながら、触って患者が変わったとわかる、そしてその次の段階は、変わっていないがわかる。これができるようになるとリピートにつながっていきます。今日、何ができて、何ができなかったか? この後、症状はどう変化するかしないか? どれくらいの回数治療を続ければいいのか? そういうことが自信を持って言えるようになるからです。

(続きはログイン・ご購読後にお読みいただけます)

この記事の続きをお読みいただくためには、週刊『あはきワールド』(有料コンテンツ)のご購読手続きが必要です。

ご購読の申し込み ログイン(ご購読済みの方はこちら)




トップページにもどる